2月15日、トヨタは米シリコンバレーにある研究子会社TRIを本邦初公開した。そこで、トヨタを粘着取材する自動車研究家の山本シンヤ氏が現地に飛び、TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)と"米AI界の至宝"と呼ばれているCEOの博士を特濃取材してきた!
■4月1日からレベル4が解禁!
自動車業界は100年に1度の大変革期だ。その中で重要なキーワードとなっているのが、「電動化」と「電脳化(=自動運転)」。特に自動運転は世界中の自動車メーカーが熱心に研究・開発を行なっている技術である。
現在、ニッポンで普及している自動運転はレベル2(日産の「プロパイロット2.0」など)。高速道路などで前のクルマとの車間を調整してくれるだけでなく、白線に沿ってステアリング操作も行なう機能が数多くのクルマに搭載されている。だが、この運転の主体はあくまでドライバーだ。システムは「運転支援」となる。
ところが、レベル3より上はシステムが運転を監視するようになる。このレベル3を世界で初めて実現させたのがホンダだ。2021年3月5日に限定100台で発売されたレジェンド(現在は販売終了)がこの機能を搭載して大きな話題を呼んだ。
また、その翌月の4月にはトヨタがレクサスLSと燃料電池車のミライに、「コレは......ほぼレベル3じゃね?」と専門家をうならせたレベル2の機能を搭載させて話題をかっさらった。
当然、レベル4以上の進捗(しんちょく)が気になるところだが、実はそれを後押しするのが今年4月1日から施行された改正道路交通法。レベル4ではシステムがクルマを安全に停止させる、要は無人運転が可能になるのだが、自動運転中のクルマの作動をチェックする特定自動運転主任者は必要。
だが、車内にいる必要はなく、遠隔システムの監視で問題ない。とはいえ、正直言うと、実用化のハードルはまだまだ高いのが実情だが、これにより自動運転時代が本格的に幕を開けるのは確かだ。
ちなみに2021年の東京オリンピックの選手村で走ったトヨタのeパレット。これはトヨタが開発を行なったレベル4の車両だ。言うまでもないが、他社のようにCMなどで声高らかにうたわないものの、トヨタは世界トップレベルの自動運転技術をすでに持っている。
前置きが長くなったが、そんなトヨタの最新の自動運転技術はいったいどこまで進んでいるのか? そこで私は米国カリフォルニア州パロアルト、つまりシリコンバレーにある研究機関、TRI(トヨタ・リサーチ・インスティテュート)で行なわれた「TRI EXPO」に突撃!
本来は関係者以外の立ち入りは決して許されない機密タップリの施設なのだが、今回は特別に許可を得た。てなわけで、トヨタが行なっている最先端の取り組みをガッツリ取材した!
■TRIを率いるギル・プラットCEO
TRIは、トヨタが最先端のAIを研究する組織として2016年1月に設立された。トヨタは設立から5年間で約10億ドルを投資し、自動運転のアーキテクチャーの開発などを行なってきたが、現在はトヨタの子会社「ウーブン・コア」にその機能が移管され、TRIはより最先端の研究を行なう機関という位置づけとなった。
ただし、自動運転技術に関しては現在もウーブン・コアと連携して行なわれている。もう少し言うと、TRIが研究段階の領域を担い、ウーブン・コアは開発段階の役割を担っている。
このTRIを率いているのがCEO(最高経営責任者)のギル・プラット博士だ。博士はもともと米国防総省高等研究計画局で、自律型ロボットのプログラムマネジャーなどを務めていたが、豊田章男社長の理想に共感し、「トヨタと共に研究開発を行なうことを決意した」という。
最初にギル・プラット博士はトヨタの自動運転に取り入れられている思想、"トヨタ・ガーディア"について説明してくれた。
これは"人の代わり"ではなく、"人と共に機能する自動運転"という意味。仮に突発的に何かが起きたときに運転をサポート、要は人の能力を拡張するという考えだ。
実はコレ、トヨタ生産方式の柱のひとつにある「ニンベンのついた自働化」と同じ考え方なのである。平たく言えば、人の作業を機械に置き換えるのではなく、人の働きを機械に置き換えるということだ。
■AI自動運転搭載のスープラとヤリス
