9月22日から24日、鈴鹿(すずか)サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された日本GPで、レッドブルが2年連続で頂点に輝いた。今季、レッドブルの快進撃を支えたのはホンダが開発したPU(パワーユニット)だ。最強を誇るホンダPUの生みの親に、現地で躍進の理由を語ってもらった!
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■タイトル獲得は偶然ではない
「車体、PU、ドライバー。それぞれが最高でなければ、マックス・フェルスタッペンとレッドブルが達成した連勝記録も、シーズンがあと6戦残っているこの時期でのコンストラクターズチャンピオンの獲得も、なかったはずです。
日本GPのタイミングでタイトルを取れたのは偶然ではなく、ホンダPUの能力が最高であることも証明してくれたと思います。それを考えると、『やっとここまで来たか』と感じています。またホンダにとっての母国GPでタイトルを決めることができ、多くの人に喜んでいただけたこともうれしいですね」
日本GPが開催された鈴鹿サーキットで安堵(あんど)の笑みを浮かべながら語るのは、今年4月末までホンダのレース部門を担う子会社HRC(ホンダ・レーシング)に在籍し、PUの開発を率いてきた浅木泰昭(あさき・やすあき)氏だ。
今シーズン、ホンダが手がけたPUを搭載したレッドブルとドライバーのフェルスタッペンは数々の連勝記録を打ち立てた。
レッドブルは開幕から12連勝を飾り、35年前にセナとプロストを擁するマクラーレンホンダが樹立した連勝記録を更新。最終的に15連勝まで記録を伸ばした。フェルスタッペンは前人未到の10連勝を達成し、次戦のカタールGP(決勝10月8日)で3連覇を決める可能性も出てきている。
「性能を向上させるためのPU開発は凍結されています。昨年、ドライバーとコンストラクターの両タイトルを獲得したレッドブルが今シーズンも速いことはわかっていました」
現在のホンダPUの生みの親である浅木氏はそう話すが、それでも開幕から日本GP直前のシンガポールGPで敗れるまで、レッドブルが連勝を続けるとは予想していなかったという。
「皆さん、簡単に勝っているように感じたかもしれませんが、マシンによって得意不得意のコースがあります。シンガポールGPを見ると、そう単純じゃないということがわかりますよね。毎戦毎戦、本当に難しいことをしていたんです。
でもチーム、ドライバーも連勝の新記録を作ることができましたし、シンガポールで5位に終わったフェルスタッペンが鈴鹿ではぶっちぎりの速さで優勝しました。この日本GPから再スタートです。これからは記録のプレッシャーを感じることなく、純粋に勝負に集中できます」
■絶対王者メルセデス、不調の理由は?
今シーズン、浅木氏にとって想定外だったのはライバルの動向だった。特に21年シーズンまでしのぎを削ったメルセデスが今シーズンもタイトル争いに加わることができなかったことが、レッドブルの独走を許した最大の要因だとみている。
「今シーズンはホンダのPUを搭載するレッドブルが強いというより、メルセデスが何をしているんだ、というのが私の感覚です。ワークスチームのメルセデスが強ければ、カスタマーのマクラーレンやアストン・マーティンがここまで注目されることはなかったと思います。
新しいマシンレギュレーションが導入された昨季は、メルセデスが勝てなくても仕方ない面があります。新ルールに合わせてマシンを開発し、いざシーズンが始まってみたら"外して"しまったということはあります。
逆にレッドブルは、マシンを手がけるデザイナーのエイドリアン・ニューウェイが新ルールの下で競争力を発揮するマシンをきちんと造ってきた。だから1年目でライバルの一歩先を行き、タイトルを獲得できたと思います。でもメルセデスは2季連続で外してしまい、今年は一度も勝てていません。そこが一番の驚きです」
メルセデスは2014年から21年にかけてコンストラクターズ選手権で8連覇を達成し、圧倒的な強さを誇った。絶対王者のメルセデスは、なぜ強いマシンを造れなかったのか? 浅木氏はこう推察している。
「これまでメルセデスはパワーに頼ったマシン開発をして、勝ち続けてきました。そこが影響した可能性は否定できないと思います。今、PUの性能に関してはホンダ、メルセデス、フェラーリはほぼ互角です。でもパワーの優位性がある中で勝ち続けていると、どうしてもパワーがあることを前提とした車体の造り方をしてしまうと思います。
新レギュレーション導入初年度に結果が出なかったら、すぐに新たな開発をして対応していかないとダメなんです。そこが私の知っているメルセデスらしくないと感じます。その半面、技術屋としては自分たちのコンセプトや方向性が間違っていたと認めるのはなかなか難しいこともわかるんです。私たちも同じ経験をしましたから」
浅木氏が語る"同じ経験"とは、第2期のマクラーレン・ホンダ時代のことだ。ホンダエンジンの圧倒的なパワーを生かし、マクラーレンは前述したように1988年に16戦中15勝を達成。88年から91年までドライバーズとコンストラクターズのダブルタイトルを独占し続けた。
しかし当時のマクラーレンは、強力なパワーを発揮するホンダエンジンに依存しすぎてしまったのだ。その結果、車体開発でライバルに徐々に後れを取っていき、ホンダのエンジンパワーのアドバンテージが小さくなると、マクラーレン・ホンダは頂点から滑り落ちてしまった。今、メルセデスも同じ罠に陥っているのではないかと感じている。
だからこそ浅木氏はホンダのPU開発に取り組む後輩たちに、こんなメッセージを送っている。
「慢心すればすぐにしっぺ返しがくると、メルセデスの戦いぶりを見て感じてほしいですね。今後もレッドブルと共に勝利を継続しながら、新しいレギュレーションが導入される26年向けのPUを確実に仕上げることを期待しています。若い人たちで"勝てるPU開発"ができることを証明してほしいです」