昨年の新車販売台数が発表された。総合1位に輝いたのはホンダの軽自動車N‐BOX。総合2位はトヨタのヤリスだが......実は日本市場でガチ売れしているのはスーパーハイトワゴンだという。どういうこと? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
■20万台以上を売ったN-BOX
渡辺 1月11日、自販連(日本自動車販売協会連合会)と全軽自協(全国軽自動車協会連合会)が2022年1~12月の年間車名別販売台数ランキングを発表しました。見事、総合1位に輝いたのは、20万台以上を売ったホンダの軽、N-BOXでした。
――スゲェー!
渡辺 現行N-BOXは21年にホンダ四輪車史上最速の累計販売200万台を達成した大人気モデルで、22年の上半期新車販売台数もトップ。ちなみに昨年、国内で販売されたホンダ四輪車の売れ行きを見ると、N-BOXの占める割合は36%に達します。単純計算すると、昨年日本で販売されたホンダの新車の3台に1台以上がN-BOXだった。
――売れに売れているわけですね。どんな人がN-BOXを買っているんですか?
渡辺 繰り返しになりますが、N-BOXは累計200万台を突破しており、もはや定番車種です。販売店に聞くと、先代モデルからの乗り替えが非常に多いと。加えて、ホンダや他社のコンパクトカーからのダウンサイジングの需要も大きいようです。
――ズバリ、N-BOXの強さの秘密は?
渡辺 N-BOXの現行モデルは、17年のデビューですが、ホンダは常にアップデートを行なってきました。21年12月には全車に電動パーキングブレーキを搭載。さらに先進安全運転支援システム「ホンダセンシング」のACC(アダプティブクルーズコントロール)を渋滞追従機能付きへと進化させています。
――大人気モデルにもかかわらず、商品力を高め続けてきたと。渡辺さんはN-BOXを徹底試乗されています。スゴいと思う部分はどこです?
渡辺 現行モデルはプラットフォームを刷新して、ボディやサスペンションの取りつけ剛性を高めたことで乗り心地もいっそう快適になっています。
音も静かで、インパネなど内装の造りも上質。フロントシートの座り心地も従来型以上に快適になっています。先代型も爆売れしましたが、現行型は販売台数をさらに伸ばすため、高いコストを費やして開発しています。
――N-BOXはホンダが誇るドル箱であると?
渡辺 そうとも言えません。というのも、軽自動車は薄利多売の世界です。さらにいうとN-BOXは、価格がかぶるホンダのフィットやフリードなど、粗利が少し多い車種の顧客も奪う"モンスター"。ホンダにとってN-BOXの爆売れというのは、痛しかゆしなのが本音かと。
■ダイハツが手がけたトヨタの大人気車
――22年の新車販売総合ランキング2位と3位は?
渡辺 N-BOXに続く2位はトヨタのヤリス、3位も同じくトヨタのカローラということになっていますが......ヤリスとカローラに関して言うと、いずれも複数のボディタイプを合算した、いわばシリーズ全体の数字なんです。
――どういうことですか?
渡辺 ヤリスの登録台数は、16万8557台となっていますが、この数字の中身は5ドアハッチバックのヤリス、SUVのヤリスクロス、そしてスポーツモデルのGRヤリスの3タイプの合算です。
各タイプの登録台数の内訳を見ると、コンパクトカーのヤリスとSUVのヤリスクロスが各49%で、残りの2%がスポーツモデルのGRヤリスです。ヤリスとヤリスクロスは、一般的に見たら別の車種なので、登録台数を分割すると、それぞれの22年1~12月におけるデータは約8万2600台。月平均だと約6900台になります。
――なるほど。
渡辺 ちなみに3位のカローラシリーズでは、登録台数が多いのは約45%を占めるSUVのカローラクロス。22年の月平均は約5000台です。ちなみに総合4位のノートも専用のワイドボディを採用したノートオーラなどを含んだシリーズの累計です。
――シリーズ累計を除くと、総合2位はどのクルマになる?
渡辺 トヨタのルーミーです。ルーミーの22年の登録は10万9236台でした。月平均は約9100台。ヤリスやヤリスクロスに比べると、月当たり2200台ほど多い。軽自動車のダイハツ・タントの月平均は約9000台なのでルーミーが総合2位。僅差で総合3位がタントという順位になります。どちらもスーパーハイトワゴンですね。
――えっと、ルーミーってどんなクルマでしたっけ?
渡辺 トヨタ傘下のダイハツが企画から生産まで手がけたコンパクトカーのスーパーハイトワゴン。デビューは16年です。ダイハツのトール、スバルのジャスティと兄弟モデルになりますね。
――ルーミーの乗り味は?