そんなTRIの研究のひとつの成果がヒューマン・インタラクティブ・ドライビング部門で開発されていた「ドリフトできるAI自動運転」。走行動画がユーチューブで公開されているのでぜひ見てほしいが、これは単なるエンターテインメントではない。このAIは20分の1秒ごとに新しい走行ルートを計算し、車両のバランスを保つという。
ヒューマン・インタラクティブ・ドライビング部門のスタッフが言う。
「このプロジェクトを通じて、自動車自身が制御可能な領域を拡大しています。目標はプロのレーシングドライバーのような本能的な反射神経を一般のドライバーに与え、最も困難な緊急事態に対処できるようにすることです」
ドリフト領域=タイヤのグリップ力が失われるレベルまで自動運転の領域を拡大する。もう少し言うと、ドリフトとは車両が駆動力の限界を超え、不安定になった状況を、ステアリングやアクセル操作などにより複合的にバランスよく制御する高度なドライビング技術を指す。
つまり、この技術をAIが習得し車両に組み込めば、クルマを自動的に立て直し、事故を回避できる可能性が高まる。
「TRIの目標は、人間の代わりではなく、人間を補強・増幅するような先進技術を使うこと。私たちはクルマとその性能の全領域をコントロールする方法を検討し、エキスパートドライバーのスキルを一般ドライバーの運転に取り入れる技術を構築しています」
このドリフトができるAI自動運転車が販売される可能性は少なそうだが、より安全なクルマの開発につながる。
さらにトヨタのAI自動運転は人の運転のサポートも行なう。私は昨年、愛知県豊田市と岡崎市にまたがる山間部にあるトヨタ下山テストコースで、GRヤリスがベースの開発車両に同乗取材した。
スープラはAIによる自動運転ドリフトにより事故を未然に防ぐ、制御技術の向上を図っていたが、このGRヤリスはその第2弾。AI自動運転によって「車両制御(セーフティ)」と「安全と走る楽しさ(ファン・トゥ・ドライブ)」を高次元で両立させることをテーマに開発された。
AIが最適な経路を導き出し、加速やブレーキなどセンサーからの情報をリアルタイムに計算しながら走行を制御する仕組みだ。
もちろん、この開発にはTRIも強く携わっており、来日したギル・プラット博士は「今後、AIがより良い運転方法を指導できるようになる」と語っていた。
実はTRIにはあらゆる研究のため、インホイールモーターEV「GRIP(グローバル・リサーチ・イノベーション・プラットフォーム)」と呼ばれる専用のテストカーが存在する。
さまざまな実験を可能にするため、フレームはスチール製でボルト留めされ、ホイールベース変更なども容易に行なえる優れモノだ。最大の特徴は同相/逆相制御が可能な4WSシステムが搭載されており、これによりクルマの挙動を確認できる。
■脱炭素にも取り組むTRI
また、TRIでは「ヒューマン・インタラクティブ・ドライビング」に加えて、「人間中心のAI」「ロボット工学」「マシンラーニング」「エネルギーと材料」などの研究も行なう。その中で興味深く感じたのは「エネルギーと材料」。
電動化と非常に密接な関係がある部門で、「化石燃料に頼らずに人々をどう移動させるか?」という課題に対し、安全で手頃な価格かつ、高性能なゼロ・エミッション車の製造に必要なブレイクスルー、つまりバッテリー技術の普及に欠かせない新材料の開発を進めている。ギル・プラット博士は言う。
「TRIはフロンティア(開拓者)であることが非常に重要で、新しい市場を生み出すなど、なんらかの発見や飛躍的ブレイクスルーにつながる」
そのためにTRIは何を重要視しているのか?
「私たちの研究は本質的に人に焦点を当てており、さまざまな場面でAI技術を活用しようとしています。私たちはこの分野でブレイクスルーを起こすために、最先端の科学技術を駆使しています」
今回の取材で確信したのは、トヨタの自動運転は人と共に機能する、そういう自動運転の姿だ。走行時に突発的な問題が起きた際、人の運転能力をサポートし、事故を防ぐようなシステムである。
自動運転技術が人に取って代わるのではなく、いざというときに熟練ドライバーのスキルで人の運転のサポートをする。要は安全と走る楽しさ(ファン・トゥ・ドライブ)を高次元で両立する。それがトヨタの自動運転であり、もはやレベル5のもっと先を見据えているように感じた。
●山本シンヤ(Shinya YAMAMOTO)
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営