複数の従業員が関わる衝撃の不正問題が発覚、大炎上がどうにも止まらない中古車販売大手「ビッグモーター」。写真は東京都内にある同社の店舗複数の従業員が関わる衝撃の不正問題が発覚、大炎上がどうにも止まらない中古車販売大手「ビッグモーター」。写真は東京都内にある同社の店舗

顧客から預かったクルマを故意に傷つけるなどして、自動車保険の保険金を不正請求し、売り上げを上げていた中古車販売大手「ビッグモーター」。実はこの不正問題が中古車業界全体に飛び火している。

そして昭和、平成から続く、中古車業界にはびこる「闇」とは?

■保険金をせしめる自作自演の犯罪行為

全国に300近い店舗を展開する中古車販売「ビッグモーター」は、顧客のクルマを意図的に傷つけた上、大手損害保険会社3社に自動車保険の保険金を不正請求して売り上げを上げていた。このビッグモーターの不正行為に大ブーイングが巻き起こっている。

おさらいをすると、ビッグモーターの整備士らは上司の指示により、顧客から預かったクルマのボディをドライバーやろうそく、サンドペーパーなどを使用して傷つけたり、ゴルフボールを靴下に入れて振り回してぶつけるなどしていた。要するにビッグモーターは、保険金をせしめる自作自演の犯罪行為を行なっていたわけだ。

ちなみにビッグモーターは、7月16日時点での調査結果をホームページで公表している。それによると、昨年11月以降に保険金を請求した8427件を調査し、約15%となる1275件で保険金を不正請求した。

ビッグモーターの兼重前社長は今回の不正について、板金塗装部門の暴走を主張し、組織ぐるみの犯行を否定したが......。写真は同社のホームページよりビッグモーターの兼重前社長は今回の不正について、板金塗装部門の暴走を主張し、組織ぐるみの犯行を否定したが......。写真は同社のホームページより

つまり、複数の従業員が関わる"通常業務"の一環になっていたということ。昨年11月以降だけでこの数字なのだから過去をさかのぼったらどうなるかは言うまでもないだろう。

この中古車販売大手による不祥事には、これまで実直に仕事に打ち込んできたほかの中古車ショップや整備士などから、「客や取引先から痛くもない腹を探られて困惑している」「風評被害の広がりが心配だ」という恨み節が聞こえてくる。

だが、中古車業界に詳しいベテランの自動車記者はこう話す。

「確かに真面目に商売をやっている人には気の毒ですが......中古車業界は、そんなヤワで繊細な人たちばかりではないと思いますよ」

そもそも昭和や平成の前半、中古車業界にはパンチパーマに金のネックレス、そしてセカンドバッグを小脇に抱えて闊歩する、誰がどう見てもヤンチャな経営者もウヨウヨしていたという。そんな彼らの経営方針は、 

「よく言えばイケイケドンドンのドンブリ勘定。悪く言えば......ミもフタもありませんが、単なる無法者です」

走行メーターの交換や巻き戻しは当たり前。安く仕入れた事故車をピッカピカに仕立て直し、「修復歴ナシ」とプライスボードに掲げて売る。ひどい店だとその手の事故車を"程度極上のバリモンが入荷!"とあおりにあおって売っていたとか。

にわかに信じがたい話だが、昭和や平成の中古車業界を熟知する関係者は皆、「そういう店は全国に腐るほどあった」と苦笑いでうなずく。

そして、実は昭和や平成の前半のようなズサンな売り方をする中古車店が、令和の今、再び増殖傾向にあるという。コンプライアンスが厳しい現代になぜ? 

