高速道路の料金問題などを取材してきた渡辺氏いわく、「日本の高速道路が無料化されない理由のひとつがこの写真に集約されていますね」。その理由とは?高速道路の料金問題などを取材してきた渡辺氏いわく、「日本の高速道路が無料化されない理由のひとつがこの写真に集約されていますね」。その理由とは?

2月10日、政府は高速道路の有料期限を50年延長する関連法の改正案を閣議決定した。なぜ無料化できないのか? 長年、高速道路に関する諸問題を追いかけてきたカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏に聞いた。

■2050年までに10兆円以上の維持費

渡辺 2月10日、政府は国交省が通常国会に提出した、高速道路の有料期限を50年延長する関連法の改正案を閣議決定しました。

――つまり、国と国交省は高速道路の無料化を事実上撤回したわけですよね?(怒)

渡辺 まぁ、お役所的には「棚上げ」という言葉のほうが適切だというでしょうけどね。

――これまでの高速道路無料化の流れを順を追って説明してください。

渡辺 まず小泉政権時代の2005年に道路関係四公団が民営化されました。その際、建設費などの借金40兆円を2050年までに返済し、それ以降は高速道路の料金を無料にするとしていました。

――2010年の民主党政権時には高速道路無料化の社会実験が行なわれましたよね?

渡辺 民主党はマニフェスト(2009年)に高速道路の無料化を掲げていましたが、肝心の財源を捻出できず、さらに東日本大震災などの影響もあり事実上の断念に追い込まれました。

――高速道路の無料化が遠のく事故もありました。

渡辺 12年に中央自動車道の笹子トンネルで起きた天井板崩落事故ですね。この事故を踏まえ、全国の高速道路の老朽化対策費を賄うべく、14年に第2次安倍内閣が料金徴収期限を2065年まで15年間延長しました。

――そして今回、65年からさらに50年延長したと?

渡辺 そのとおりです。2115年というのは、今年生まれた子供が92歳になる年ですね。私もあなたも確実にあの世に行っている(笑)。

――なぜ国交省は2115年なんて途方もない数字を算出してきたんでしょうか? 

渡辺 国交省は全国の高速道路の老朽化対策、維持費、地方部の4車線化など、さまざまな費用がかかるためとしています。箱根新道などのように独立した一般有料道路が無料化された実績は確かにあるにはあるんですが、正直、日本全国の高速道路をすべて無料にするというのは現実的でないと私は思いますね。

――それはなぜ?

渡辺 債務残高の返済もありますし、新規の高速道路建設や老朽化した区間の造り替え、点検や補修、改良には恒久的に莫大(ばくだい)な費用がかかる。維持費だけでも2050年までに10兆円以上が必要なんて試算もあるんですよ。

――でも、ドイツは高速道路(アウトバーン)が無料です。アレはどういう仕組みなんですか?

渡辺 ドイツのアウトバーンは、トラックなどを除くと、乗用車は基本的に無料です。日本との違いですが、日本の高速道路は、かつて民営化される前の道路公団が借金をして建設した、いわゆる公団方式なんですよね。

――一方のドイツは?

渡辺 国が公共事業として、税金を使って建設した道路なんです。だからアウトバーンは借金がない。とはいえ、先にも述べたとおり、1995年から12t以上、15年から7.5t以上の大型トラックは有料になっています。つけ加えると、昨今は乗用車の有料化も検討されています。

――ちなみにアウトバーンのメンテナンス費用は?

渡辺 国と州が税金から拠出して賄っています。

■日本の高速道路に大改革が必要なワケ

渡辺 日本の高速道路の無料化を遠ざけている理由のひとつに、土地に余裕がないというのも挙げられますね。

――どういうこと?

渡辺 日本は土地に余裕がないため、高速道路を建設するには橋、トンネル、地下化などが必要になる。特に都市部は世界的にも珍しい非常にアクロバチックな交通環境になっています。一方、地方の高速道路に目を向けると、高低差の多い山間部を貫通している地域も存在しますし、何より日本は地震が多い国なので耐震基準が厳しい。

――当然、建設費やメンテナンスの費用は多くかかると。

渡辺 また、国や国交省の肩を持つわけではありませんが、こんなにも高速道路のサービスエリアやパーキングエリアが安全で、快適で、充実しているのは日本だけ。近頃では温泉や宿泊施設が併設されているサービスエリアもある。もちろん、高速道路の舗装も入念に整備されています。

――でも、高速道路無料化の事実上の棚上げにはモヤモヤする人が多いと思います。

渡辺 国や国交省からの丁寧な説明が必要です。それなのに国や国交省の高速道路に対する根本的な考え方は、かつての道路特定財源のように「道路関連の各種費用は自動車ユーザーが負担すべき」という空気が漂う。本来、自動車は物流や移動の自由を担う乗り物であり、道路関連の費用は国が負担するべきです。

――しかし、その国は2115年まで高速道路の利用者から料金を徴収します。

渡辺 最近、岸田総理が「異次元の少子化対策」を口にしていますが、日本はすでに人口減少社会に突入しています。当然、今後は自動車の保有台数も減少傾向を強め、高速道路の利用者も減るでしょう。

すると、料金の値上げは避けられず、物流を直撃し、最終的には物価高を引き起こす可能性も。つまり、今後の日本を考えたら高速道路の無料化どうこうではなく、抜本的な大改革が必要なのです。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員