3月15日に日本市場で発売となり、注目を集めているのが、イタリアの老舗スクーターブランド・ベスパの新型。モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が公道試乗し、その魅力に迫った。
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■ベスパが守り抜くモノコックボディ
不朽の名作映画『ローマの休日』でオードリー・ヘプバーン扮(ふん)するアン王女が乗り、テレビドラマ『探偵物語』では松田優作が演じる工藤俊作の愛車。銀幕やブラウン管の中で、名優と共に強い存在感を放ち、世界中に熱狂的なファンを持つのが、イタリアンスクーター「ベスパ」だ。
ベスパとはイタリア語でスズメバチを意味し、その名の由来は車体後部が丸みを帯び、ふっくらとしたシルエットがハチのお尻を連想させたことと、「ブンブン」と聞こえるエンジン音がハチの飛ぶ音に似ていたことによるもの。
映画やテレビの主人公たちがそうしたように、都会を自在に走り、機敏に動き回れることもそのネーミングにピッタリと合っているではないか。
その最新型「プリマベーラ150カラーバイブ」に乗った。どんなシーンにも映えるスタイルに、鮮やかなオレンジとブルーの大胆な色使い。オシャレで目を引くから、乗り手もファッションに気をつけなければと気が引き締まる。
そういえば、工藤俊作はいつも黒か白のスーツで帽子をかぶって紳士的であったし、アン王女もしかり。単なる移動手段の足ではなく、ライフスタイルであり自己表現のできる乗り物であるからこそ、根強く愛されている。
性能的にも市街地を走るのには十分。排ガスの少ないクリーンで環境性能に優れる4ストロークSOHC3バルブ空冷単気筒エンジンは排気量が155㏄もあり、加速もキビキビ力強い。軽二輪登録となるから高速道路も走行可能だ。
試乗車はオプションのウインドシールドを備えており、防風効果を高めている。そのため、スピードレンジを上げてのクルージングも快適。休日は郊外へ、はたまたツーリングにだって行けそうな仕上がりだ。
ヘッドライトなど灯火器類は先進的なLEDに進化し、フロントディスクブレーキは車輪ロックを抑制するABS付きと安全性もバッチリ。盗難防止装置(イモビライザー)やUSB充電ポートを備えるなど最新鋭の装備も持つ。
そんなベスパが誕生したのは1946年と古く、77年の歴史を誇る。伝統あるブランドがかたくなに守り抜いてきたのが、スチールモノコックボディという車体構造で、車両自体がエンジンの入れ物になるという独特な設計だ。
実は航空機や鉄道車両を製造していたイタリアのピアジオ社が開発しているのだ。
通常のスクーターはパイプのフレームが骨組みとなってエンジンを搭載するが、モノコックボディはフレームレスで、外板全体で強度剛性を保つ。結果、軽量で取り扱いが簡単で、誰が運転しても乗りやすいなど利点が多い。
さらに前輪を片持ち式(1本サス)にしているのも大きなポイントで、これも航空機の技術を生かしたもの。12インチのアルミ合金製ホイールをじっくり眺めれば、このバージョンのみの特別なつや出しメタル仕上げで、足元はより精悍(せいかん)になっている。
専用グラフィックがボディ全体を斜めに横切るように入り、スポーティさも演出。足を置くフットボードまで大胆なターコイズブルーのオッタニオ(鴨の羽色)で塗られ、さすがはイタリアンスクーター、高級感も申し分ない。
特別感があり、所有欲もマニア心も満たしてくれるベスパの最新モデル。お値段は60万5000円。ファッショナブルに乗ってほしい一台だ。
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営