現在、日本で販売される新車の40%近くが軽自動車である。当然、各自動車メーカーも力を入れており、続々と新型モデルを市場に投入している。では推しはどれか? 自動車メーカーや販売店などを徹底取材したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する!
■今年上半期の目玉、デリカミニの全貌
渡辺 現在、日本市場で販売される新車の40%近くが軽自動車です。当然、各自動車メーカーから新型が続々登場しています。直近だと三菱自動車のデリカミニが大きな話題を呼んでいます。
――今年1月に開催された「東京オートサロン」に出品され、黒山の人だかりができたモデルですね?
渡辺 三菱車がこんなに注目を集めたのは久しぶり(笑)。しかも、1月13日に予約を開始すると、4月上旬までに約9000台を受注しました。人気は本物かと。
――ちなみに9000台って数字はスゴいんですか?
渡辺 もちろん、発売直後に1万台以上を受注する新型車もありますが、そもそもデリカミニはeKクロススペースのマイナーチェンジ版であり、実は純粋な新型車ではないんですよね。
――そうなんスか。
渡辺 しかも、今の三菱の販売店舗数は、全国に約550ヵ所と非常に少ない。9000台ならザックリ計算で、1店舗の平均受注台数は16台です。現在の三菱の販売網を考えれば「快挙」と呼んでいいレベルだと思います。
――そんなデリカミニはどんなクルマなんですか?
渡辺 SUVスタイルの軽自動車で、基本的な機能はeKクロススペースと同じです。全高が1700㎜を上回る背の高いボディに、スライドドアを装着します。車内が広く乗り降りもしやすい。現在、日本市場ではこのスーパーハイトワゴンが、新車として販売される軽乗用車の50%以上を占めているんですよ。
――デリカミニは、その顔面も話題です。マイチェン前のeKクロススペースとはかなり違いますよね?
渡辺 開発者に尋ねると理由はふたつあります。ひとつはダイナミックシールドと呼ばれるフロントマスクが、新しい世代に進化したと。以前の三菱のクルマは、全車が似通った顔立ちでしたが、今後は三菱の世界戦略に基づいて車種ごとの個性を大切にするとのことです。
――なるほど。
渡辺 もうひとつの理由ですが、一部ユーザーから「eKクロススペースの顔が怖い」という指摘があったそうです。そこでeKクロススペースの活発な雰囲気を残しながらも、フロントマスクは、親しみやすい顔に変えました。
――そのデザイン変更が功を奏してデリカミニは予約殺到となったと。装備面での注目ポイントはどこです?
渡辺 eKクロススペースの基本機能を踏襲しながら、撥水シート生地を見直して、以前よりも伸縮性の強い柔軟な座り心地になりました。
――走りは?
渡辺 4WD仕様では、タイヤと足まわりに使われるショックアブソーバーが変更され、走行安定性と乗り心地を向上させています。最低地上高も、若干拡大しており160㎜です。悪路を乗り越えやすくなっているのではないかと。
――そんな大人気のデリカミニの正式発売はいつですか?
渡辺 5月25日です。販売店によると、納期は約6ヵ月とのことです。
■軽EVサクラの補助金と納期は?
渡辺 デリカミニの兄弟車は、実は日産のルークスです。こちらもマイチェンを行ないました。今回の改良では日産車を示すフロントマスクのV字形グリルが、新型セレナに似たデザインになりましたね。
――そのほかの変更点は?
渡辺 内装に新色を採用して統一感を強めました。ディスプレー付き自動防眩(ぼうげん)ルームミラーも全車に標準装着され、装備を充実させています。
――ルークスのマイナーチェンジはいつ?
渡辺 変更内容は4月17日に発表されました。発売は6月下旬ですね。販売店によると、5月上旬に予約注文した場合の納期は約4ヵ月とのこと。人気グレードはエアロパーツなどを装着したハイウェイスターです。
――日産は、昨年デビューした軽EVのサクラも大きな話題を呼びました。現在の売れ行きは?
渡辺 サクラは昨年6月から納車を本格的に開始しました。今年1~3月の月の平均販売台数は3700台です。この数字は同じ日産の軽デイズよりも多いです。ちなみに3月までの累計販売台数は4万2000台を軽く突破していますね。
――補助金を差し引くと、サクラの価格はどれぐらいになるんですか?
渡辺 経済産業省による補助金が55万円です。サクラの売れ筋であるXの価格は254万8700円ですから、55万円を差し引いた実質価格は約200万円です。ルークスの売れ筋であるハイウェイスターXプロパイロットエディションよりも、約5万円安く手に入りますね。
――補助金は自治体からも別途交付される場合がありますよね?
