不正が発覚したダイハツのロッキー(左)とトヨタのライズ(右)。現在、販売・出荷は停止中 不正が発覚したダイハツのロッキー(左)とトヨタのライズ(右)。現在、販売・出荷は停止中
海外向け商品に続いて、国内モデルでも認証不正が明らかとなったダイハツ。国土交通省は立ち入り検査を実施。どのようにダイハツは正念場を迎えたのか?

5月19日、17時57分にダイハツから1通のメールが届いた。19時半から認証不正に関する緊急オンライン会見を行なうという趣旨であった。

その会見は、神保町の定食屋で打ち合わせをしていた自動車ジャーナリストのスマホで見た。不正の中身はこうだ。クルマの側面衝突試験のとき、本来は運転席側と助手席側のそれぞれの試験データを提出するものらしいが、なぜか今回は助手席側のデータを運転席側のデータと偽り国土交通省に提出したという。

会見が終わると、自動車ジャーナリストはスマホからこちらに目を向け、苦そうな声で言った。

「こりゃマズいよ」

もちろん定食の話ではない。言うまでもなくダイハツについてだ。なぜならダイハツは4月28日に海外向けの乗用車の衝突試験で不正を起こしたばかり。なのに、今度は国内向けのHEV(ハイブリッド)2車種の衝突試験での不正だ。

しかも、その2車種はドル箱のダイハツ・ロッキーと、トヨタ自動車にOEM供給しているライズ。2車種の合計販売台数は7万8440台で、約70%がトヨタのライズである。

国土交通省は、すでにダイハツに立ち入り検査を実施した。今回の経緯についての事実関係や、そのほかの車種に不正行為がないかなどを調査し、報告するようダイハツに指示したという。まさに正念場である。

今回のダイハツの不正で多くのメディアは親会社であるトヨタに問題の矛先を向け、グループ統治に問題がなかったか精査するよう迫っている。確かにダイハツはトヨタの完全子会社で、奥平総一郎社長はトヨタ出身だ。だからこそ、豊田章男会長と佐藤恒治社長はオウンドメディアで陳謝し、信頼回復への取り組みを表明したのだろう。

もちろん、親会社としての責任は取るべきで、異論はない。だが、不正を行なったのはあくまでダイハツだ。トヨタに責任を丸投げというか押しつけることで、この不正問題は本当の意味で解決するのだろうか。正直言って疑問だ。

クルマは人間の命を託す乗り物だ。それを造る会社が安全を軽んじて不正を働いた。まずダイハツはその事態の深刻さをしっかり認識すべきではないか。ひとつ危惧するのは、メディアの矛先が変わったことで、「いざとなったら親(トヨタ)がどうにかしてくれる」、そんな甘えにつながりやしないか。何より味を占めたら元も子もない。

今年1月13日、41回目を迎えた改造車の祭典「東京オートサロン2023」(千葉県千葉市)で目を引いたのは、ダイハツの「タントカスタムレッド/ブラック」。会社からチャンスをもらった若手デザイナーの力作であった。

その場で話を聞くと、入社3年目の担当者は顔を輝かせ、自らが取り組んだ仕事について熱っぽく語ってくれた。そして、インタビューの最後に笑顔でこう言った。

「会社が好きなようにやってみろと背中を押してくれて。本当にいい会社なんです」

2012年12月、ダイハツはムーヴに軽自動車で初めて衝突回避支援ブレーキなどの予防安全機能を設定した。このスマアシ搭載車両は累計400万台以上を誇る。

若手を抜擢し、安全を大切にしてきたダイハツ。ここで徹底的に膿を出しきり、自らの手で不正を撲滅してもらいたい。