三菱が誇る看板モデル「デリカ」を名乗る軽自動車の実力はどうか? 千葉県で開催された公道試乗会でカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が徹底チェック。ウワサのデリカミニの魅力に迫った!!
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■フルチェンではなく大幅改良のデリカミニ
――三菱の新型軽自動車「デリカミニ」の販売が好調らしいスね?
渡辺 今年1月13日から5月24日までに約1万6000台を受注しました。ちなみに昨年、三菱が国内で販売した軽自動車の台数は約4万1000台です。デリカミニの受注は年間販売台数の3分の1以上で、三菱久々のスマッシュヒットといえますね。
――人気のワケは?
渡辺 デリカミニは正確には新型車ではありません。eKクロススペースの大幅改良版なのですが、フルモデルチェンジ以上に注目された理由は顔面のプチ整形でしょうね。
――えっ、どういうこと?
渡辺 デリカミニはeKクロススペースをベースにしながら、フロントマスクを刷新しました。
三菱の商品企画を担当した山本聡氏は、「ヤンチャな男のコのイメージで、親しみやすい表情に仕上げました。また、新しいフロントマスクに合わせて、車名もわかりやすいデリカミニに変更しました」とのこと。車名も成功の秘密でしょうね。
――マイチェンなのに、スゴい力の入れようですね?
渡辺 山本氏は「ランプを縦に並べた以前のeKクロススペースのフロントマスクは、子供を持つお父さんたちには好評でしたが、お母さんたちからは『威圧的に感じる』という声が多かった」と説明していました。
軽自動車はお母さんが子供の送迎などに毎日使う場面が多い。そこで、今回の改良でより親しみやすい顔と名前にしたわけです。
――車内の造りも刷新?
渡辺 基本的には、以前のeKクロススペースと同じです。ただ、広くて快適。インパネの上端やサイドウインドーの縁が低く、前後左右ともに視界が優れています。
――後席の広さなどは?
渡辺 大人が座ると座面の奥行きが短く、少し違和感があります。シートを下げて、足元に空間をつくると、座り心地は快適になります。
――気になる走りですが、コチラはいかがでした?
渡辺 試乗車は販売比率が最も高いターボエンジンを搭載しTプレミアムの4WDで、加速性能にも余裕がありましたね。そのため、アクセルペダルを深く踏む機会は少なく、エンジン音はとても静かでした。
――乗り心地はどうです?
渡辺 試乗した4WDは、デリカミニになって、足まわりのショックアブソーバーとタイヤを刷新しています。最低地上高が160㎜に拡大され、悪路のデコボコを乗り越えやすくなっていましたよ。タイヤの空気充填量も増えたため、乗り心地も快適でした。
――安定性は?
渡辺 4WDの全高は、最低地上高の拡大もあって1830㎜に達します。全幅は軽自動車だから1475㎜と狭く重心が高い。そうなると一般的には、ステアリング操作に対する車両の反応を鈍く抑えて、後輪の接地性を保ちます。
つまり、高重心のクルマで快適な乗り心地と自然に曲がる操舵感を両立するのは難しいのですが、デリカミニは上手にバランスを取っていましたね。運転していても違和感はありませんでした。
――走りに関して、開発陣からはどんな声が?
渡辺 三菱の商品力評価部の平山敦朗氏は、「足まわりは綿密に造り込みました。しかも、デリカミニの4WDは、タイヤの外周部と車高を変更したため、安全装備や運転支援機能の制御もすべて見直す必要があった。正直、このような4WDの大幅変更は、通常の改良ではありえません」と述べていました。
――要するにフルチェン並みの改良を施したと。ちなみにデリカミニのライバル車は?
渡辺 デリカミニはスライドドアを備えた天井の高いスーパーハイトワゴンなので、ライバル車の筆頭は同じカテゴリーのホンダN-BOXです。SUV風のグレードはありませんが、国内の最多販売車種ですから、購入時に迷う人は非常に多いと思います。
――ズバリ、デリカミニはN-BOXに勝てる?
渡辺 N-BOXは国内販売の〝絶対王者〟らしく、内装の造りが丁寧です。乗り心地も快適でノイズも小さい。上質感はデリカミニを上回る。
――ふむふむ。
渡辺 その代わりデリカミニは、フロントマスクなどの外観が個性的で、悪路走破力も高く、シートは撥水生地です。G/Tプレミアムのグレードには、樹脂ラゲッジボードやPVC(塩化ビニール)後席シートバックも備わり、屋外で汚れたグッズを積んだときも清掃しやすい。SUVの実用機能に関してはデリカミニが勝っていますね。
――デリカミニの納期は?
渡辺 販売店には6~8ヵ月と返答されました。デリカミニが本気で欲しい人は、なるべく早く販売店に行ったほうがいいと思います。
●渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務める。"クルマ購入の神様"。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員