3月30日に発売となり、人気を呼んでいるのがブランド初となるEV専用ボディを持つレクサスRZだ。ストロングポイントはどこ? 気になる走りの実力は? フランスで開催された国際試乗会で徹底チェックした自動車研究家の山本シンヤ氏が特濃解説する。
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■RZのキモ! ステアバイワイヤ
山本 レクサス初となるEV(電気自動車)専用モデル「RZ」をフランスで試乗してきました。
――RZはスゴく話題のモデルですが、その理由は?
山本 ご存じのようにレクサスはトヨタ自動車の高級ブランドです。加えてレクサスは、2021年12月にトヨタ自動車の中で電動化をリードしていく存在になると発表されています。具体的には、2035年までに世界で販売するレクサスのクルマをすべてEVとFCEV(水素燃料自動車)にします。
――つまり、これから電動ブランドに生まれ変わるレクサス初のEV専用モデルだから注目が高いと?
山本 それだけじゃありませんよ。RZのハンドルを見てください。
――ぬおっ! なんだ、この飛行機の操縦桿(そうじゅうかん)というか、斬新にも程があるハンドルは!
山本 これはRZのキモといわれる最新のステアリングシステム「ステアバイワイヤ」搭載車です!
――ステアバイワイヤを簡単に説明すると?
山本 ステアリングホイールとタイヤを物理的に切り離す技術で、ドライバーのハンドル操作が電気信号となり、ワイヤーを介して前輪を操舵(そうだ)するモーターへと送られるという仕組みです。
――ステアバイワイヤのメリットはなんですか?
山本 車両の走行シーンに応じてステアリングのギア比を自由に変えられることです。
――どういうこと?
山本 ステアリングに求められる性能は、実用域では取り回し性、ワインディングなどでは俊敏性、高速道路では安定性とさまざまです。フツーのステアリングはどこかひとつに合わせなければなりませんが、ステアバイワイヤは速度や走行状況に応じて自由自在に調整ができてしまう。
――マジっスか!
山本 さらにステアリングとタイヤが機械的につながっていないメリットを活用し、不要な振動なども遮断できる。ノーマルステアリングよりもスッキリ滑らかな操舵感です。
――実際に運転すると?
山本 ノーマルのステアリングの感覚でステアリングを切ると思った以上に曲がるので、使い始めは気になると思いますが、慣れてしまうとまるでクルマのサイズやホイールベースが小さくなったと錯覚するような取り回しの良さが実感できます。
たとえると、スマホでテンキー入力からフリック入力に変えたときのイメージに似ています。「慣れたら、元に戻れない」みたいな。
――気になるところはない?
山本 個人的には、ステアリング形状のインパクトに対し、インパネ周りが意外とフツーのデザインなので、バランスという点で微妙です。ノーマルのステアリングもラインナップする関係で、大胆に振り切れなかったことが原因ですね。
――RZの走りはどうです?
山本 2t超の車重のSUVですが、基本素性の良さと前後モーターを綿密に制御する四輪駆動力システム「ダイレクト4」の効果により、スポーツカーのごとく路面に張りつき安定して曲がります。
制御デバイスは人の感覚と合わないことも多いですが、RZのそれは機械に強制的に曲げられている感じは皆無で、シームレスで滑らかな制御です。運転していると、「アレレ? 運転がうまくなったのか?」と感じるはず。
――つまり、RZは走りが楽しいクルマってこと?
山本 そうですね。個人的には今、レクサスのモデルラインナップの中で最も「レクサスらしい」ドライビング体験ができると思いました。
――ちなみにステアバイワイヤモデルの発売は、もう少し先だと聞きました。
山本 僕はそのまま市販化していい状態だと思っていますが、開発陣は「もう少し煮詰める必要がある」と語り、最後の仕上げをしている最中です。その気持ちはよくわかりますが、出すタイミングも大事なので、ぜひとも早めの導入をお願いしたいですね。
●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営