R34型スカイラインGT-Rは1999年1月に発売。スカイラインの名前が前に付く最後の「GT-R」であるR34型スカイラインGT-Rは1999年1月に発売。スカイラインの名前が前に付く最後の「GT-R」である
ニッポンの至宝・R34型日産スカイラインGT‐R。来年1月からこのクルマにも〝25年ルール〟に該当する車両が出る。いったいどんなルール? なぜ中古価格高騰と紐づく? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。

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■25年で海外流出する280馬力スポーツカー

近年、スポーツカーを中心に、国産中古車の価格が高騰している。理由はふたつある。ひとつ目は新型コロナの影響で、新車の納期が延びて購入が困難になったことだ。新車を買えないから、中古車需要が高まり価格が高騰している。

ふたつ目の理由は、海外、特に北米における日本の国産スポーツカーの高人気だ。北米は原則として右ハンドル車の輸入を認めていないのだが、製造されて25年以上を経過した古いクルマは許される。なぜか? 要するに25年を経過すれば、骨董品の価値が生まれ、クラシックカーの部類に入るというわけだ。この制度のことを通称「25年ルール」と呼ぶ。

本稿の執筆は2023年だから、25年前は1998年だ。98年以前に製造されたクルマなら、25年ルールに基づき、北米への輸出が可能になる。そのために1980年代から1990年代に製造されたスポーツカーが、輸出を前提に中古車市場で積極的に売買され、今や中古車価格は天井知らずになっている。

伝説のスポーツカー「トヨタ2000GT」1967年にデビュー。トヨタとヤマハ発動機のコラボ作である伝説のスポーツカー「トヨタ2000GT」1967年にデビュー。トヨタとヤマハ発動機のコラボ作であるスカイライン2000GT-Rの誕生は1969年。4ドアのみの設定だったが、1970年10月に2ドアを設定スカイライン2000GT-Rの誕生は1969年。4ドアのみの設定だったが、1970年10月に2ドアを設定
ここで国産スポーツカーの歴史を振り返ると、1960年代に第一次パワー競争が発生した。トヨタ2000GT、日産スカイライン2000GT-R、三菱ギャランGTOなどが人気を集めた。ただし当時はターボの実用化前で動力性能も低く、最高出力の上限はスカイライン2000GT-Rの160馬力に留まった。今では保有台数も限られ、中古車でも特殊な存在だ。

その後、1970年代には厳しい排出ガス規制が実施され、日本車の動力性能は伸び悩んだ。それが80年代に入ると、技術の進歩によって排出ガス規制も克服され、ターボ車も加わり、第二次パワー競争が始まった。200馬力オーバーは当然になり、最高潮に達したのは89年だ。

日産からZ32型フェアレディZ、R32型スカイラインGT‐Rが発売された。90年にはホンダNSX、三菱GTO、マツダユーノスコスモも加わり、これらはすべて最高出力が280馬力のグレードを用意していた。

89年7月に発表されたZ32型フェアレディZは、最高出力280馬力の先陣を切った。このZ32が自主規制の上限数値に89年7月に発表されたZ32型フェアレディZは、最高出力280馬力の先陣を切った。このZ32が自主規制の上限数値に
280馬力で統一されたのは、運輸省(現在の国土交通省)がパワー競争を避けるため、各メーカーに自主規制を実施させたからだ。89年7月に発表されたZ32型フェアレディZの最高出力が280馬力だったため、これが自主規制の上限数値になり、2004年に3代目レジェンドが300馬力を達成するまで続けられた。

そして現在、25年ルールに基づき、89年から98年に製造された280馬力のスポーツカーを中心に、北米へ活発に輸出されている。この影響で中古車価格が高騰しており、その一例は以下の通りだ。

■25年ルールで輸出される1990年代に新車販売された中古スポーツカーの相場

・Z32型日産フェアレディZ:350~450万円(新車価格と同等)
・R33型日産スカイラインGT-R:700~900万円(新車価格の1.5~2倍)
・A80型トヨタスープラ:600~800万円(新車価格の1.3~2倍)
・三菱GTO:300~400万円(新車価格と同等)
・FD3S型マツダRX-7:450~800万円(新車価格の1.2~2.2倍)

1995年から1998年にかけて販売されていたR33型スカイラインGT-R。新車時の販売台数が少ないためお宝化1995年から1998年にかけて販売されていたR33型スカイラインGT-R。新車時の販売台数が少ないためお宝化
25年ルールの適用を受けるスポーツカーは、上記のような中古車価格で販売される。ここでは瞬間風速的に高値を記録した車種は除いたので、大半の中古車が新車時を上まわる価格で販売されている。

そして、映画「ワイルド・スピード」で注目を集め、アメリカでも高い人気を誇るR34日産スカイラインGT‐R。いよいよ来年1月から25年ルールに該当する車両が出る。さらなる高騰は確実だろう。

ちなみに古いクルマの新車価格を判断する場合、物価や所得の変化を補正する必要も生じるが、上記の車種では不要だ。平均給与所得は、90年代の後半をピークに下がっており、今でも当時の水準に戻っていないからだ。物価にも大きな変化はなく、90~98年頃に生産されたスポーツカーを今でも所有する場合、資産価値は購入当時と同等か、それ以上に高まっている。

■古いクルマを大切に乗ると増税するニッポン

25年ルールに基づいて古い国産スポーツカーの輸出が活発になり、国内の流通台数が減って中古車価格を押し上げるのは自然な流れだ。ただし、国内よりも海外の方が、古いクルマを大切に愛用しているとも受け取れる。

特に日本の場合、最初に登録されてから13年を経過すると、自動車税と自動車重量税が増税される。18年を経過すると自動車重量税はさらに高まる。

1993年から2002年にかけて発売されたトヨタのA80型スープラは、現在世界的な人気車。価格も絶賛高騰中1993年から2002年にかけて発売されたトヨタのA80型スープラは、現在世界的な人気車。価格も絶賛高騰中ローターリーターボを搭載し、1991年にその美しいフォルムとローターリーターボでファンを魅了。2002年8月生産終了ローターリーターボを搭載し、1991年にその美しいフォルムとローターリーターボでファンを魅了。2002年8月生産終了
例えばR33型スカイラインGT-Rの場合、初年度登録から13年までの自動車税は年額5万1000円だった。それが18年を超えた今は、年額5万8600円を徴収される。自動車重量税は、初度登録から13年までは、車検時に納める2年分が3万2800円だった。それが13年を超えると4万5600円に増税され、18年を超えた今は5万400円。

古いクルマを悪者のように増税し、廃棄を促すことが当たり前になった今の日本では、古いクルマを大切に使う発想は根付かない。これからも優れた日本車が、次々と海外へ流出していくだろう。

同時にさまざまな商品を安易に使い捨てる考え方も加速する。このような自動車税制を続けていたら、SDGs(国連が掲げる持続可能な開発目標)も促進されない。モノを大切する気持ちがあってこそ、リサイクルも進むからだ。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。〝クルマ購入の神様〟。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員