2016年から週プレ自動車班はEV(電気自動車)の取材を本格化させた。前年12月に合意された「パリ協定」がトリガーとなり、世界的に脱炭素の流れが加速、ZEV(ゼロエミッションビークル=排ガスを発生させないクルマ)に注目が集まったからだ。
そして現在、脱炭素を掲げるニッポンはEVを普及させるため補助金を大盤振る舞いしている。というわけで、いわゆる"EVシフト推し"のメディアが書けない、試乗しないとわからないEVの「急所」を放出しよう。
■航続可能距離が見る見るうちに減少!
「クルマ出ます! 端に避けてくださーい!!」
「パァーン」
昨年11月25日、怒号とクラクションを何度も浴びた。場所は東京プリンスホテルの駐車場。JAIA(日本自動車輸入組合)主催のEV試乗会でのことだ。現地には27台の輸入EVがズラリと並び、報道陣以外にも、国や自治体の関係者などが足を運んでいた。
試乗の発着所となる駐車場では、常にスタッフの怒号が飛び交っていた。その理由はシンプルで、EVの走行音が静かすぎるのだ。そのため近づいてきたことがわからない。とあるインポーターは真顔でこう言った。
「ICE(内燃機関のクルマ)の試乗会では考えられない光景だよねぇ」
実際EVに乗るとわかるが、歩行者や自転車を運転する人たちはクルマが接近しても気が付かない。そのため急にクルマの前を横切られ、ヒヤッとした経験が何度もある。
電費も問題だ。EVは高速道路を走行するとバッテリーの減りが早い。内燃機関のクルマであれば、高速道路を走ると航続距離は長くなるものだが、EVは逆なのだ。特に驚いたのは最高速度120キロの区間。航続可能距離が見る見るうちに減ったからだ。同乗していた自動車ジャーナリストは、オートエアコンをオフにしながら言った。
「オートエアコンの電力は駆動用バッテリーから供給されている。エアコンは電気を大食いするし、冬場にヒーターを使うと電費はさらに悪化するんだ。EVの電費を伸ばしたいなら空調はキモになるよね」
バッテリー残量が少ない状態で渋滞にハマったりすると、オートエアコンやオーディオなどをチマチマとオフにしてしのぐしかない。そして、電欠の恐怖と戦いながら充電スタンドを目指す。慣れの問題かもしれないが、心臓に悪い。
何とかサービスエリアやパーキングエリアに到着しても気は休まらない。すぐに充電スタンドにありつければいいが、先客がいると途方に暮れる。急速充電器の利用時間は30分。正直、先客の充電がいつ終わるのか読めず、仕方なくその場で時間を潰すしかない。
当然、自分の充電にも30分かかり、先客がいたら最大1時間を失う。人生の時間が無限ならともかく、EVの充電時間は不毛に感じる。ガソリンスタンドの給油ならどんなに混んでいても数分で終わるからだ。
だが、高速道路はまだマシ。人里離れた急勾配の山道などでバッテリー残量が少なくなると焦燥感に駆られる。辛うじて充電スタンドに辿り着けたとして、故障中、あるいは撤去されている場合もあり、そのときの徒労感たるや......。
ニッポンの充電インフラはかなり脆弱なため、現状EVは完璧で究極な環境車だとは言い難い。それでも国はEVを普及させるため、補助金を大盤振る舞い。新型コロナの影響により収入が減少し、物価高や電気料金の値上げに苦しむ庶民を尻目に、値の張るEVをゴリ押ししている。
もちろん、補助金の原資は税金だ。なのに、EVを購入しない庶民に恩恵はない。これでは血税のバラまきと批判されても仕方ないだろう。
国の偉い人たちは自らEVのハンドルを握って日本を一周すべき。そして、EVのリアルをつぶさに見たほうがいい。なぜ普及の勢いが鈍いのかよくわかるはずだ。