1月10日に発売した(左)HEV(価格275万~392万円)、3月15日に発売する(右)PHEV(460万円)に注文が殺到。HEVの年内分はすでに完売のウワサも...... 1月10日に発売した(左)HEV(価格275万~392万円)、3月15日に発売する(右)PHEV(460万円)に注文が殺到。HEVの年内分はすでに完売のウワサも......

見た目も走りもチョー激変し、大きな話題を呼んでいる5代目プリウス。開発段階から濃厚取材を続け、HEVもPHEVも速攻試乗した自動車研究家の山本シンヤ氏が、トヨタが誇るエコカーの超絶進化を徹底解説する!

■5代目プリウスが激変したワケ

山本 世界累計販売台数505万台以上を誇るプリウスが2015年以来7年ぶりのフルモデルチェンジを受け、大きな話題を呼んでいます。

――5代目となる新型はどんなパワートレインを用意しているんですか?

山本 HEV(ハイブリッド)と3月15日発売のPHEV(プラグインハイブリッド)の2本立てですね。

――ちなみに初代のデビューはいつでしたっけ?

山本 1997年です。キャッチコピーは「21世紀に間にあいました。」。当時の1.5Lクラスのガソリン車の燃費は14~15㎞/Lでしたが、エンジンとモーターを併用することでなんと約2倍となる28㎞/Lという鬼燃費を実現しました。

――ただ、価格は215万円と当時のカローラに比べ約50万円も高かったですよね?

山本 それでも初代のハイブリッドシステムはコストから逆算すると原価を大きく割り込んでいたそうです。原価に非常に厳しいトヨタが発売を決心したのは、「21世紀に向けた環境に優しいクルマづくり」の挑戦のためでした。そのインパクトは強烈で、「ハイブリッド」という言葉を根づかせ、世界中を席巻したのはご存じのとおりです。

――それにしても5代目は見た目が大きく変わりました。

山本 25年前はHEVといえばプリウスのみでしたが、現在はトヨタのほとんどのモデルにHEVがフツーに設定されており、HEVなど電動車の累計販売は2030万台以上。もはやHEVは当たり前の存在になった。HEVが普及した今、トヨタの社内には「プリウスの役割は終わったのではないか?」という声も多くあり、実はモデル廃止の案もあったそうです。

――でも、無事に継続されました。そこには何があった?

山本 トヨタ社内で、「エコカーは普及してこそ環境に貢献する。だから手が届くクルマは絶対に残さなければならない」という決定はすぐにできた。しかし、プリウスをどのようなクルマにするのかで意見が大きく割れたそう。

――具体的には?

山本 新型の方向性を決める際、トヨタの豊田章男社長と開発陣の間で意見が異なった。豊田社長は、新型プリウスは、真のコモディティとなるタクシー専用車であるべきだと。

――タ、タクシー専用?

山本 要するに、プリウスを働くクルマの代名詞に変えたほうがいいと感じていたわけです。しかし、開発陣は、「プリウスというクルマは愛車としての合理性だけでなく、エモーショナルな体験を提供できるクルマであるべきだ」と譲らなかったそうです。結局、豊田社長が「このケンカ、面白いね」と告げ、開発陣の案を採用しました。

――なぜ豊田社長は折れた?

山本 それは本人に聞きました。ズバリ、「(見た目が)カッコよかったから」。ちなみに先代モデルに関しては「微妙......」とのこと(苦笑)。

――そんな5代目の開発はどう進められたんですか?

山本 プリウスの燃費がいいのは当たり前です。それとは違う新たな"個性"をふたつ盛り込みました。ひとつは誰が見ても魅(ひ)かれる「デザイン」。そして、もうひとつはドライバーを虜(とりこ)にする「走り」。

――走りを支えるパワーユニットはどう進化した?

山本 HEVは1.8Lと2Lの2本立てです。主力になるのは2Lです。2Lは従来モデルに対して約1.6倍となる196馬力を発揮します。PHEVは2Lをベースにし、システム出力は223馬力、時速100キロ到達は6.7秒。もはや実用車の域を超え、スポーツカーの領域に足を踏み入れています。

――ほお!

山本 シャシーは劇的な進化を遂げた第2世代となるTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)プラットフォーム(GA-C)を採用し、主要モデルのタイヤにはなんと19インチ(!)を設定! 走りに対する自信がみなぎっています。

■へたなスポーツカー顔負けの走り!

――山本さんは、HEVもPHEVも試乗されている?

山本 はい。昨年末にHEVのプロトタイプに試乗しました。まず驚いたのは試乗場所です。なんと富士スピードウェイ(静岡県小山町)のショートコースでした(笑)。

HEVの試乗会はなんと富士スピードウェイのショートコースで行なわれた。ちなみに燃費はWLTCモードで26.7~32.6㎞/L HEVの試乗会はなんと富士スピードウェイのショートコースで行なわれた。ちなみに燃費はWLTCモードで26.7~32.6㎞/L

――エコカーのプリウスをサーキット試乗! ちなみに歴代プリウスで、サーキットで試乗を開催したモデルは?

