「カローラ史上最強の怪物」と呼ばれるのが、GRカローラだ。爆誕の経緯は? 本当の実力は? 開発段階から取材し、サーキット試乗もブチカマした自動車研究家の山本シンヤ氏が解説する。
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■史上最強のカローラが誕生したワケ
山本 トヨタ(トヨタガズーレーシング)の「GRカローラRZ」と「GRカローラ モリゾウエディション」を「袖ヶ浦フォレストレースウェイ」(千葉県袖ケ浦市)でサーキット試乗しました!
――昨年6月1日に世界初公開されて大きな話題を呼んだ〝シン・カローラ〟ですね。もう販売されている?
山本 実は新型コロナ感染拡大や半導体不足などの影響で、まずはGRカローラRZが500台、GRカローラモリゾウエディションは70台の抽選販売に。昨年12月2日に抽選の受け付けを実施。今年1月13日に当選者が発表され、デリバリーは今春頃です。
トヨタに聞くと、「今後の生産状況を見ながら追加販売を検討していく」とのこと。なので、欲しい方は焦らずに。
――そもそもですが、カローラがデビューしたのはいつ?
山本 カローラの初代は1966年に誕生し、以来、150以上の国と地域で販売。累計販売台数は5000万台以上を誇る超ロングセラーです。
――つまり、トヨタにとってカローラは非常に重要なモデルであると?
山本 そうです。恐らく、世界のどの国に行っても見かけるクルマでしょう。さらにWRC(世界ラリー選手権)でトヨタが初優勝を飾ったのはカローラで、トヨタのモータースポーツ黎明期(れいめいき)に大活躍したクルマなんですよ。
――へぇー!
山本 ところが、50年以上の歴史を重ねるうちに、カローラ本来の若々しくはつらつとしたイメージが薄くなった。特に日本市場はそれが顕著でクルマ好きからもソッポを向かれる存在に。
そんな現状を打破するべく、トヨタの豊田章男社長が「お客さまをとりこにするカローラを取り戻したい」とGRカローラの開発をスタートさせました。
――開発はどう進められた?
山本 当初はGRヤリスのパワートレイン/ドライブトレインを流用したお手軽モデルだったようですが、マスタードライバーの豊田社長から猛烈なダメ出しを受けたと聞きました。ウワサではプロジェクト中止の案もあったとか。
――マジか!
山本 豊田社長は、「発売を延期してもいいので、納得いくモデルにしろ!」とげきを飛ばし、開発陣が覚醒。GRカローラに水素エンジンを搭載してスーパー耐久シリーズに出場。これにより新技術である水素エンジンを鍛えつつ、GRカローラの車両を総合的に鍛え直しました。
つまり、トヨタが掲げる「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を愚直に実践したわけです。
――GRヤリスはラリーで鍛えたと聞きましたが、GRカローラはレースで鍛えた?
山本 マスタードライバーの豊田社長を中心に、プロドライバー、社内の評価ドライバー、エンジニア、メカニックなどが一丸となり、ありとあらゆる道で走り込みを実施。徹底的に不具合を洗い出し、改善に改善を重ねました。
――で、爆誕したのが、GRカローラだと。スペックは?
山本 GRヤリスに搭載した1.6リットル直列3気筒インタークーラーターボエンジンを徹底的に磨き上げ、最高出力はカローラ史上最強となる304馬力を達成。スポーツ4WDシステム「GR-FOUR」もGRカローラ仕様にセットアップし直され、日常生活での使い勝手と走る楽しさを高次元で両立しています。
現時点では6速MT(マニュアルトランスミッション)のみの設定ですが、現在鋭意開発中の8速DAT(ダイレクトオートマチックトランスミッション)とのマッチングはGRヤリス以上に良さそうですよ。
――ちなみに5ドアなのに2シーター(!)仕様のGRカローラモリゾウエディションの中身はどんな感じ?
山本 モリゾウこと豊田章男社長が強くこだわりを持つ「お客さまを魅了する野性味」を追求したグレードですね。リアシートを撤去し乗車定員を2名としたことで、RZより約30㎏の軽量化に成功。ボディ剛性も強化しています。
パワートレインは最大トルクを370Nmから400Nmへ変更。さらに6速MTのギア比も専用設定にすることで加速性能を大幅に向上させています。
――2台の違いは?
山本 明確にあります。RZはサーキットではクルマを振り回して楽しむ走りも得意ですが、5ドア5人乗りのハッチバックとして日常使いをこなす快適性も両立! 一方、モリゾウエディションはサーキットが本拠地のモデルより研ぎ澄まされたハンドリングで、タイムを詰めるような走りが得意です。
日常の乗り心地はRZよりはハードですが、脳天が揺さぶられるような硬さではなく、「しなやかな硬さ」といった印象です。想像よりは快適ですよ。
――要するに店内の正規メニューがRZだとすると、モリゾウエディションは裏メニュー的な感じなんですかね?
山本 そのとおりです。おいしさは変わりませんが、モリゾウエディションはより〝刺激〟にこだわる人向けという仕上がりですね。
――ひとつ気になるのは、なぜモリゾウエディションはGRの最強モデルに与えられる「GRMN(ガズーレーシング・チューンド・バイ・マイスター・オブ・ニュルブルクリンク)」を名乗らない?
山本 開発陣に聞いたら、「GRMNは実戦を経験して鍛えたモデルに与えられる称号」とのこと。今後、あらゆるモータースポーツカテゴリーに投入され、そこでの知見やノウハウを得てから生まれるモデルだと。それがいつになるかはわかりませんが、取材の感触からすると、登場する予感しかしません!
●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営