今年9月末に鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催されたF1日本GPではアルファタウリの角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手が注目を集めていたが、次期日本人F1ドライバー候補生として期待される岩佐歩夢(いわさ・あゆむ)選手も姿を見せていた。
ホンダとレッドブルのサポートを受けてF1直下のカテゴリー、FIA-F2選手権に参戦する岩佐選手は現在シリーズランキング3位につけている。シーズン最終戦は11月24日から26日に中東のアブダビで開催されるが、どんな決意で挑もうとしているのか。そして気になる24年シーズンの活動は? 帰国中の岩佐選手に話を聞いた。
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■モンツァは自分のスタイルで攻めた
――8月の夏休みに日本に帰国したときに、後半戦のスタートとなるオランダとイタリアの2大会がタイトル争いの天王山になると話していました。F2は1大会2レース制で、レース1は距離が短いスプリントレース、レース2はフィーチャーレースが行なわれます。オランダの2レースではノーポイント、イタリアではレース1はリタイア、レース2では2位表彰台を獲得しました。
岩佐 求めていた結果ではまったくないので、すごく悔しい気持ちはあります。自分たちがなぜそんなにポイントを落としているのかといえば、原因は明確です。予選のパフォーマンスが良くないということに尽きます。ただ原因は明確ですが、ダメなところをどう直していけばいいのかというのが難しいところです。
勝負はレース前の準備のところから始まっています。コースに対するタイヤの理解度など、いろんな要素がからんできますが、その準備段階でドライバーズランキング首位のT・プルシェールが所属するARTや、同2位のF・ベスティが所属するプレマといったチームに、僕たちダムスはまだ負けているのかなと感じています。
――15番手からスタートし2位を獲得したイタリアのフィーチャーレースはかなりアグレッシブに攻めているように見えました。
岩佐 外から見ていると、結構、思いきった攻めをしていたように見えるかもしれません。でもモンツァではこれまでの戦い方を変え、自分のスタイルで攻めて、結果を出そうと思って臨みました。オランダまではとにかく攻めるという気持ちが頭にあったのですが、第12戦のベルギーと第13戦のオランダではF2に参戦してから初めて連続でドライブミスを犯してしまいました。
それではまずいとチームにも言われましたし、自分でも間違っていると気がつきました。レッドブルはアグレッシブさを求めていたのでチャレンジしていたのですが、どう攻めるのかということに関して、正直、自分の考え方が甘かったのかなと感じています。
■ランキング2位を目指す
――岩佐選手のスタイルとはどんなものなのですか?
岩佐 さまざまなことを冷静に分析して、論理的にひとつひとつ詰めて勝負に出て、相手を倒すというのが僕のスタイルです。シーズンを振り返ってみれば、きちんと結果が出ていた前半戦では自分のスタイルで攻めることができていました。でも、いつからかアグレッシブに攻めることを優先してしまっていたんです。
モンツァでは自分のスタイルに立ち返ることで、自分のやりたい仕事ができたという感覚がありました。レース中盤にJ・ドゥーハンとJ・ダルバラを2台まとめて抜いたときも、一か八かのギリギリの勝負に挑んだのではありません。自分で考え、「こうやって揺さぶりをかけたら相手はこう動くはず」と計算して、追い抜きを仕掛けています。
そういう走りはもともとできていたのに、それを横において、違うスタイルで戦っていたのが問題だったと感じています。
――F2の最終戦アブダビはF1の最終戦と併催で、11月24日から26日に行なわれます。昨年は予選でポールを獲得して、フィーチャーレースで優勝を飾っています。アブダビまでには時間がありますが、どんな準備をして臨みますか?