渡辺 はい。地域によってはサクラをさらに安く手に入れられます。販売店によると、外装色がモノトーンなら3ヵ月、ツートーンでも6ヵ月で納車できるそうですよ。
■ダイハツで注目のタントファンクロス
――実はダイハツのタントの販売が好調らしいですね?
渡辺 現行タントは、19年7月に発売されましたが、当初は販売が伸び悩みました。20年の月平均の販売台数は約1万800台で、ホンダN-BOXやスズキ・スペーシアに続く3位でした。
13年に発売された先代タントは、14年に月平均2万台近くを販売し、先代N-BOXを抜き、国内販売の1位になったことも。この実績を踏まえると現行型の数字は非常に物足りなかった。
――販売不振の原因は?
渡辺 ダイハツの開発者を直撃しましたが、フロントマスクなどのデザイン面を挙げていましたね。機能も現行型では目立った特徴がなく、選択の決め手に欠けます。そこでタントは、発売して早々に、モデル末期に設定するような充実装備で価格の安い特別仕様車を加えました。それでも売れ行きは変わらなかった。
――そこで昨年10月に大幅な改良を行なった?
渡辺 そのとおり。その目玉が外観をSUV風に仕上げたタントファンクロスの追加です。内装も汚れを落としやすく、屋外で使ったテントや遊びのグッズも気兼ねなく積めます。装備ではスマホ連携型9インチディスプレーオーディオなどを加えました。
――その効果は?
渡辺 タントカスタムの顔がワイルドになったのもありますが、改良から1ヵ月で5万台を受注しました。
――タントの人気を牽引(けんいん)しているのが、ファンクロスであると?
渡辺 現在、日本市場では「軽自動車」と「SUV」が人気カテゴリーですから、両方の要素を併せ持つタントファンクロスの効果は絶大です。
特にタントのようなスーパーハイトワゴンは、子育て世代に人気が高く、楽しく使えるSUVの雰囲気が非常に好まれます。デリカミニが人気を得た理由も同様かと。販売店によると、タントの納期は約4ヵ月とのことです。
――ちなみにダイハツには21年12月デビューのアトレーデッキバンという男心を刺激しまくる軽自動車があり、チマタで話題になっているとか?
渡辺 4ナンバーのアトレーデッキバンですね。誰にでも推せるクルマではありませんが、注目の一台だと思います。このクルマの最大のポイントはオープンデッキです。
――ふむふむ。
渡辺 荷台の長さは880㎜、幅は1360㎜です。販売店によると、狩猟で使う人もいるそう。仕留めた獲物は、どうしてもにおいが気になるので、オープンデッキに積み、猟銃は信号待ちのときなどに盗まれると困るため、後席を畳んで車内に収めていると。車内と車外という、ふたつの荷室を軽自動車サイズに収めたことがデッキバンの魅力です。
――購入時の注意点は?
渡辺 普通のバンと違い荷室が2分割されるので、2m近い長い荷物の積載に不向きです。車内の宿泊にも、アトレーのほうが使いやすい。購入するなら用途を明確に決めてからがいいでしょうね。
■N-BOXのフルチェンはいつ?
――さらに"絶対王者"のN-BOXがフルチェンするって話があるそうですね?
渡辺 昨年、唯一20万台を売った国内販売ぶっちぎりトップの現行N-BOXは、17年に発売されました。3代目となるN-BOXの発売時期は来年初頭だと思いますが、取材を踏まえると、今年の年末には予約を開始するなどの情報が公開されると予想しています。
――3代目はどんなモデルになりそう?
渡辺 現行N-BOXは車内が広く、内装は上質でノイズも小さく、乗り心地や前席の座り心地は快適です。確かに飛ぶように売れていますが、実は製造コストが高い。つまり、メーカーの儲けが非常に少ない商品です。
しかし、昨年国内で販売されたホンダ車の3分の1がN-BOX......。ですから、3代目はもう少しホンダが儲かるクルマに仕上げてくると思いますよ。
――そうすると、3代目N-BOXの質を下げることになりませんか?
渡辺 いいえ。質が下がると、従来型からの膨大な乗り替え需要も失われ、売れ行きが低下します。それでは本末転倒ですから、ホンダはプラットフォームなどを現行モデルと共通化し、コスト面を抑えつつ、安全装備や運転支援機能を進化させるはずです。
また、後席の座り心地を向上させたり、燃費性能の優れたMHV(マイルドハイブリッド)の採用も考えられます。
――それにしても、軽自動車は魅力的なクルマが多いですよね?
渡辺 はい。この好調が続けば、国内で販売される新車の40%以上が軽自動車になる日もそう遠くないかもしれません。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。"新車購入の神様"。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
写真提供/三菱自動車 日産自動車 ダイハツ 本田技研工業 スズキ