1993年に発売され、爆売れしたスズキの初代ワゴンR。累計は481万台以上1993年に発売され、爆売れしたスズキの初代ワゴンR。累計は481万台以上
現在、ニッポンで販売される新車の40%近くが軽自動車である。いつから軽はこんなに国民に愛されるようになったのか? その魅力は? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する。

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昨年、日本国内で新車として売られたクルマの実に39%が軽自動車であった。なぜ軽自動車は〝シン国民車〟になったのか?

国内の新車販売の状況を振り返ると、1980年頃までの軽自動車比率は20%前後だった。それが1990年に、排気量の上限が現在と同じ660㏄に拡大され、軽自動車の比率は25%前後に増えた。

さらに98年には全長が3400㎜、全幅は1480㎜まで広がり、現在の規格が確立、軽自動車の販売比率も30%になった。この後も軽自動車の新車の販売台数は増え続け、2010年は35%、14年には41%に達した。それ以降は40%弱で推移している。

このように軽自動車が〝シン国民車〟になった背景には4つの理由が挙げられる。

ひとつ目は商品力の向上だ。以前の軽自動車は車内が狭く、質感は低く、走行性能も悪かった。それが93年に発売されたスズキの初代ワゴンRから、背の高い車種が増え、居住性が改善された。2003年には初代ダイハツのタント、08年にはスペーシアの前身となるスズキのパレットも加わり、背の高い軽自動車が売れ行きを伸ばした。

2011年に登場したホンダの初代N‐BOX。ホンダ史上最速で累計200万台を突破2011年に登場したホンダの初代N‐BOX。ホンダ史上最速で累計200万台を突破
そして〝シン国民車〟を決定付けたのが、11年に登場したホンダの初代N‐BOXだ。車内が抜群に広く、外観のバランスも良く、軽自動車の販売1位になった。14年にはSUV感覚で車内も広いスズキの初代ハスラーが発売され、軽自動車のイメージも高まって、同年の販売比率は前述の41%になった。

ふたつ目の理由は、クルマが実用的な生活のツールになったことだろう。この流れは、女性の運転免許保有者数の推移を見るとわかる。軽自動車の販売比率が35%に達した10年の運転免許保有者数を1970年と比べると、男性は約2倍に増えた。ところが女性は7.5倍である。

つまり70年頃の運転免許保有者は、男性が圧倒的に多く、クルマも趣味の対象だった。その後に女性の運転免許保有者が増え、クルマの選ばれ方が変わってきた。主婦が運転免許を保有すれば、日常的な買い物や子供の送迎に使われ、実用的な車種が選ばれる。その結果、趣味性の強いクーペや上級セダンは売れ行きを下げ、運転しやすく荷物も積みやすい背の高い軽自動車が売れ筋になった。

3つ目の理由は、安全装備などの充実により、クルマが値上げされたことだ。軽自動車の規格が今と同様に改訂された98年頃は、日産のセレナ、ホンダのステップワゴン、トヨタのRAV4などの買い得グレードは200万円前後に設定されていた。ファミリーユーザーは、購入時の価格上限を200万円と考えることが多く、その範囲でミドルサイズのミニバンやSUVなどを購入できた。

昨年度、国内の新車販売で唯一の20万台をマークした2代目N-BOX昨年度、国内の新車販売で唯一の20万台をマークした2代目N-BOX
それが今のセレナ、ステップワゴン、RAV4は、売れ筋の価格帯が300~450万円である。それなのに平均給与所得は90年代の後半をピークに下がっており、現在も当時の所得水準に戻っていない。そうなると価格の上限を200万円前後と考えるユーザーは多いが、その予算で選べるのは、N‐BOXやタントなど背の高い車種を中心とする軽自動車になった。クルマの値上げが軽自動車の普及を促進させたのだ。

4つ目の理由は、メーカーの商品戦略だ。かつては国内向けに多彩な車種が用意されたが、89年に3ナンバー車の税制不利が撤廃されると、各メーカーとも海外向けの普通車を国内へ流用するようになった。その結果、国内の売れ行きが下がり、日本メーカーの世界販売台数に占める国内比率は、90年代の後半には40%前後、00年代は30%、10年以降は大半のメーカーが20%以下まで落ち込んでいる。

その結果、普通車は値上げもあって一層売れなくなり、「日本は軽自動車に任せておけば良い」という雰囲気になった。ダイハツやスズキに加え、ホンダも軽自動車の国内販売比率が60%近くに達して、日産も40%を超える。

国内市場に対する各メーカーの割り切りが、軽自動車を〝シン国民車〟に押し上げた。言い換えれば、軽自動車は日本のユーザーに寄り沿う唯一のカテゴリーだから共感を得ているというわけだ。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。"新車購入の神様"。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員