岩佐 ここ数戦で自分自身の修正ポイントが見つかりましたし、チームとしては最初に話したように予選のパフォーマンスに課題があります。僕は今、日本にいる間にフィジカルのトレーニングを集中して取り組んでいますが、ダムスのエンジニアは今シーズンの全レースのデータを分析してくれています。
ヨーロッパに戻ったあとは、データ分析の結果をもとにダムスの本拠地があるフランスで最低でも3回はミーティングをします。シミュレーターにも何度か乗る予定ですので、やるべきことはたくさんありますが、万全の準備をして臨みたいです。
――最終戦を前にドライバーズランキングの1位はプルシェール(191点)、2位がベスティ(166点)、3位が岩佐選手(153点)です。逆転でチャンピオンを獲得するためにはアブダビでは予選でポールポジションを獲得し、スプリント&フィーチャーで2連勝し、両レースでファステストラップ獲得を獲得しなければなりません。
岩佐 チャンピオンシップに関しては、現実的にはランキング2位を目指すというのが、自分がコントロールできる範囲での最良の結果だと思っています。昨年のように予選でしっかりとポールを獲って、フィーチャーレースで優勝することが目標です。
■HRSで学んだこと
――ところで日本GPではチャンピオンチームのレッドブル・レーシングに帯同していました。何か収穫はありましたか?
岩佐 日本GPはレッドブル・レーシングに帯同して、3日間いろいろ勉強させていただく機会を与えてもらいました。F1とF2は併催されることが多いですが、F2のレースがあるときは所属するダムスのガレージにこもって自分の仕事に集中していますので、F1の現場でチームに帯同するのは鈴鹿が初めての経験でした。
イベント期間中はずっとエンジニアについて行動し、ミーティングにも参加しました。昨年からレッドブルの育成プログラム、レッドブル・ジュニアチーム全体で将来のF1参戦に向けての授業やさまざまなプログラムに参加して、F1に関する知識を高めていますので、正直言って、それほど大きな驚きはありませんでした。でもF1はこんな感じで仕事を進めていくんだといろいろと気づくことはあり、その点では勉強になりましたね。
――岩佐選手は、世界のトップカテゴリーで活躍するドライバー、ライダーを育成することを目的に開校されたホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(HRS)の卒業生で、ホンダのサポートも受けています。HRSで学んだことは現在も生きていますか?
岩佐 HRSではドライビングはもちろんですが、それ以外の部分で学べるところが多いと感じています。特にレーシングドライバーとしてのあり方ですね。レースに勝つためには速いだけではダメなんです。モータースポーツはチームスポーツなので、多くのスタッフをいかに味方につけて、自分のために動いてもらうのかということが、すごく大事だと学び、実際に役立っています。
今、僕がF2のダムスでやっていることはHRSで学んだことの応用に過ぎません。基礎はHRSにあるんです。別に僕が何か新しいことをやっているのではなく、HRSの講師の方から学んだことを参考にして、自分で考え、応用しながら進めています。
■24年シーズンの活動は?
――F2をランキング5位以上で終えれば、F1昇格に必要なスーパーライセンスを獲得できます。24年シーズンの活動について何か話せることはありますか?
岩佐 僕の夢はF1ドライバーになって、勝ち続けることです。そのためにはF1にステップアップしたときにきちんと戦えるドライバーになっていなければならないと思っています。どういうステップアップの道を進むのがベストなのか。そこに関しては、僕の意志は伝えています。
最終戦のアブダビまでの間に、来シーズンに向けてのある程度の話があると思いますが、僕が今やるべきことはF2のチャンピオンシップを最良の結果で終えることです。やるべきことはたくさんあるので、そこに集中したいと思います。
――日本GPの会場ではトークショーなどのイベントに登場した岩佐選手にたくさんの声援が送られていました。ファンの熱気を目の当たりにして、あらためてF2最終戦のアブダビで勝ってやろうと気合が入ったんじゃないですか。
岩佐 そうですね。今回の日本GPで初めて母国のファンの方と接したのですが、これだけ多くの方が僕のことを知って、応援していただいているとは思っていませんでした。驚くと同時にうれしかったです。応援してくれるファンの皆さんのためにも頑張らなくてはならないという気持ちが一層強くなりました。今回の日本GPはすごくいい刺激になりました!
●岩佐歩夢(いわさ・あゆむ)
2001年9月22日生まれ。4歳からカートに乗り始め、HRSの前身となる鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラにて、スカラシップを獲得。Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)より2020年にフランスF4選手権に参戦し、チャンピオンを獲得。翌21年からはRed Bullの育成プログラム「レッドブル・ジュニアチーム」にも加入し、FIA-F3選手権に参戦。2022年はFIA-F2選手権に昇格し、フランスの名門ダムスに所属。デビューイヤーに2勝を挙げ、シーズンランキング5位。今季は3勝を挙げている。