2022年は申請が殺到して瞬く間に受け付け終了となったCEV(セブ)補助金。3月23日(木)から新たに2023年度の補助金の申請受け付けが開始となった。これまでと何がどう変わったのか? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏に聞いた。
■昨年、日本市場ではEVが大躍進
渡辺 昨年登場した軽EVの日産サクラと三菱eKクロスEV。この2台の大躍進もあり、現在、日本市場ではEVが大きな注目を集めています。
――特に日産のサクラは売れに売れているそうですね?
渡辺 日産によると3月20日時点で、受注累計は4万2000台を突破したそうです。
――今年もサクラの勢いは続きそうですね。
渡辺 ええ。現状、普及に関しては欧州や中国が先行していますが、この軽EVの登場もあり、日本市場でも着実にEVの販売は伸びています。
――とはいえ、EVは車載バッテリーの値が張る関係で、ガソリン車と比べると車両価格がどうしても高くなってしまいます。昨年、日本市場でEVはどれぐらい売れたんですか?
渡辺 補助金や優遇税制の効果もあり、2022年は国内で5万8813台(商用車を除く)のEVが販売されました。ちなみにこの数字は前年比2.7倍となります。
――ほお。確か輸入車のEVも販売が好調だったとか?
渡辺 昨年、輸入EVは1万4341台が販売されました。国産EVより値が張るモデルが多いのですが、史上初となる1万台突破を達成しています。ちなみに前年比66.6%のアップです。つけ加えると、日本で販売された乗用EVのうち、輸入モデルが半数に迫る45.4%を占めていますね。
――輸入EVの販売が好調だった背景には何がある?
渡辺 ザックリ言うと理由はふたつ。ひとつは言うまでもなく補助金や優遇税制の効果です。もうひとつは15ブランド78モデルという選択肢の多さがポイントになっています。
――しかし、国の補助金は申請が殺到して、昨年末に打ち切りになりましたよね?
渡辺 ええ。22年度の「CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)」は、22年3月に受け付けを開始して、同年12月に予算を使い切って終了。12月15日に到着した申請書が最終でした。
――そもそもの話ですが、"CEV"とはどういう意味ですか?
渡辺 クリーン・エネルギー・ビークルの略称です。要するに環境負荷の少ない自動車という意味です。日本はこのCEVを普及させるため、一定の条件を満たしたクルマの購入、あるいは充電設備等の設置などにおいて、ユーザーが申請すると補助金の交付を受けられるわけです。
――確認ですが、日本は2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロを目指しています。つまり、CEV補助金の本質は脱炭素社会を実現するためのもの?
渡辺 そのとおりです。EVやPHEV(プラグインハイブリッド)などを開発・販売する自動車産業を擁護するための制度ではありません。目的はあくまでも脱炭素です。
■新しいCEV補助金の中身
――そんな脱炭素社会を目指す日本は、今年2月14日に新たなCEV補助金の概要を発表し、3月23日から新たに2023年度(令和5年度)のCEV補助金の申請受け付けが開始されました。その補助金の中身に変化があったそうですね?
渡辺 はい。今年4月1日以降に実施される新しいCEV補助金では、すでに普及し、価格も割安になったクリーンディーゼルは対象外に。また、補助金の交付額も変更されましたね。
EVの場合、従来の上限は85万円でしたが、4月1日以降、ベースとなる金額はEVが65万円、軽EVは45万円、PHEVも45万円、FCEV(燃料電池車)は230万円です。全体的に金額が少し下がりました。
――ただし、一定の条件を満たしたモデルなら、補助の上限額が上乗せされるとか?
渡辺 2030年度燃費基準の対象となる車両であること。そして、所定の外部給電機能があることですね。この所定の外部給電機能とは次の①、②のいずれかを満たしていることが条件になります。
①車載コンセント(1500W/AC100V)からの給電機能があること。
②外部給電器やV2H充放電設備を経由して電力を取り出せること。
これらの条件をクリアしているEVは85万円、軽EVは55万円、PHEVも55万円、FCEVは255万円の補助を受けられます。
――今回の補助金給付の条件にあるV2Hってなんですか?
