三菱自動車からスーパーハイトワゴンの新型軽自動車「デリカミニ」が爆誕! 早くも予約が殺到しているという。そこで、自動車専門誌の編集長のキャリアを持ち、〝新車購入の神様〟と呼ばれるカーライフジャーナリスト渡辺陽一郎氏にその全貌を解説してもらった。
渡辺 今年1月13日に開催された東京オートサロン2023に、三菱自動車(以下、三菱)からデリカミニが出展され、予約受注の開始から2週間で4000台を受注しました。
――ネットでも大きな話題になっていましたね。渡辺さん、この台数はスゴいんですか?
渡辺 予約受注の評価はメーカーや車種によって異なります。例えば2017年に発売された現行の「N‐BOX」は、発売後1ヵ月の受注が5万2000台でした。また、2009年に登場した3代目プリウスは、発売後1ヵ月で18万台を受注しています。
――つまり、デリカミニの4000台は少ない?
渡辺 いいえ。人気は高いですね。
――どういうことですか?
渡辺 三菱の販売店舗数を見ましょう。2021年のデータですが、日本には約550店舗とされ、トヨタの約4600店舗に比べるとその数は12%。デリカミニの予約受注が4000台なので、単純計算すると1店舗当たり約7台となる。トヨタなら3万2000台の受注規模なのです。
――ふむふむ。そう考えると確かにスゴい人気ですね。
渡辺 しかもデリカミニは厳密に定義すると完全な新型車ではないのもポイントです。
――えっ、そうなんですか?
渡辺 車名は新しいのですが、eKクロススペースの後継と言いますか、ある意味、マイナーチェンジ版なのです。もちろん、内外装、サスペンションなど、大幅な改良や変更が施されているのは言うまでもありませんが。
――デリカミニのベースはeKクロススペースであると?
渡辺 そのとおりです。従って23年3月中にeKクロススペースは生産を終えます。このように販売網が約550店舗で、実質的にマイナーチェンジ版のデリカミニが、4000台の予約受注を達成した。そのため注目度が非常に高いんですね。
――デリカミニの人気のワケは?
渡辺 まず全高が1700mmを超えるスライドドアを備えた軽自動車のスーパーハイトワゴンであること。現在、日本市場で新車として売られる軽乗用車の50%以上が、N‐BOX、タント、スペーシアなどのスーパーハイトワゴンです。
――デリカミニもスーパーハイトワゴンであると。ほかに理由は?
渡辺 外観のSUV感覚が挙げられます。ただし、eKクロススペースもSUV風で、その顔立ちは人気ミニバンのデリカD:5に似ています。しかし、デリカミニの顔は「デリカ」を名乗りながら、デリカD:5から離れています。三菱にとって賭けだったと思いますが、デリカミニの新しい顔が共感を得て、人気を高めましたよね。
渡辺 三菱によると、今後はダイナミックシールドと呼ばれる力強い顔立ちを継承しながらも、車種ごとの個性を重視するそうです。コンセプトは共有しても、金太郎飴にはしない新しい方針で、世界的な取り組みになります。
――車名も人気に拍車をかけた気がします。いかがです?
渡辺 ええ。人気の高いSUVの要素を取り入れ、デリカミニという車名は良かった。顔はデリカD:5と違っても、デリカは認知度が高くファンはなじみやすい。また、昨年11月にデリカミニをサイトで公開し、東京オートサロン2023に出展する流れも功を奏したと思います。年末年始を通じて話題になりましたからね。
――三菱の販売店の反応が耳に届いているそうで?
渡辺 販売店では「今は三菱の軽自動車からの乗り替えが中心ですが、他社のクルマを使うお客さまも注目しています」と語っていました。今後は三菱以外からの乗り替えが増えるかも知れませんね。ちなみに納期を尋ねると「今のところ約5ヵ月」とのことでした。
――価格はどんな感じ?
渡辺 予約受注では価格も明らかになっています。2WDの場合、ノーマルエンジンのGは180万4000円、上級のGプレミアムは198万5500円です。ターボのTは188万1000円で、Tプレミアムは207万4600円です。Gプレミアムは、Gの装備内容に、運転支援のマイパイロット、右側スライドドアの電動機能、アルミホイールなど31万円相当の装備を加えて、価格の上乗せは約18万円です。従ってGプレミアムの買い得感は高い。
――ターボモデルは?
渡辺 登坂路の多い地域なら、GプレミアムをターボのTプレミアムに上級化するといいでしょう。約9万円の価格アップでパドルシフトも加わるため、ターボの正味価格は7万5000円と割安です。ターボは最大トルクがノーマルエンジンの1.7倍に強化され、WLTCモード燃費は約8%しか悪化しません。とても買い得です。
――ズバリ、渡辺陽一郎の推奨グレードはどれ?
渡辺 少し高価ですがTプレミアムがベストです。またTプレミアムの4WDは約16万円の上乗せで、タイヤサイズが変わり最低地上高も10mm拡大します。悪路を走りやすいです。奥が深い注目車ですよ!
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員