日産自慢のスポーツセダン「スカイライン」。デビュー10年目にしてニスモバージョンが爆誕し、ファンらの注目を集めている。その実力は本物なのか? 自動車研究家の山本シンヤ氏が神奈川県横須賀市で開催された試乗会に参加し、徹底チェックした!!
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■走りのスカイラインが帰ってきた!
――今回、山本さんは日産自動車のテストコース「グランドライブ」(神奈川県横須賀市)で、ウワサのスカイラインニスモに試乗してきました。現行の13代目のデビューはいつでしたっけ?
山本 2013年なので、GT-Rほどではないにせよ、日産車の中ではロングライフモデルですね。
――加えて、フルモデルチェンジの話が全然出ないので、「スカイラインはこのまま消滅するのか?」なんてウワサや報道もありましたね?
山本 そんな声に対して日産は、「スカイラインを諦めていません」と宣言しました。そのひとつのアンサーが、このスカイラインニスモでしょうね。このモデルは13年より展開を行なうニスモロードカーシリーズの最新版となっています。
――ベース車は?
山本 カタログモデルの400Rをベースに随所にニスモならではのこだわりのカスタマイズが行なわれています。
――開発コンセプトは?
山本 これまでニスモは、日産のモータースポーツを支えてきた歴史があります。そのため、ニスモ=熱血スポーツと思いがちですが、開発者は「歴代スカイラインがこだわってきたGT(グランドツーリング)性能の集大成」と語っていました。
この〝GT性能〟を私なりに解釈すると、ひとつの性能に特化するのではなく、総合性能が優れるモデルという感じかなと。
――ベース車との違いを具体的に言うと?
山本 エンジンはスーパーGT用のレースエンジンに関わった開発者が同じ設備を使って、チューニングを行ないました。その結果、出力はベース車の405PS/475Nmから420PS/500Nmにアップしました。これに合わせてドライブモードやAT制御も専用開発されています。
――エンジンだけでなく、フットワークも進化している?
山本 モータースポーツからフィードバックされたエアロパーツ(空気抵抗を下げずにダウンフォースを向上させる部品)、GT-Rニスモの開発で培った車体剛性アップ(高剛性接着剤によるボンディングボディ)、さらに〝匠(たくみ)〟がセットしたサスペンションとタイヤ(ダンロップSPスポーツMAXX GT600)&アルミホイール(エンケイ製)、極限状態でもドライバーをシッカリ支えるレカロシート、制動力とコントロール性にこだわったブレーキなど、車両全体で多岐にわたる変更を行なっています。
――実車を目にした感想は?
山本 パッと見て「走りのスカイラインが帰ってきた!」というオーラを感じました。最新のスポーツモデルのようなスマートさはありませんが、どこか歴代モデルを彷彿(ほうふつ)とさせる〝武骨だけど精悍(せいかん)〟な雰囲気がありますね。
――その一方で、「やはり10年選手だなぁ」と思う点は?
山本 これはベース車の問題ですが、内外装デザインと装備(インフォテインメントや足踏み式パーキングブレーキなど)は時代を感じました。
■スカイラインの能力を最大まで引き上げた匠
――試乗した率直な感想は?
山本 予想を超える驚きがありましたね。最新のライバルと比べても引けを取らないポテンシャルで、個人的にはノーマルよりも〝日産車らしさ〟を色濃く感じました。
――ほお!
山本 ベースの400Rは量産モデルゆえに、安心・安全方向にセットされています。一方、ニスモは安心・安全はそのままに、より素直、より気持ちよく曲がるセットになっている。忌憚(きたん)なく言うと、ノーマルは「FR(後輪駆動)じゃなくてもいいのでは?」と思う走りでした。
しかし、ニスモは「FRで良かったね!」と思える走りに磨き抜かれていました。
――なるほど。
山本 乗り心地も硬めかなと思いきやその逆で、スムーズでストローク感のある足の動きに加え、レカロシートの座り心地や振動の吸収性の高さも相まって、快適性も高いレベルに仕上がっています。これなら長距離走行も楽でしょうね。
欲を言えば運転支援システム「プロパイロット2.0」が装着されていたら遠出最強なんですが(そもそもベースの400Rにも未装着)。
――パワートレインは?
山本 400Rよりも出力は上がっていますがフィーリングは〝大人〟で扱いやすくなっています。実用域は大排気量NA(自然吸気)のようなゆとりあるトルク感ですが、ひとたびアクセルを踏めば、スポーツユニットらしい回すほどに力強さと伸びのあるフィーリングと一粒で二度おいしいエンジン特性です。
AT制御もエンジンの実力を生かし無駄なシフトアップ/ダウンがないので、パワフルだけど滑らかで洗練された印象です。
――ここまで走りが化けた背景には何があるんスか?
山本 かつて日産は「1990年代までに運動性能で世界一を目指す」という、いわゆる「901活動」を展開していました。この活動はR32スカイラインGT-Rや初代プリメーラなどをはじめとするクルマを生んだのに加え、ヒト(車両の評価技術)も育てた。
実は今回のスカイラインニスモの開発は、この901活動によって鍛えられた匠が、901活動と同じ開発手法を用いて行なっているんです。
――へぇー。
山本 例えば同じ素材を使っても、シェフの塩こしょうのさじ加減や手間のかけ方次第で仕上がりは変わりますよね? つまり、ニスモはスカイラインがもともと持つ潜在能力を、匠の手により最大限まで引き上げたと。
――最後に総括を!
山本 せっかく元気だった頃のスカイラインの走りが戻ってきたのに、限定1000台は数が少ない。正直言ってもったいないと思います。
■歴代スカイラインセダンの歩み
●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営