2月6日、日仏3社連合は資本関係の見直しについて記者会見。(左から)日産自動車の内田誠社長、ルノーのスナール会長、三菱自動車の加藤隆雄社長、ルノーのデメオCEO2月6日、日仏3社連合は資本関係の見直しについて記者会見。(左から)日産自動車の内田誠社長、ルノーのスナール会長、三菱自動車の加藤隆雄社長、ルノーのデメオCEO

日産、ルノー、三菱の3社が記者会見を行ない、提携関係の見直しを発表! いわゆる「不平等条約」が急に解消された背景には何があるのか? 今後の日産はどうなるの? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏が解説する。

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■資本関係見直しで、日産はどうなるのか?

――2月6日、日産とルノーは出資比率を是正し、15%の株式を相互に保有することに合意したと発表しました。これで日産とルノーは対等な関係になったと考えていいんでしょうか?

渡辺 はい。これまでルノーの日産に対する出資比率は43%、一方の日産はルノーに対して15%という割合でした。加えてフランスの国内法の関係で、日産にはルノーに対する議決権がなく、経営面でいうと、日産は実質的にルノーの支配下に置かれていました。

――どうしてこうなった?

渡辺 日産の経営不振です。過去を振り返ると、日産は第2次世界大戦前に自動車産業での地位を確固たるものにしていた。戦後も1962年まではトヨタを上回る国内販売1位に輝くメーカーでした。

ところがその後はトヨタに販売面で負け、90年代に入ると業績が悪化。90年の日産の世界生産台数は308万台でしたが、95年は279万台、2000年は260万台にまで落ち込みました。

――ふむふむ。

渡辺 99年3月期の日産の有利子負債は2兆9000億円に達し、企業としての存続まで危ぶまれました。そこに現れた救世主がルノーで、日産の株式の36.8%を取得しました。そしてルノーから送り込まれたカルロス・ゴーン氏が日産のトップに立ち、激しいリストラを行ないました。

――いつルノーは日産の株式保有比率を高めた?

渡辺 02年に43.4%に引き上げました。対して日産が保有するルノー株は15%。簡単に言うとルノーは助ける側、日産は助けられる側なので出資比率にも差が生じたと。

――提携後の日産の業績は?

渡辺 リストラと商品開発の効率化などにより業績は00年以降、急速に回復しました。05年の日産の世界生産台数は351万台ですから、00年の260万台に比べて1.4倍に増えた計算になりますね。

――業績回復の一手は?

渡辺 新型車の投入です。日本市場には02年にマーチ/キューブ/フェアレディZ/エルグランド、03年にはティアナとプレサージュ、04年はティーダ/ラフェスタ/ムラーノ/フーガ、05年にはノート/セレナ/ウイングロード/ブルーバードシルフィという具合に、怒濤(どとう)の反転攻勢を仕掛けました。

特にティーダ、キューブ、ノート、セレナなどの売れ行きは絶好調でしたね。いずれにせよ、この新型ラッシュが日産の業績回復に大きく貢献したわけです。

――業績が回復しても資本関係は継続していた?

渡辺 むしろ関係を深めていきました。16年には窮地に陥った三菱自動車が日産とルノーのアライアンスに加わり厚みを増しました。しかし、18年にカルロス・ゴーン氏が金融商品取引法違反容疑で逮捕されると、19年にはルノーが日産に経営統合を提案、世界中に衝撃が走りました。ただ、これは日産が拒否しました。

――目まぐるしいですね。

渡辺 ええ。そしてご存じのように、19年の末にはカルロス・ゴーン氏がレバノンへ逃亡しました。

――近年の日産とルノーの販売台数は?

渡辺 21年の世界生産台数は日産が407万台で、ルノーは270万台。かなり大差がついていました。加えてカルロス・ゴーン氏が去り、日産の内部には「今こそ資本の不平等を解消すべきだ!」という機運が高まっていた。

――しかし、なぜルノーは急に資本関係の見直しに舵(かじ)を切ったんですか?

渡辺 EUは昨年、35年以降にガソリン車など内燃機関車の販売を事実上禁止することで合意しました。だからEUが主戦場のルノーはEVの開発を急がねばなりません。そこでルノーはEVとソフトウエアを開発する新会社を設立し、日産にも出資を求めています。

――つまり、ルノーは多額の開発資金が必要だったと?

渡辺 ほかにも要因はあります。実はルノーにとってロシアは欧州の次に重要な市場だったんですが、ウクライナ侵攻により撤退を余儀なくされ、赤字に転落しています。このロシアの問題も、ルノーの日産に対する出資比率の引き下げに影響を与えた可能性はあるかと。

――資本関係の見直しで日産は今後どうなる?