渡辺 路上の細かなデコボコを伝えやすく、乗員は上下に揺すられます。エンジンも1Lのノーマルタイプはパワー不足で、登坂路ではノイズが車内に響く。ターボモデルも2500回転付近のノイズが気になりますね。
――ではなぜ売れている?
渡辺 軽自動車で人気の高いN-BOXやタントのようなスライドドアを備えたスーパーハイトワゴンを、シンプルに小型車サイズへ移行したことでしょうね。販売店に聞くと、「スーパーハイトワゴンは欲しいけれど、軽自動車は避けたい」と考えるユーザーが意外と多いそうです。
――ふむふむ。
渡辺 また、一部のグレードを除けば最小回転半径は4.6mで、小回りも利いて運転しやすい。全高は1735㎜もあり、車内は広いです。後席の頭上と足元にも十分な余裕があります。
――ほかに優れた点は?
渡辺 収納設備も多く、500mlの紙パックが入るカップホルダーも用意しています。後席を格納すると広い荷室になり、その床には汚れを落としやすい素材が採用されており、タイヤが汚れた自転車を積んだときの後始末もしやすい。
さらに後席のドアはスライド式なので、狭い場所での乗降性もいい。加えて、軽自動車のスーパーハイトワゴンと比較すると、コンパクトカーですから動力性能に余裕がある。価格も手頃なので買い得感は強いですね。
■スーパーハイトワゴンが日本市場で売れるワケ
――話をまとめると、厳密に定義すると22年の国内新車販売の総合1位は20万台以上を誇る軽のN-BOX、総合2位は登録車のルーミーで、3位が軽のタント。そして、この3台はスーパーハイトワゴンという共通点があると。
渡辺 そのとおりです。スーパーハイトワゴンは、先に述べたとおり、広い室内空間とスライドドアが魅力です。
――なぜ広い室内空間とスライドドアが日本で好まれる?
渡辺 スーパーハイトワゴンが売れ行きを伸ばす背景には、ミニバンの存在が挙げられます。ミニバンはホンダの初代ステップワゴンなどが発売された90年代の中盤から、急速に普及しました。
幼少期からミニバンに慣れ親しんできた世代が、今は子育てをしている。そうなると便利さを知っているので、スライドドアを装備し、室内の広いクルマを選ぶ。
また子育てを終え、ミニバンを手放した世代も、ミニバンの利点である広い室内とスライドドアが忘れられません。特にスライドドアは狭い場所でも気兼ねなく乗り降りできるため、一度味わうとヤミツキに。
――軽自動車のN-BOXとコンパクトカーのルーミーの維持費の差はどれぐらい?
渡辺 金額が最も異なるのは自動車税(軽自動車税)ですが、軽自動車は年額1万800円、ルーミーのような排気量1L以下のエンジンを搭載する小型車は年額2万5000円ですね。
――価格差は?
渡辺 売れ筋となるN-BOXのカスタムLが178万9700円~、ルーミーのカスタムGは192万4000円~で、13万4300円の違いですね。軽自動車と同等の価格でコンパクトカーが手に入ることも、ルーミーが人気を得ている理由だと思います。
――確かに出費に関しては、それほど大きな差はないんですね。スーパーハイトワゴンの鬼売れはしばらく続く?
渡辺 今の新車価格は、15年ほど前と比べて、1.2~1.4倍に高まっています。例えば07年に販売されたトヨタのミニバン、ノアのXグレードは、価格が203万7000円でしたが、現行ノアのXグレードは267万円です。つまり価格が1.3倍になりました。ファミリーカーを購入する場合、価格を200万円と想定することが多い。
この目安は今も昔も変わりません。ですから15年前に販売されていた203万7000円のノアXは、まさにファミリーカーの購入にドンピシャの価格だった。その価格帯に収まる車種が、今はN-BOXやルーミーになったと。
――現在、日本はなかなか賃金が上がりません。それもスーパーハイトワゴンの人気に関係があるのでは?
渡辺 はい。昨年9月に国税庁が公表した「令和3年分 民間給与実態統計調査」によると、令和3年の日本の平均給与は443万円です。この金額は07年頃とほぼ同じ。つまり給与は増えていないのに、クルマの価格は1.2~1.4倍に値上がりした。
特にファミリーカーを購入する若い世代は年収300万円台の方も多い。そこで、手の届く価格で室内が広く、スライドドアを持つ、軽自動車やコンパクトカーのスーパーハイトワゴンが選ばれているというわけです。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員