今年1月に公開されると大きな話題を呼び、注文が殺到、即完売してしまったのが、2024年モデルの日産GT‐Rニスモスペシャルエディション。ウワサのマシンを総点検した自動車研究家の山本シンヤ氏が、その魅力と実力に迫った!!
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■車外騒音規制をどう乗り換えたのか
2007年に登場してから、毎年のように進化・熟成を重ねてきたR35型GT‐Rだが、実はファンらの間では生産終了のウワサが飛び交っていた。その理由は「車外騒音規制(フェーズ2)」。だが、GT‐Rの開発陣はこの難問を見事にクリア。それが今年1月の「東京オートサロン2023」でお披露目となり、大きな話題を呼んだ2024年モデルのGT‐Rだ。
水野和敏氏から開発責任者を引き継ぎ、現在はブランドアンバサダーを務める田村宏志氏は、2024年モデルの開発経緯をこのように語る。
「私はどのモデルも常に〝R35の集大成〟だと思って開発していますが、アイデアは常に出てきます。もちろん、2024年モデルにもそのベーシックな気持ちはありましたが、今回はちょっと違います。
2022年モデルを出した後、『GT‐Rを切望しているのに買えなかった人がたくさんいた』という事実を知り、『つくり続けるべきだ』と思ったのがキッカケ。一方で、法規はクリアすればOKではなく、やる以上は新型としての〝魅力〟を足さなければダメでしょう」
まず騒音規制の対応だが、恐らく音量を下げるだけなら日産の技術を用いれば、それほど難しくはないだろう。だが、GT‐Rの場合はどうしても、「動力性能を犠牲にせず」という要件が入るため、マニア筋から「対応は困難だ」と指摘を受けていた。
2024年モデルの企画当初はエキゾーストのサイレンサー(消音器)容量を従来モデル比の2倍にする計画も存在したという。だが、解決のヒントはジェット機だった。
「対策に悩んでいたときにふと、『ジェットエンジンってエネルギー的には熱も音も出るのに制御されている。どうやって音を消しているのだろうか?』と。調べてみるとジェットエンジンのタービンブレードに秘密があり、その形状を参考にしたら効果があり、これならイケるかも、と」
それが新開発したマフラー。具体的にはサイレンサーにつながる排気管の形状をジェットエンジンのタービンブレードを参考にし、二股形状へと変更。これによりエネルギーの損失は最小限のまま、音量を下げることに成功した。
気になる音質だが、GT‐Rの特徴である野太いサウンドからジェントルな音に変更されている。賛否はあるものの個人的にはアリだと思う。
こうして性能を落とさず騒音規制をクリアした開発陣は、さらに2024年モデルとしての魅力の向上を目指した。具体的には空力性能の改善で、これによりハンドリング性能が高まる。
今回徹底チェックした2024年モデルのGT‐Rニスモスペシャルエディションは、ダウンフォース(車両を路面に押しつける力)向上のため、前後バンパーとウイングを変更。しかし、ただダウンフォースの能力を引き上げると、空気抵抗(CD値)が増えてしまうため、フロント開口部の小型化で相殺した。
また、開口部を小型化すると、冷却性能の悪化も懸念材料になるが、これは最新の解析技術をフル活用、形状を最適化して問題をクリアした。
リアはスワンネック形状のウイングなどが採用され、車両トータルでのダウンフォースは改良前より約13%も向上している。
ちなみに筆者が2024年モデルで注目したのは、GT‐Rニスモではなく標準車。その理由はスカイラインGT‐RのファイナルモデルであるR34の面影を感じたから。その印象を田村氏に伝える。
「それは鋭い。実はR34ⅤスペックⅡニュルを意識しています。すべてを新しくするのではなく、『どこかで見たぞ?』という、懐メロではないけどどこか落ち着く感じ......そんなイメージのデザインに仕上げています」
もちろん、空力改善に伴いフットワークも見直されている。2024年モデルは標準、ニスモ共に電子制御サスペンションの制御変更が行なわれているが、ニスモはさらにフロントに機械式LSD(差動制限機構)を新採用し、サスペンションの減衰力も変更。アテーサE‐TS(4WD制御)のチューニングなども実施している。
「フロントのLSDは、『(ドイツのサーキット)ニュル(ブルクリンク)を走っていると、トラクション(駆動力)が抜ける(車体が不安定になる)』などという指摘があり投入しました。結果、ステアリングを切るとノーズ(車両の先端部分)がスーッと入ってクルッと回るような旋回が可能になったので4WDのトルク配分を含め、すべて変えました」
これらによりニスモのコーナリングスピードはアップ。当然、シートの剛性が足りなくなるので、レカロ社製カーボンシートも刷新されている。
日産が誇る最上級スポーツカー・GT‐Rはデビュー以来、このような特濃改良を受け続け、徹底的に磨き込まれてきた。だから、月日がたってもファンを魅了するのだ。
本音を言えばGT‐Rにはフルモデルチェンジしてほしい気持ちもある。だが、その一方で、「まだまだ現行モデルには引き出しがありますよね?」とも思う。次は2026年モデルか?
■「スカイラインGT‐R」から「GT‐R」への軌跡
●山本シンヤ
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営