今年発売された新型、取材した話題のモデルの中から、珠玉にも程があるやりすぎカーを勝手に表彰! 選考委員長はこの道40年の大ベテラン、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が務める。
てなわけで、独断のみの審査を経て、見事に受賞した12台をココにドバッと一挙大放出!
■6600万円のPHEVがランクイン!
――委員長、誌面の都合もあるので1位の発表からオナシャス!
渡辺 はい、発表します。上半期の1位は今年で42回目を迎えた改造車の祭典「東京オートサロン2023」に出展されたトヨタのAE86 BEVコンセプトと、AE86 H2コンセプトです!
――どこがやりすぎ?
渡辺 BEVコンセプトはEV(電気自動車)、H2コンセプトは水素エンジン車です。1983年に発売されたAE86型カローラレビンとスプリンタートレノという、現在も根強い人気を誇る旧車に最新の脱炭素機能をブチ込んだところですね。
――トヨタはこの魔改造で何を訴えた?
渡辺 今後は日本でも、ガソリンや軽油を燃焼させるエンジン搭載車が全面禁止される可能性があります。燃料の流通も止まったら、われわれの愛車はどうなりますか?
――普通に考えると、もう走行はできませんよね。
渡辺 その対策が、愛車をEVや水素エンジン車に改造することなのです。長年寄り添ってきた愛車と過ごす幸せを諦める必要はありませんよと。トヨタはそれをAE86で表現したわけです。
――なるほど。続いて2位はなんですか?
渡辺 ランボルギーニレヴエルトですね。ランボルギーニはエコロジーとは真逆のイメージですが、レヴエルトはなんとPHEV(プラグインハイブリッド)で登場! 価格は約6600万円の予定です。
――どんなスペックですか?
渡辺 エンジンはV型12気筒6.5Lで、前輪に2個、後輪に1個のモーターを搭載しています。エンジンとモーターを合計したシステム最高出力は1015馬力!
――オー! モーレツ!
渡辺 停車状態から時速100キロに到達するまでの所要時間は2.5秒、最高速度は時速350キロだそうです。もはや法定速度の範囲内でフル加速するのは困難です。
――駆動用の電池の容量は?
渡辺 これまた驚きで、総電力量はわずか3.8kWhです。プリウスPHEVでも13.6kWhですから、レヴエルトの電池容量は約4分の1。
――パワーは大きすぎで、電池は小さすぎ!
渡辺 すべてをやりすぎで造るのがランボルギーニ流。そもそもランボルギーニは、トラクターメーカーとして出発し、スーパーカー市場に乗り込んできました。そういう独特の企業風土がある。まぁ、1015馬力と3.8kWhの組み合わせは、エコに対するランボルギーニ流の皮肉かもしれません。
――そして3位はBMWですね。
渡辺 はい。BMWのEV、i7です。これも実に濃厚なやりすぎカーです。ベースは7シリーズセダンで、全長は約5.4m、全幅も2m近い。セダンなのに全高は1.5mを超えており、異様なほど背が高い。独特の存在感がありますし、伝統のキドニーグリルのフロントマスクは完全にやりすぎ。素直に美しくない。
――スペックはどうスか?
渡辺 パワフルなM70ⅹドライブは、前後にモーターを搭載し、トータルのシステム最高出力は659馬力、システム最大トルクは1015Nmに達します。停車状態から時速100キロまでの加速タイムは3秒台です。
――セダンなのに加速性能はスポーツカー並み!
渡辺 ただ、その結果、駆動用電池の総電力量も105.7kWhと大きく、200V(32A)の普通充電だと満充電になるまで17時間......。今はEVが普及を始めた段階ですから、「今までのエンジン車とはこんなに違うんだ」と性能の限界をアピールしている面はありますが、やりすぎ!
■ついにレクサスからミニバンが登場!
――4位は?
渡辺 アメリカが誇るSUV、キャデラックエスカレードです。1~3位はモーター駆動を使うやりすぎの電動車でしたが、キャデラックエスカレードは正反対です。エンジンはV型8気筒6.2Lで、電動機能はありません。ボディは超大柄で、全長は5.4m、全幅は2mを軽く超え、車両重量も2.7tです。
――うおー、全部やりすぎ!
