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2023年度の税制改正では見送られたが、賛否が渦巻いたのが電気自動車(EV)の走行距離に対応して課税するという「走行距離税」。このいわゆる〝EV課税〟に対して、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏がモノ申す!

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最近では走行距離課税(通称=道路利用税)が話題になっている。走った距離に応じて税金を納める制度で、もともとは政府が発案した。走行距離課税が生まれた背景には、ニッポンの脱炭素戦略を担うEVの普及がある。

自動車税は、基本的にエンジン排気量に応じて課税するが、EVはエンジンを搭載しないから排気量も存在しない。従って今のEVの自動車税には、エンジン排気量が最も小さな1L以下の税額を適用している。年額は2万5000円(2019年9月末日までの登録では2万9500円)だ。

このままでは、今後EVが増えると、自動車税の税収が減ってしまう可能性もある。そこで政府は走行距離課税を考え出した。

またカーシェアリングなどが普及して、1台の車両を有効に活用すると、保有台数が減少して税収も減る。走行距離課税は〝所有から利用へ〟という変化を考えた結果でもある。ただし走行距離課税は愚策だ。自動車業界も猛反発している。

愚策とされる理由の筆頭は、物流業者など仕事でクルマを使う人たちの税額が大幅に高まることだ。物流以外の自営業者でも、商品の配達や商談のために、1年間に2万㎞以上を走る場合がある。

さらに公共の交通機関が乏しい地域では、年金に頼って生活する高齢者が、日常的な買い物や通院のためにクルマを使う。このような人々から、多額の税金を徴収することになるため、走行距離課税を実施すると著しい不公平が発生する。

また、クルマを遊びに出かける時に使ったり、移動ではなく運転を楽しむために所有するユーザーも多い。そのような人たちは、クルマで出かける度に税金まで増えると、損をした気分になってしまう。

燃料代がかかるのは走れば消費するから納得できる。高速道路の通行料金も任意で支払っており、安くしたいのであれば一般道路を走れば良い。しかし走行距離課税は違う。ユーザーから見ると、税金を不当に搾取される印象が強い。

従って走行距離課税を実施すると、遠方への外出には公共の交通機関を利用するようになり、クルマの使用頻度が下がる。そうなるとクルマが生活必需品ではない場合、所有をやめてしまうことも考えられる。

その結果、クルマの売れ行きが下がり、環境性能割や自動車重量税の税収も減る。税収不足を解消するため、走行距離課税の税率を高めるなど、必要に迫られてクルマを使う人たちを、さらなる重税によって苦しめることになってしまう。

それにしても、なぜ日本の自動車税制というのは、困っている人たちから多額の税金を巻き上げるのだろうか。最初の登録(軽自動車は届け出)から、13年を超えた車両に対する自動車税/軽自動車税/自動車重量税の増税も同様だ。

特に今は、コロナ禍の影響で所得が減ったり、新車の納期が半年以上に遅延して古いクルマに乗り続けるユーザーも多い。そういう困っている人たちに、国は多額の税金を押し付けてばかりだ。

趣味性の強い高価格車を所有する富裕層に、さらに多額の税金を負担してもらうならまだ理解できなくもないが、生活のために必要に迫られてクルマを使う人たちに、増税を押し付けるのは間違いだ。何事も福祉の観点から考えるべきである。

根本的な問題は、今の自動車税制が「クルマは贅沢品」だった1970年頃までに確立され、その認識が今でも続いていること。今のクルマは贅沢品の時代を終えて、困っている人達の味方になっている。自動車税制も、今のクルマの役割を理解した上で、困っている人たちの視点に立って再構築すべきだ。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。〝新車購入の神さま〟。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員