国と自治体はEV(電気自動車)の普及を目指し、補助金を大盤振る舞いしている。しかし、7月1日、国は東京電力エリアの一般家庭や企業に対して節電要請をスタートした。実にあやふやな電力政策ではないか。EV補助金の背後で何がうごめいている?
■不公平な"EV補助金"
予算総額900億を誇る国のCEV(クリーンエネルギー自動車導入促進補助金)補助金を利用すると、軽EV(電気自動車)は最大55万円、EVは85万円が交付される。仮に東京都千代田区在住の人間が、発売1年で4万2000台以上を販売した軽EV「日産サクラ」を購入した場合、国の補助金は最大55万円、東京都からも最大55万円。さらに千代田区からは20万円が交付され、補助金の合計は130万円にも達する。
言うまでもないが、国と自治体の補助金の原資は税金だ。なのに、EVを購入しない、あるいは購入できない人には一ミリもメリットがなく、単なる"血税のバラまき"にしか見えない。実に不公平な制度だ。
加えて、現時点ではニッポンの充電インフラは非常に脆弱である。なのに、国と自治体は躍起になってEV補助金を大盤振る舞いする。疑問というか、大きなナゾだ。
ほかにも不思議な点はある。実は6月9日に国は東京電力エリアの節電要請を決め、7月1日からスタートした。
一方、EVに目を向けると、世界的に売れている、いわゆる航続距離の長いEVが積んでいるバッテリー容量は75kWh。ザックリ言うと、一般家庭の約7日分の電力を食らう。EVが航続距離を伸ばすためには、当たり前の話だが大量の電気が必要になる。
何が言いたいのかというと、国は安定した電力供給を行なえず、国民に節電を迫っている。電気料金も高止まりしたままだ。そんな状況下にも関わらず、一般家庭の約7日分の電力を食らうようなEVの普及を推し進め、補助金という名の血税をバラまいている。
要するに、「電気が足りない!」と叫び、その同じ口で、電気を大食いするEVの普及を煽っているわけだ。ごく控えめに言って国の電力政策は整合性ゼロ。ムチャクチャだ。
付け加えると、日本の発電量の3割は石炭火力発電とされる。石炭は火力発電の中でもCO2の排出量が多いと世界中の識者が指摘している。いくらEVが排ガスゼロでも、充電に使用する電気が石炭火力発電由来では脱炭素の意味はなく、本末転倒にも程がある。国が本気で環境を考え、EVの普及を進めるのであれば、再生可能エネルギーの活用は不可欠だろう。
■EV普及はダレトク?
では、EVが完全に普及した未来には何があるのか。仮に日本を走るクルマのすべてがEVになったら、当然ガソリンスタンドは消滅し、その空席には電力会社が腰をおろす。その大役を担う自負が、すでに電力会社に芽生えているのかどうかは知らないが、ネットを中心に、国や自治体のEV補助金がいかに魅力的なのかを熱心に訴えている。
だが、日本を走るクルマが全部EVになった場合の充電は、再生可能エネルギーだけではとても賄えない。再生可能エネルギーは大量に増やせないからだ。石炭火力発電は論外で、だとすると、最適解は何かと考えれば、国内の原発をフル稼働させるしかないという結論にたどり着く。
偶然なのか、岸田政権は原発回帰の色を鮮明にしている。ロシアによるウクライナ侵攻などの影響でエネルギー価格が爆上がりしているため、というテイで、原発の新規建設や原発を60年以上動かしてもかまわないという法律を成立させた。
現在、ニッポンで原発が稼働しているのは西日本だけ。原発回帰を強める国からすれば、「脱炭素」と「EV」のセットメニューは隠れ蓑やダシとして使い勝手が良い。そのためのEV補助金だとするなら、デタラメの極みだ。
東日本大震災により、史上最悪レベルの原発事故を引き起こした東京電力福島第一原子力発電所。この大惨事により周辺住民は故郷を奪われ、今も避難生活を余儀なくされている。昨年、とある取材で現地周辺を見て回ったが、原発事故の爪痕は残ったままだった。
脱炭素を「錦の御旗」にし、原発由来の電気のみで走るEVがニッポン中に溢れ返る。もし国の偉い人たちがそんな未来を本気で描き、EV補助金をバラまいているとするのなら、それはまさしく愚の骨頂である。