一般ユーザーが購入できるホンダのEVスクーターが発売され、搭載する着脱式バッテリーにも注目が集まっている。その全貌に迫るべく、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が特濃取材をブチカマした。
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■バッテリーは持ち運べる着脱式
ホンダがEVスクーター「EM1e:」を8月24日に発売した。ホンダは1994年に国内でいち早く量産車初のEVスクーター「CUVES」を官公庁や地方自治体向けに限定販売。以降、ビジネス用モデルを次々と世に送り出してきたが、一般ユーザー向けとしては今回が初となる。ちなみに年間の目標台数は3000台だ。
発売日に行なわれたジャーナリスト向け試乗会には、EM1e:の開発責任者・後藤香織氏、開発責任者代行・内山 一氏の姿もあったので、アレコレ話を聞いてみた!
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――これまでホンダのEVスクーターは、仕事用やリース限定でした。これはなぜ?
内山 あえて過酷なビジネス領域から電動化し、使用状況や使い勝手のフィードバックを得て知見を積みたかったからです。使用済みバッテリーの回収体制を盤石化したかったという狙いもあります。
――一般向けとなれば、当然開発のポイントも変わった?
後藤 日々の生活にマッチするちょうどいいスクーターにするため、手軽・便利・安心という3つのキーワードを設定。EM1e:はクルマの免許を持っていれば手軽に乗れる原付一種にしました。
――ほかには?
後藤 充電インフラの整備状況を考え、バッテリーを便利な着脱式(交換式のホンダモバイルパワーパックe:)にし、自宅でも充電可能としています。
さらに初めて二輪車に触れる人を視野に入れ、扱いやすさや安心感を重視。110㏄クラス同等のホイールベース(最遠軸距)とフロント12インチタイヤの装備により、安心感のある穏やかな車体挙動を実現しました。
――EM1e:には走行モードがふたつあります。STD(スタンダード)は瞬く間に制限速度の時速30キロに到達し、まだスピードが伸びそうでした。一方、モードをECON(イーコン)に切り替えると、スロットル操作に対するモーター出力がマイルドになる。時速30キロ弱で制御が入り登坂力も弱くなりました。
後藤 ECONモードは初めて二輪車に乗る人に最適で、バッテリー消費を約15%抑えた走行ができます。
――気になる航続距離は?
後藤 一充電あたりの航続距離は、車速30キロの定地走行テスト値で53㎞。これは国土交通省に届けるカタログ値で、体重55㎏の人が時速30キロで一定走行した場合の数値です。
体重75㎏のライダーが乗車し、加減速を繰り返す、公道走行により近いWMTCクラス1という欧州での届け出値ですと、30㎞を走行した時点でバッテリー残量が20%。
電池切れを起こさないよう出力制限が自動で入るものの、そのまま走行すれば41.3㎞まで走ることができます。ECONにすれば、さらに航続距離は伸びて、48㎞の走行が可能です。
――そもそもの話ですが、航続可能距離が足りないのでは?
内山 50㏄スクーターのユーザーをリサーチすると、一日に走る距離は往復で20㎞程度です。ですから、航続距離に関してはこれで十分だと思います。
――バッテリーを満充電するのに要する時間は?
内山 家庭用100V電源でゼロから約6時間で100%です。
――つまり、バッテリーを交換式にしたので、長距離移動するなら予備のバッテリーに交換すればいいという考え?
内山 そのとおりです。
――新車価格の29万9200円の内訳を見ると、バッテリーの8万8000円、充電器の5万5000円も価格に含まれています。バッテリーをもうひとつ買い足したい人は出費がデカくなります。
内山 クリーンエネルギー自動車導入促進補助金の制度を活用すれば2万3000円、予備バッテリーを追加する場合はさらに2万円の補助があるほか、自治体独自の補助を受けられる地域も。
――なるほど。ちなみにこの着脱式可搬バッテリーはメーカーの垣根を越えて規格を統一し、充電ステーションなどでユーザーが共有して使い回せる仕組みです。海外でもバッテリーのシェア実験をしているってマジですか?
内山 バッテリーのシェアリングシステムの実証実験は、すでにインドネシアなどで始めています。
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営