渡辺 ただしキャデラックの魅力は、昔からやりすぎのクルマ造りにある。ボディは大きく、内外装はギッラギラのメッキ仕上げ。エンジンはV型8気筒で、1970年代の前半には排気量を8.2Lまで拡大し、それこそガソリンをバラまきながら豪快に加速していたもんです。
――古き良きアメリカ車!
渡辺 アメ車、特にキャデラックに対する日本のイメージは50年前と同じです。ですから今でも、SUVになりましたが、むやみに大きなエスカレードが人気を集める。
逆に2Lターボを積んだセダンのキャデラックATSは、力を入れて開発したのに、日本ではサッパリ売れず中古車価格も200万円以下......。ちなみにこのエスカレード、EV版が間もなく発表されます。やりすぎ度に注目ですよ!
――5位はレクサスですか。
渡辺 はい、LMを選びました。LMはLサイズのミニバンで、基本部分はアルファード&ヴェルファイアと共通です。先代は海外専用車でしたが、新型は2023年中に日本で発売されます。
――LMのやりすぎポイントはどこですか?
渡辺 LMは、日本で売られた従来のレクサス車と比べ、存在そのものがやりすぎ。1989年に北米で開業したレクサス当初の目的は、トヨタブランドではなじみにくい高級車の売り込みでした。
――ふむふむ。
渡辺 しかし2005年に始まった国内版レクサスの目的は、日本で販売台数を増やすメルセデス・ベンツやBMWから、トヨタの高級車市場を守ることになった。
ただし、05年当時のレクサスは、「日本で扱うのはセダンとクーペのみ。SUVなどは導入しない」と述べていました。日本では高級ブランドに、野性的なSUVは似合わないと判断したわけです。
――ところが、その状況は変わったと?
渡辺 セダンの販売低迷が顕著になり、09年にSUVのRXを導入しました。それでも新型車には慎重でしたが、直近になるとコンパクトSUVのLBX、悪路向けSUVのGX、そしてついにはレクサスがミニバンを導入するまでになったわけです。
――どうして"なんでもアリ"のレクサスになった?
渡辺 レクサスの販売台数は、国内でメルセデス・ベンツを抜けません。そこで従来の車種を厳選してブランドを構築する方針から、フルライン体制に切り替えています。
ヤリスクロスをベースにしたLBX、ランクルプラドが基本のGX、アルファード&ヴェルファイアがベースのLMという具合に、トヨタ車の数だけレクサス車を用意する作戦です。当初の売り方を振り返ると、ミニバンのLMはやりすぎです。
■日産のコンセプトカーは、ピアノを搭載!
――6位は?
渡辺 日産GT-Rの24年モデルです。定番商品ですが、価格がやりすぎ。07年の登場時点では777万円だったのに、24年モデルは、最も安価なピュアエディションでも1375万円です。フルモデルチェンジも受けずに、発売時点と比べて1.8倍の値上げはやりすぎでしょう。
――7位は?
渡辺 今年のオートサロンに出展された日産ルークススイートコンセプトです。ルークスの後席を大きなひとりがけに変えています。車両の後部には小さなトレーラーが連結され、そこにピアノを搭載。親が娘の結婚式にルークススイートコンセプトで乗りつけ、父親がピアノを弾くというコンセプトだそうです。
――ズバリ、日産の狙いは?
渡辺 わかりません! まぁ、ひとつ言えるのは、典型的なやりすぎのコンセプトカーなのかなと。
――8位も日産?
渡辺 セレナの最上級グレード「e-POWERルキシオン」。手放しでも運転支援を受けられるプロパイロット2.0を標準装着し、価格は500万円弱です。
上級ミニバンの日産エルグランドが、発売から約13年を経過して売れ行きも下がっている。そこで、エルグランドからの乗り替えを考慮し、最上級グレードを設定したのだと思います。ただ、この価格はやりすぎ。
――9位は再びランボルギーニの登場です。
渡辺 ランボルギーニウラカンを選びました。ランボルギーニの主力車種ですが、エンジンはV型10気筒です。脱炭素が叫ばれる今の時代に、ガソリン車で、最高速度300キロ超は、誰がどう考えてもやりすぎでしょう。
――ラスト10位は?
渡辺 トヨタのアルファード&ヴェルファイア。最上級のヴェルファイアエグゼクティブラウンジの価格は892万円で、やりすぎ価格ですが、モーレツに売れており納期はすでに1年以上! 販売会社によっては発売直後に受注を止めています。再開時期は不明で、納期もやりすぎです。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。"クルマ購入の神様"。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員