「新型コロナと、ロシアによるウクライナ侵略の影響で、半導体を含むパーツ不足が発生し、現在も新車の納期は遅延傾向にある。そのため、即納車できる中古車が脚光を浴び、全国的に相場は爆上がりを続けています」(自動車記者)

つまり、黙っていても飛ぶようにクルマが売れに売れるため、強気な姿勢の中古車店が増えた。その結果、目先の利益に目がくらみ、"先祖返り"しているというわけ。さらに言えば、実質、この手の極悪店をチェックする機関が存在しないのも大きい。要はヤリタイ放題なのである。

■諸費用に粗利を鬼乗せする店も

関東近郊に店を構える中古車店のオーナーもこう言う。

「ビッグモーターの元関係者らが、事故歴を隠してクルマを販売していたとメディアの取材で証言していたけど、アレは別段ビックリするような話じゃないよ」

どういうことか?

「事故車を売らないというテイで営業している中古車店が、実は客に二束三文の事故車を売りつけているなんてザラ」

さらにビッグモーターが釈明会見を避け続けてきた理由について、中古車業界特有の背景があるとも指摘する。

「正直、ビッグモーターより、エグい商売をしている中古車店がある。だから、『なんでウチだけ?』『この程度ならほかの店もやっているじゃないか!』という変な被害者意識が働いていたのでは?」

兼重宏行前社長は会見で「(不正について)耳を疑った。こんなことまでやるのかと、愕然としましたね」とコメントし、「知らぬ存ぜぬ」を貫いた兼重宏行前社長は会見で「(不正について)耳を疑った。こんなことまでやるのかと、愕然としましたね」とコメントし、「知らぬ存ぜぬ」を貫いた

一部の極悪ショップでは、磨きに磨いた事故車や水没車を、事実を隠して安く売りに出して客を釣る。

「この手の店は自社のホームページに『掘り出し物が入荷!』なんてやる。そもそも中古車に掘り出し物なんて、ほぼないと業界の人間なら誰もがみんなわかっている。けれど、素人さんや自称クルマ好きの人はこの手の言葉に簡単に引っかかってしまう」
 
激安の車両本体価格に引き寄せられた客を待つのは、鉄板コースの諸費用地獄だ。具体的には、ボディコーティング代、ナビやドラレコの設置代、希望ナンバー取得費用、車検費用、納車費用などに鬼のように粗利を乗せまくるという。

「商談で値引き交渉を迫る客には、『すみません、これ以上の値引きは勘弁してください。もう鼻血も出ませんよ』とか『お客さんは交渉が上手だからウチの儲けが出ませんよ』なんてセールストークをカマし、目いっぱいサービスしたという演技をし、ハンコを押させ、いっちょ上がりってわけ」

そもそも値引き分を車両本体にも諸経費にもたっぷり上乗せしているので、値引きをしたところで、店にとっては痛くもかゆくもない。

走行距離の改竄行為も常態化しているという。中古車店のオーナーが解説を続ける。

「ネットで調べればすぐわかるように、けっこう『走行距離不明』とか『メーター交換済み』と書いている中古車店があるんだけど、こうやって手の内を明かしている店って実は良心的なんだよ」

本当に悪い店というのは、走行距離を改竄し、「走行距離の少ない出物が入荷! 早い者勝ち」などとウソをついて売る。年式の割に極端に走行距離が少なく、価格が相場より安かったら注意したほうがいいようだ。

そして恐ろしいのは車検だ。

何も整備していないのに、客には整備費や工賃などを請求する店もあるという。

また、車検や車両整備ではブレーキオイルやATF(オートマチックトランスミッションフルード)など、素人が目視できない油脂類を交換したテイにして稼ぐのは珍しいことではないとか......。

ビッグモーターの悪行に対して、監督官庁である国土交通省は本腰を入れた。斉藤鉄夫国交大臣は中古車業界の闇に手を突っ込めるか?ビッグモーターの悪行に対して、監督官庁である国土交通省は本腰を入れた。斉藤鉄夫国交大臣は中古車業界の闇に手を突っ込めるか?

ビッグモーターの不正に端を発した"中古車業界の闇"。前出の自動車記者はこう指摘する。

「冗談抜きにクルマは走る凶器になる。簡単に人の命を奪ってしまいます。根深い闇を抱える中古車業界ですが、やはりこのまま放置するのはいかがなものかと思いますね」

今こそ国は中古車業界をシッカリ点検するべきだ。