時速360キロにも達するMotoGPマシン。ゼッケン30のホンダRC213Vを駆る中上貴晶。マシンのセットアップと電子制御が大きく改善され、開幕ダッシュが期待できる 時速360キロにも達するMotoGPマシン。ゼッケン30のホンダRC213Vを駆る中上貴晶。マシンのセットアップと電子制御が大きく改善され、開幕ダッシュが期待できる

参戦6年目の今季もLCRホンダ・イデミツから王者を目指す中上貴晶。まさに勝負の年である。そして、最高峰の舞台におけるホンダの復権は? モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が取材した!

■MotoGP史上最多シーズン42レース!

時速360キロ! 世界中のバイクファンが大注目している二輪ロードレースの世界最高峰「MotoGP」が、3月25日(土)にポルトガルでいよいよ開幕する。実は今シーズン、MotoGPは大きな転換期を迎える。

具体的にはトップのMotoGPクラスは、レースの数が一気に倍増し、初開催となるカザフスタンとインドを加え、世界18ヵ国/21大会を予定。

加えて日曜日のメインレースを前に、半分の周回数で競うスプリントレースが土曜日に行なわれることになるため、各グランプリで土日が連戦となる。

スプリントレースは獲得ポイントもメイングランプリの半分だが、チャンピオンシップを争う上で非常に重要なウエイトを占めるのは言うまでもない。要するにMotoGP史上最多のシーズン42レースとなり、激アツのバトルが繰り広げられる!

さらに参戦チームにも変化があった。スズキが撤退し、昨年王者のフランチェスコ・バニャイアを擁するドゥカティが8台体制と一大勢力に。日本メーカーはホンダが4台、ヤマハが2台で欧州勢に挑む形となっている。

その激変する最高峰クラスに唯一フル参戦する日本人ライダーが31歳の中上貴晶(なかがみ・たかあき/LCRホンダ・イデミツ)。ケガの影響もあり、昨シーズンは48ポイント獲得のランキング18位であった。参戦5年で表彰台は、まだない。

実は昨シーズンの半ばには、Moto2日本グランプリで優勝し、最終戦まで年間チャンピオンの座を争った小椋藍(おぐらあい/22歳)に、「シートを明け渡すことになるのではないか?」という臆測がネットやファンの間で飛び交っていた。

しかし、中上は無事にホンダと6シーズン目の契約を交わした。ホンダの二輪レース部門トップの桒田哲宏(くわた・てつひろ)HRCレース運営室長が言う。

「タカ(中上貴晶)は速いスピードと高いポテンシャルの持ち主。何かの、小さなきっかけですべてがうまく噛み合うようになれば、持ち味のスピードを存分に発揮できるようになるはずです。力を合わせて一刻も早い目標の達成に向け、一丸となって取り組んでいきます」

昨季、苦戦したことで「マシンづくりにおける課題が明確になった」と話すHRCレース運営室長の桒田哲宏氏。「タイトル奪還を目標に全力で戦っていく」と意気込む(写真提供/ヤングマシン編集部) 昨季、苦戦したことで「マシンづくりにおける課題が明確になった」と話すHRCレース運営室長の桒田哲宏氏。「タイトル奪還を目標に全力で戦っていく」と意気込む(写真提供/ヤングマシン編集部)

その中上は3月上旬に公開されたプロモーション映像で今シーズンの意気込みを語っている。

「2023年の目標は、競走力を発揮すること。タフで忙しいシーズンになりますが、戦う準備はしっかりできています。チームのみんなと、レースウイークの成功へ向かっていきたい」

参戦6年目の中上にとって今シーズンは言うまでもなく勝負の年であり、是が非でも好成績を残さなければならない。何しろ、ホンダが昨シーズンに獲得した表彰台はわずか2回で、これ以上ない屈辱的なシーズンだったからだ。

前述のとおり、今シーズンは1大会2レースで、トータル42レースの長丁場。果たしてホンダは巻き返せるのか? ズバリ、アオキは巻き返せるとココで断言したい!

というのも、今シーズン、ホンダは頼もしい味方をつけたからだ。MotoGPから撤退したスズキで技術監督を務めていた河内健氏を獲得! 豊富な経験と多くのノウハウを持つ彼の知識とスキルはレース界屈指だ。

さらにホンダはチョー強力なライダーをズラリとそろえた。最高峰MotoGPクラスだけでも6度の年間チャンピオンに輝いている絶対王者のマルク・マルケスを筆頭に、20年の覇者ジョアン・ミルとアレックス・リンスを河内氏と共にスズキから招き入れた。

スズキでテクニカルマネージャーとして辣腕を振るった河内健氏(中央)がホンダに新加入。マシンはもちろん、ライダーの戦闘力も上がること間違いナシ! スズキでテクニカルマネージャーとして辣腕を振るった河内健氏(中央)がホンダに新加入。マシンはもちろん、ライダーの戦闘力も上がること間違いナシ!

優勝経験のあるライダーが3人もいるのだ。最強にも程があるメンツのワケを桒田氏が説明する。

「いい成績を出さないのなら、『マシンがダメなんだ!』と言われてしまうわけですから、この強力なライダーラインナップはある意味、私たちを追い込んだとも言えるわけです」

実際、今シーズンのホンダはどうなるのか? 桒田氏への直撃インタビューを最新号に掲載している二輪専門誌『ヤングマシン』(内外出版社)の松田大樹(ひろき)編集長は今シーズンのホンダをこうみる。

「去年は未勝利に終わり、ホンダはここ数年でも最悪のリザルトだったと思います。ただ、ホンダは昔から追い詰められ、ブチ切れてからが本当にスゴい。

市販車もそうですし、グランプリでも散々苦戦した末、エンジンが爆発するタイミングを変更してぶっちぎりの速さを得た1990年代のNSR500ですとか、とにかく追い詰められてからのホンダの反撃というのは冗談抜きに大人げない(笑)。

桒田さんも『自らを追い込んだ』と発言されていましたし、背水の陣となった今シーズンのホンダは大爆発してくれると信じています」

3月11、12日、ポルトガルでの最終テストは2日間で146ラップと気合い十分の中上選手。「一歩一歩、トップグループとの差を縮めています」とコメント 3月11、12日、ポルトガルでの最終テストは2日間で146ラップと気合い十分の中上選手。「一歩一歩、トップグループとの差を縮めています」とコメント

アオキが推す今シーズンの見どころも最高峰の舞台におけるホンダの復権であり、松田編集長と意見は一致する。そのキーマンのひとりが中上貴晶だ。開幕戦に刮目(かつもく)せよ!

●青木タカオ(Takao AOKI)
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営