山本 もちろん、ありません。サーキット試乗を開催したのは開発陣の自信の表れかと。

――5代目の走りの実力は?

山本 従来モデル(4代目)はトヨタ初のTNGA採用モデルで走りの基本性能が底上げされました。当時は「あのプリウスがスゴく良くなった!」と驚きましたが、それが一瞬で色あせるくらいの激変ぶりでした。冗談抜きにへたなスポーツカー顔負け!

――歴代プリウスの走りは?

山本 僕はこれまで歴代のプリウスを徹底試乗してきましたが、「走りが楽しい」と感じたことは一度もありません。もっと言うと、「燃費はいいけど、トヨタで一番つまらないモデル」と思っていました。ところが今回の新型は、トヨタで一番おもしろいモデルになった。それが本音ですね。

――つまり見た目だけでなく、走りも激変したと?

山本 パワートレインは「速い」と感じさせる力強さを備え、ハンドリングはドライバーとクルマとの一体感やコントロール性も目を見張るものがあります。控えめに言って、走りの総合力は、このクラスの"巨人"であるフォルクスワーゲンのゴルフと比べても負けていません。

――一方、PHEVの試乗はどこで開催された?

山本 こちらは袖ケ浦フォレスト・レースウェイ(千葉県袖ケ浦市)で試乗しました。ただし、試乗はわずか2周でした。1周目はEVモードで走行しました。

アクセルを踏んだ際のレスポンスやトルクの立ち上がり、滑らかなフィールはもちろん、先代よりも引き上げられたモーター出力から力強さは十分以上。ちなみにEV航続距離は100㎞以上(WLTCモード)ですので、日常は「ほぼEV」として使えます。

トヨタ「プリウスPHEV」PHEVの価格は460万円。気になる燃費だが、19インチタイヤ装着車は26.0km/L、メーカーオプションの17インチタイヤ装着車は30.1km/Lを実現 トヨタ「プリウスPHEV」PHEVの価格は460万円。気になる燃費だが、19インチタイヤ装着車は26.0km/L、メーカーオプションの17インチタイヤ装着車は30.1km/Lを実現

HEVとの外観の違いは、専用デザインのアルミホイール、テールランプの色とパンパーの色 HEVとの外観の違いは、専用デザインのアルミホイール、テールランプの色とパンパーの色

内装はシフト周りにレイアウトされるEV/HEVモード切り替えのスイッチぐらいで、あとはHEVと一緒 内装はシフト周りにレイアウトされるEV/HEVモード切り替えのスイッチぐらいで、あとはHEVと一緒

――EV感が強い?

山本 いいえ。チマタのEVによくあるドーピング的な力強さではなく、あくまでもジェントルな走行フィールでした。ただ、先代よりも格段に引き上げられた静粛性なども相まって、室内はへたなEVより静かかもしれません。

――ふむふむ。

山本 そして2周目はHEVモードで走りました。EVモードはある意味想定内でしたが、HEVモードはいい意味で予想を裏切られましたね。先代のPHEVのHEVモードをひと言で言うと、「車両重量の重いプリウス」で、動力性能はむしろHEVのプリウスより劣るものでした。

しかし、新型はアクセルをグッと踏んだら、思わず「速ッ!」と声が漏れたほど(笑)。前述したとおり、PHEVの時速100キロ到達は6.7秒です。実はこのタイムはGRスープラのベーシックグレード「SZ」とほぼ同じ。ちなみに先代は10秒くらいでした。

右のリアフェンダー上部にこの充電口が設置され、左側の同部分には給油口が備わる 右のリアフェンダー上部にこの充電口が設置され、左側の同部分には給油口が備わる

PHEVのシステム出力は223馬力を誇る。ちなみに時速100キロ到達は6.7秒と超快速 PHEVのシステム出力は223馬力を誇る。ちなみに時速100キロ到達は6.7秒と超快速

――PHEVの音は?

山本 アクセル全開時は低音が利いたサウンドが響きます。トヨタの最新エンジンは高効率な半面、濁音が多めの音にガッカリしますが、プリウスの音はその原因となる中・高周波を抑え、低周波を強調させた音のチューニングにより、サウンドと呼べるレベルにはなったかな......と。

――では、5代目プリウスの総括をおなしゃす!

山本 デザインと走りからもわかるように、新型プリウスはカローラの上級に位置するスペシャリティカーへと生まれ変わりました。正直言って、これまでのプリウスはクルマ好きには関係のないクルマでした。しかし、5代目はクルマ好きにとって、初めて「自分事」になったクルマだと思いますね。

●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営