9月10日、モビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)で、ホンダのCN燃料を使ったエキシビション走行が行なわれた。現地に飛んだモーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が熱狂取材。ホンダの倉石誠司取締役会長も直撃した!
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温室効果ガス排出量削減のために進められている脱炭素化。モータースポーツも例外ではなく、燃料を変更してCO2排出量を減らす動きが国内外で急速に進んでいる。
ホンダもまた二輪四輪を問わず、マシン開発に余念がない。そんな中、9月10日、モビリティリゾートもてぎ(栃木県茂木町)には本田技研工業取締役会長の倉石誠司氏の姿があった。1リッターのガソリンでどれだけの距離を走れるか燃費を競う、『本田宗一郎杯 Honda エコ マイレッジ チャレンジ 2023 第42回全国大会』(主催=本田技研工業)にて、CN(カーボンニュートラル)燃料を使ったエキシビション走行が初めて行なわれ、その様子を見守っていたのである。
バイオマス、つまり植物ごみや木材チップなど食用に適さない生物資源を原料に、化石燃料を一切使わずにつくるCN燃料。最大の利点は、既存のエンジンをそのまま使用できるという点。要するに内燃機が生き残れるのだ。これは見逃せない! というのも、われわれのような既存のエンジン好きのバイクファンにとっては嬉しいかぎりでしかないからだ。
倉石会長にとっても、その思いは同じのように見えた。CN燃料を使い、1リッターあたり1,206.419㎞という好成績を叩き出した本田技術研究所のマシンを真剣な眼差しで見ていたのが、その証拠である。
実は全日本ロードレース選手権の最高峰クラス「JSB1000」では、世界に先駆けて今シーズンからCN燃料を使用している。加えて、ホンダが2026年から復帰するF1でもCN燃料での参戦が義務付けられている。視察に力が入るのも当然だろう。
そんなCN燃料をいち早くレースに導入した理由について、日本モーターサイクルスポーツ協会(MFJ)理事・事務局長の隠岐直広氏はこう説明する。
「ガソリンを使用するモータースポーツに対する風当たりは強くなっている。少しでも早く準備しておく必要がある」
当初、JSB1000の関係者からは、「パワーダウンは避けられない」「スピード感が失われてしまうかも」という声が漏れていたが、その懸念は杞憂に終わった。レースクルーとライダーの高い技術もあり、ラップタイムが従来の燃料と遜色なかったからだ。
とはいえ、「燃え残った燃料がオイルに混ざり、オイルの劣化が早い」という声も飛ぶ。本田技術研究所のチームスタッフからも、CN燃料ならではの難しさがセッティングにあるため、空気を減らし、燃料を増やして対応しているという。
ちなみに二輪レース世界最高峰の「MotoGP」は2025年から40%の"非化石由来"の燃料を採用し、2027年からは100%CN燃料となっていく。要するにスピード感が求められているのだ。
倉石会長は力を込めてこう言う。
「現在、新型パワーユニットを開発中ですので、応援してください」
さらに倉石会長からはこんな宣言も飛び出した。
「(本田宗一郎杯エコチャレは)来年度からCN燃料を用いた新クラスを設ける」
創業者である本田宗一郎は「レースは走る実験室」と言った。レースというのはスピードを競うだけでなく、燃費も重視する倉石会長の姿勢はまさに"ホンダイズム"。本田宗一郎の理念を倉石会長も受け継いでいることがよくわかる。
現状ではCN燃料の価格は通常の燃料の倍で、今後は製造コストを下げていくことが急務となる。だが、すでに倉石会長は将来的にCN燃料が市場に出て、一般ユーザーが使うことまで見据えているように感じた。
CN燃料の研究開発が進み、環境負荷を低く抑えることができれば、EVや水素だけでなく、世界中のライダーが愛してやまない内燃機エンジンも生き延びる。
「ホンダよ、期待しているぞぉぉぉ~!」
アオキは倉石会長に熱く懇願したのであった。
●青木タカオ
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』