メーターパネルは液晶。ボディサイズは全長4585㎜×全幅1850㎜×全高1640㎜。航続距離はWLTCモードで618㎞ メーターパネルは液晶。ボディサイズは全長4585㎜×全幅1850㎜×全高1640㎜。航続距離はWLTCモードで618㎞
昨年、輸入EVは日本で1万4341台を販売した。しかも、国産EVよりお高いモデルが多い中で、史上初となる1万台を突破。特に欧州EVのモデルの多さは目を引くものがある。その背景には何が? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎が解説する。

■欧州がEVへと突き進んだワケ

最近は日産と三菱自動車が放った軽EVや、トヨタとスバルの協業EVなど、国産のEV(電気自動車)が徐々に増えてきた。特に日産サクラは発売1年で累計販売4万台を突破し、大きな話題を呼んでいる。

しかし、日本で販売されているEVを見ていくと、国産車以上に欧州車が多い。フォルクスワーゲン、アウディ、ポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMW、ジャガー、ボルボなど、大半の輸入ブランドが複数のEVを用意している。

発売1年で累計販売4万台を軽く突破した絶好調の日産の軽EVの「サクラ」 発売1年で累計販売4万台を軽く突破した絶好調の日産の軽EVの「サクラ」
なぜEVは欧州車が目立つのか。それは二酸化炭素の排出基準に基づく。

過去を振り返ると、欧州自動車工業会は、1998年に自主規制による二酸化炭素の排出削減目標を設定した。

この後、2009年に排出規制が成立して、新車販売される乗用車の企業別平均二酸化炭素排出量を2015年までに1km走行当たり130g、2021年までに95gに抑える基準が設定された。だが、この基準ならトヨタのHEV(ハイブリッド)でも十分にクリアできる。実はEVが唯一の達成手段ではないのだ。

ところが2021年に欧州委員会が、新車として売られる乗用車や小型商用車について、2035年までに二酸化炭素排出量をゼロにする方針を打ち出した。二酸化炭素排出量をゼロとするには、ガソリンや軽油を燃焼させるエンジンは搭載できず、HEVも禁止される。そのために欧州では、エンジンを搭載しないEVに力を入れている。

フォルクスワーゲンのコンパクトSUVタイプのEV「ID.4」は、2021年にワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞 フォルクスワーゲンのコンパクトSUVタイプのEV「ID.4」は、2021年にワールド・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞
欧州がEVに力を入れる理由はほかにもある。ご存じの方も多いと思うが、2015年には、北米でフォルクスワーゲンによるディーゼルエンジン車の排出ガス不正問題が発覚した。これがきっかけになってディーゼルのイメージが下がり、売れ行きも低下して商品開発がEVに向かった側面もある。

さらに言うと、フォルクスワーゲンはアウディ、ポルシェ、ランボルギーニなどを傘下におく。この不正によりグループのブランドイメージには大きな傷が付いた。その失地回復のため、フォルクスワーゲンは〝EVシフト〟の政策を大々的に掲げた。

そしてそれに呼応するように、欧州委員会も欧州グリーンディール政策を猛烈な勢いで推し進めた。結果、メルセデス・ベンツ、BMW、ジャガー、ボルボなどのプレミアムブランドもEVに足を踏み込んでいった。

こうして欧州の各自動車メーカーはEVへと突き進んだわけだが、今年3月に欧州連合とドイツは、2035年以降も合成燃料「eフューエル」の使用を前提にエンジン搭載車の販売を認める合意を行なった。

■EVだけが脱炭素の切り札?

要するにEVを取り巻く状況は頻繁に変わり、方向が実に見えにくい。EVの性能についても、走行段階では二酸化炭素を排出しないが、火力発電を行なうと発電段階で二酸化炭素を発生させてしまう。発電段階までゼロにするには、再生可能エネルギーや原子力発電に頼らねばならない。後者が問題を抱えることを踏まえると、再生可能エネルギーの普及が不可欠だろう。これには相当な時間も要する。

そうなると、短期間でエンジンを全廃してEVに変更するのは難しく、今後もHEVが重要な技術になる。WLTCモード燃費が25㎞/Lを超えるHEVは、火力発電によってEVを走らせるのに比べると、トータルの二酸化炭素排出量が少ないという指摘もある。HEVは、化石燃料を最大限度まで有効活用できる技術だから否定すべきではないだろう。

BMWのフラグシップEVセダン「i7」。ゴツ顔にも程がある顔面に注目が集まるが、ボディのデカさもハンパない BMWのフラグシップEVセダン「i7」。ゴツ顔にも程がある顔面に注目が集まるが、ボディのデカさもハンパない メーターとスクリーンを融合させた「カーブドディスプレイ」が目を引く。ボディサイズは全長5390㎜×全幅1950㎜×全高1545㎜。航続距離はWLTCモードで650㎞ メーターとスクリーンを融合させた「カーブドディスプレイ」が目を引く。ボディサイズは全長5390㎜×全幅1950㎜×全高1545㎜。航続距離はWLTCモードで650㎞
また、日本のEV技術が遅れているという話も、捉え方はさまざまだ。現時点におけるEVの車種数、1回の充電で走行できる距離などを見れば、国産EVは輸入車に見劣りする。

しかし今後発売される国産EVに、巻き返しを図る技術が搭載される可能性も高い。今月13日にトヨタが発表した内容によると、HEVの駆動用電池が採用する画期的なバイポーラ構造をEVにも応用して、航続可能距離はbZ4Xの20%アップ、コストは40%減らし、急速充電は30分以下にするという。高効率な全固体電池の耐久性を向上させるメドも立ったとのことで、近い将来、魅力的なEVが登場する可能性も高い。

とはいえ、最終的な目標はあくまでも二酸化炭素の排出抑制であり、多様な技術の可能性を追求する姿勢が不可欠になるだろう。EV一辺倒では、地域のニーズやさまざまな状況の変化に対応しにくくなってしまう。今後、国はそれらをシッカリ見極めていく必要がある。

●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう) 
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。"クルマ購入の神様"。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員