渡辺 日産の過去を振り返ると、11年から19年頃までは、国内で新型車を1、2年に1車種しか発売していませんでした。そのため、日産は05年は国内で87万台の新車を販売していたのに、10年は65万台、15年は60万台、20年は47万台と急落していました。

しかし、20年以降はノート、ノートオーラ、アリア、サクラ、エクストレイル、キックス、フェアレディZと、矢継ぎ早に新型車を投入しています。この流れを今後はさらに加速させるでしょうね。

――これについて、販売現場からはどんな声が出ている?

渡辺 販売店からは、「以前の売れ筋車種は実質的にルークス、ノート、セレナのみだったが、最近はサクラや新型エクストレイルの投入で選択肢が広がった」と歓迎の声が多いですね。現在は半導体を含むパーツ不足で納期が遅れ、販売台数は伸びていませんが、新型車が増えていい流れになっているようです。

■国内市場が期待する日産のクルマ

――今後、国内市場にどんな新型車が登場しそう?

渡辺 私は2月2日に公開されたコンセプトカーのマックスアウトに注目しています。ふたり乗りのスポーツカーで、EVの4WDシステム「e-4ORCE」も搭載しています。

日産はEVの主力にリーフを据え、軽自動車のサクラ、上級SUVのアリアも加えました。そうなると次はスポーツカーしかありません。マックスアウトの市販版が登場するかもしれませんよ。

初公開の2シーターEV「マックスアウト」 2月2日、日産グローバル本社ギャラリー(神奈川県横浜市)で世界初公開された2シーターのEVオープンカー。市販化はあるのか!?初公開の2シーターEV「マックスアウト」 2月2日、日産グローバル本社ギャラリー(神奈川県横浜市)で世界初公開された2シーターのEVオープンカー。市販化はあるのか!?

――ネットでは「シルビアの後継か!?」と話題になっていましたね。そのほかに期待したい車種は?

渡辺 日産自慢のe-POWERを搭載する実用的で買い得なコンパクトカーでしょう。以前のキューブのように、内外装が穏やかな雰囲気で、快適なe-POWER搭載車が出たら買いたい人は多いでしょうね。

あとはコンパクトなミニバンも欲しい。要するに今、売れに売れているトヨタのルーミーやシエンタに相当する車種が日産にも必要だと思います。

インフィニティ Q60 現行Q60は2016年にデビュー。日産のスカイラインに相当するクーペで、405馬力版も用意インフィニティ Q60 現行Q60は2016年にデビュー。日産のスカイラインに相当するクーペで、405馬力版も用意

――クルマ好きにピッタリなスカイラインクーペは?

渡辺 日本では廃止されていますが、海外では日産の高級ブランド「インフィニティ」からQ60として販売されているんですよ。

インフィニティ QX50 コンパクトクロスオーバーSUV。現行モデルは2代目。VCターボは最高出力268馬力を誇るインフィニティ QX50 コンパクトクロスオーバーSUV。現行モデルは2代目。VCターボは最高出力268馬力を誇る

――マジか! 

渡辺 実は日本で買えない魅力的な日産車が海外には多い。インフィニティQX50は全長が約4.7mのSUVで、可変圧縮比のVCターボも搭載しています。

かつて日本で一世を風靡(ふうび)したSUVのジュークは、現在、欧州で2代目にフルモデルチェンジ! そしてスポーティな雰囲気を備えたコンパクトカーのマイクラも注目の一台ですね。

インフィニティ QX50 コンパクトクロスオーバーSUV。現行モデルは2代目。VCターボは最高出力268馬力を誇るインフィニティ QX50 コンパクトクロスオーバーSUV。現行モデルは2代目。VCターボは最高出力268馬力を誇る

――なぜ海外の魅力的な日産車を国内で売らない?

渡辺 日本で販売する予定のない車種は国内法規への対応も、開発段階では考慮していません。従って日本で売るには設計変更などのコストが必要になってしまう。

ちなみに販売店からは、「QX50やマイクラなら、売る余地は十分にある。スカイラインクーペも、発売されたら必ず買うというお客さまがいる。われわれが責任を持って販売するから、ぜひ投入してほしい」という声が飛んでいます。

マイクラ マイクラは日本のコンパクトカー・マーチの欧州向け車名。現行モデルは2017年デビューマイクラ マイクラは日本のコンパクトカー・マーチの欧州向け車名。現行モデルは2017年デビュー

――今こそ国内でも販売してもらいたいですよね!

渡辺 今回、日産がルノーとの不平等な出資比率を是正した背景には、国内市場を愛する気持ちがあったからです。魅力的な日産車が続々登場することを期待しましょう!

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員