渡辺 V2Hとは、「Vehicle to Home(クルマから家へ)」という意味で、EVやPHEVのバッテリーに蓄えた電力を家屋へ供給するシステムを指します。例えば電気料金が割安な夜間電力を使い、EVやPHEVに充電します。
翌日、クルマを使わないときは、夜間に割安に充電した電気を、V2Hを使って家屋に供給します。そして再び夜間電力でクルマに充電すれば電気料金は割安に抑えられる。
――つまり、EVやPHEVなどのバッテリーを蓄電池として活用できるようにするシステムがV2Hだと?
渡辺 そのとおりです。
――今回、このV2Hの導入が条件に追加されましたが、これがあれば太陽光で発電した電力の受け入れ先にEVやPHEVのバッテリーが使えて脱炭素社会の実現にもつながるわけですよね?
渡辺 そうです。しかも災害時に停電が起きてもV2Hがあれば EVやPHEVのバッテリーにためた電気をうまく活用することで、数日は家庭で電気に困らない。
――このV2Hの導入も補助金の対象に入っている?
渡辺 V2Hの設備費に対しては上限が75万円(補助率5割)、工事費の上限(個人)は40万円まで出る。加えて、自治体から補助金が出る場合もあります。
――V2Hの価格は?
渡辺 ザックリですが、V2H充放電設備の本体価格は50万~150万円以上となっています。工事費は一概に言えませんが、30万円ほどかと。
――V2H導入に関してはかなりの金額が補助金で賄えるわけですね。そして、今回のCEV補助金と自治体の補助金を合計すると、脱炭素につながるクルマはどの程度割安になる?
渡辺 CEV補助金は、経済産業省に加え、自治体も実施しています。例えば東京都のこれまでの交付額は、個人ユーザーの場合、45万円が上限でした。
従って日産サクラのような軽EVであれば、経済産業省の交付額が45万円(最大55万円)、東京都が45万円(最大60万円)で、合計90万円(最大115万円)の交付を受けられる。ちなみに東京都の場合、自宅に再エネ(太陽光など)を導入(購入済みも可)すると補助金上限は15万円アップして60万円になります。
■CEV補助金の問題点とは
――マンション住まいだと補助金はどうなるんですか?
渡辺 EVやPHEVは、マンションのような集合住宅に住んでいても購入できます。充電を販売店や勤務先で行なうユーザーも多い。補助金の交付も受けられますよ。
――マンション住まいだと充電器の設置は?
渡辺 新築マンションの一部には、一戸建てと同様の普通充電器が設置されています。また、EVのユーザーが共同で使う充電スペースを用意する新築マンションもあります。しかし既存のマンションの立体駐車場などに、充電設備を設置するのは容易ではない。スペースの問題もそうですし、理事会や管理組合の同意を得る必要もある。
――それだとCEV補助金は、一戸建てに住む人のほうが優遇される制度になりませんか?
渡辺 そこがCEV補助金の大きな問題点です。集合住宅に住む人が使えない補助金では、当然ですが、「不公平だ!」という声も出てくる。特にこれからEVの保有台数が増えると、マンションでも充電設備が必要になります。
設置されていればマンションの価値が高まり、売却時に有利になる可能性もあります。日本では総世帯数の約40%が集合住宅に住んでいます。脱炭素を目指すなら国はマンションの充電インフラ問題に取り組まなければなりません。
――ほかにCEV補助金の問題点はありますか?
渡辺 当たり前ですが、補助金は庶民の税金で賄われています。国の施策として行なうことですが、前述のとおり公平性が重要になる。クリーンディーゼルのように、なるべく早く普及させ、補助金を減額、あるいは廃止することが大切だと思います。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員