深夜割引の見直し、スマートICの拡充、「フリータイム通勤パス割引」の試行など、ETCのサービスが大きな変革期を迎えようとしている 深夜割引の見直し、スマートICの拡充、「フリータイム通勤パス割引」の試行など、ETCのサービスが大きな変革期を迎えようとしている

ほぼすべてのクルマが利用するようになったETCが、大きな変化を迎えようとしている。深夜割引の見直しが発表され、スマートICの拡充、北陸道の一部区間では「平日朝夕割引」を拡張した「フリータイム通勤パス割引」を試行するという。

ETCの機能をフル活用することで、今こそ利用者にとっても地域経済にとっても、プラスになるサービスとはどんなものなのか。高速道路の料金システムに詳しい、ライターの植村祐介氏が現状を踏まえて提言する!

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■ETCのココが変わる!

高速道路をキャッシュレスで利用できるETCが導入されて、すでに20年あまり。当初伸び悩んだ利用率は、5万円の支払いで5万8000円分利用できる高額ハイウェイカードの廃止、「深夜割引」「休日割引」など各種ETC割引の導入、さらには首都高などでの非ETC車への料金格差の設定などもあり、年を追うごとに上昇。

2022年12月の利用率は94.2%、首都高に限れば98.0%と、現在では「ほぼすべてのクルマがETCを利用する」と言ってもいい状況となっている。

そしてETCにより、料金所での渋滞は大きく減少し、またETC車のみが利用できる「スマートIC」が多くのSA/PAに設置されるなど、利用者にとって高速道路そのものの利便性も大きく高まることになった。

ところがこのETCが昨今、いくつかの大きな変化を迎えようとしている。

まずひとつは「深夜割引」の見直しだ。現在の深夜割引は「0時から4時の時間帯に高速道路を走行していること」が条件となっている。その判定は料金所の通過時刻を基準に行なうため、0時前には時間調整するトラックで料金所に近いSA/PAは満車となり、東名高速などでは料金所手前の本線上に居座るトラックでクルマの流れが完全に止まってしまうなど、大きな問題となっている。

見直し案では、時間帯を「22時から翌5時」に改め、「その時間帯に走行した分」を判定して料金を割り引くという。

またNEXCO中日本は、北陸道の一部区間で「平日朝夕割引」を拡張した「フリータイム通勤パス割引」を試行する。これは事前に車種、区間を指定して「パス」を購入すると、時間や曜日にかかわらず、1日3回まで指定区間内の走行が50%オフになるというものだ。

これは「国土交通省 社会資本整備審議会 道路分科会 国土幹線道路部会」が2021年8月にとりまとめた中間答申にある「現行の『平日朝夕割引』は並行する一般道の通勤時間帯の混雑緩和を目的としているが、渋滞緩和の効果が限定的な区間、そもそも一般道が混雑していない区間がある。また地域によっては通勤時間帯に高速道路が渋滞するという課題も生じている」との指摘に呼応するもので、将来的には全国での実施も見込むと考えていいだろう。

そして非ETC車に大きな打撃となる「ETC専用出入口」が、2022年4月に首都高、NEXCO東日本、NEXCO中日本でスタート。NEXCO西日本も2023年4月に追随する。非ETC車がごく少数となった現在、こちらも今後拡大していくのが既定路線になりそうだ。

■「道の駅」への立ち寄り強制と時間制限の撤廃を

しかしこうした"改革"よりも、ETCの持つ「いつ・どこからどこまで走ったか」を管理できる機能を使い、もっと便利な仕組みを導入してほしいというのが、利用者の本音ではないだろうか。

たとえば現在、ETC2.0車を対象に「高速道路において、休憩施設同士の間隔がおおむね25km以上離れていて、ICから2km以内に道の駅がある指定IC/スマートICを利用」「流出から流入まで2時間以内」「流出と同じ方向に流入する」「対象の道の駅を利用する」という条件の下、

高速道路料金を"通し料金"で計算する「ETC2.0車限定 一時退出『賢い料金』社会実験」が、全国23ヵ所で行なわれている。これは「高速道路の休憩施設等の不足を解消し、良好な運転環境を実現する」ことが目的だ。

しかしその条件に、国土交通省が所管する「道の駅」に立ち寄ることが強制されるため、たとえば食事やお土産物の購入においても、地域の食堂や商店より道の駅のテナントが圧倒的に有利になるという、いびつな制度でもある。

目的に「休憩施設等不足の解消」だけでなく、「地域の観光振興」も含め、「道の駅への立ち寄り強制」を撤廃して「2時間」という制限をゆるめれば、「高速道路を途中で降り、地域の魅力に触れる旅」が実現し、利用者にとっても地域経済にとっても、大きなプラスになるはずだ。

今後のETCには利用者にとっても地域経済にとっても、プラスになるサービスを期待したい 今後のETCには利用者にとっても地域経済にとっても、プラスになるサービスを期待したい

またNEXCO各社が販売するETC周遊プラン「ドラ割(NEXCO東日本)」「速旅(NEXCO中日本)」「みち旅(NEXCO西日本)」も、見直しをお願いしたい。

これらはうまく使えば高速道路料金を大幅に節約できるオトクな商品だが、NEXCO各社の"縄張り"に縛られているためか、その商品企画に柔軟性に欠ける部分が感じられるほか、設定発着地よりも遠いICから流入し高速道路を連続利用する場合や、経由する高速道路によっては「適用外」になるなど、わかりにくい"縛り"がある。

また、別会社だけに仕方のないことかもしれないが、申し込み手続きの流れも同一ではない。同じ「NEXCO」を名乗っているわけだし、会社の垣根を越え、わかりやすく魅力ある商品企画、また申し込み手順の統一化をぜひお願いしたいところだ。

■満足度の高い料金制度を実現してほしい

最後に、現状の「深夜割引」や「休日割引」よりももっと柔軟な、需要に合わせた料金制度の導入も検討してほしい。

航空運賃やホテルの宿泊料金では、「繁忙期には高く」「閑散期には安く」を設定する「ダイナミックプライシング」がごく一般的となっている。しかしこれを単純に、たとえば混雑する週末や連休に通行料金を高くすると、「渋滞しているのに料金が高い」という不平不満が爆発するはずだ。

そこで、たとえば金曜日午後は東京、大阪、名古屋などの都市部からの下り方向、日曜日午前は逆に都市部への上り方向で、一定の距離を走行する普通車に対し、休日割引以上の大幅な割引で優遇する案はどうだろうか。

「より空いている時間に快適に、かつ安価な料金で走れること」がインセンティブになり、移動日をシフトする人が出れば、土曜朝の下り、日曜午後の上りの高速道路の渋滞抑制にもつながるし、金曜日夜の観光地の宿泊施設などの需要喚起にもつながる。

また渋滞が減ることで燃費がよくなり、クルマからの排出ガスの抑制、ひいては地球温暖化対策にも効果的だろう。

いま国会で無料償還をさらに50年、2115年まで延長する法案が提出され、少なくとも「生きているうちに無料になる」ことはなくなった高速道路料金。せめてその料金を負担する側の意見を聞き入れ、ETCを使った満足度の高い料金制度を実現してほしいものだ。