渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
3代目となったホンダの軽スーパーハイトワゴン「N‐BOX」の公道試乗会が神奈川県横浜市で開催された。新型の走りは? 売れ筋はどれ? 現地で徹底取材したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏がガツンと解説する!
渡辺 国内の最多販売車種、ホンダの軽自動車「N-BOX」の新型が10月6日から発売となりました!
――何年ぶりのフルモデルチェンジですか?
渡辺 6年ぶりですね。この新型で3代目となります。
――モデル末期の2代目も鬼売れしていましたよね?
渡辺 2023年度上半期(4~9月)における販売台数は10万409台をマークし、登録車を含む新車販売の総合台数でトップに輝いています。月平均にすると1万7000台近くを販売しており、気がつけば国内で売られるホンダ車の40%がN-BOXという状況です。
――そんなN-BOXの初代はいつデビュー?
渡辺 2011年です。発売以来、爆売れを続け、軽自動車では8年連続、総合でも2年連続販売台数1位です。
――累計販売台数は?
渡辺 240万台を軽く突破しています。
――今回のフルチェンで、そんな"絶対王者"のどこが変わった?
渡辺 3代目には「コストを抑える」という裏テーマがあります。先代モデルとなる2代目はエンジンからプラットフォームまで機能を幅広く刷新し、高張力鋼板や防音材も贅沢(ぜいたく)に使いました。
その効果もあって乗り心地や静粛性は優れていました。また、内装の質もすこぶる高く、それが好調なセールスに結びついていた。一方で、ホンダの社内からは「N-BOXの儲けが少ない」という声も。
――フツーに考えて、国内販売の40%を占めるN-BOXが儲からないとホンダは困りますよね?
渡辺 なので3代目は、2代目ほど変化していません。エンジンやプラットフォームは先代を踏襲し、ボディの基本デザインも大きく変えてこなかった。
――つまり、3代目はキープコンセプトであると。ただ、顔立ちは変わりました。
渡辺 標準ボディのフロントグリルには細かい穴が並び、白物家電のような雰囲気です。
――カスタムは?
渡辺 これまでのカスタムは光沢のあるグリルを装着していましたが、メッキの輝きを抑えてシンプルに仕上げています。
――どちらもド派手な感じではないですよね?
渡辺 これは現在のホンダのデザイン傾向で、ステップワゴンやフィットにも当てはまります。3代目は脱オラオラ系を進め、誰もが親しめるデザインにしたわけです。
――車内を見た印象は?
渡辺 2代目はメーターをインパネ上の高く奥まった位置に配置しており、小柄なドライバーは前方が非常に見にくかった。その点、新型はステアリングホイール(ハンドル)の奥にメーターを配置しています。
インパネの上面が低く平らになっているので前方が見やすい。後席からの前方視界も向上していましたね。
――試乗した率直な感想は?
渡辺 軽自動車では珍しく、ボンネットがよく見えるため、ボディの先端や車幅も把握しやすく、とても扱いやすかった。エンジンやプラットフォームは2代目と共通していますが、新型では機能を幅広く洗練させています。
――具体的に言うと?
渡辺 電動パワーステアリングは制御方法を見直したため、反応の曖昧さが払拭されました。例えば車線変更で、直進状態に戻るとき、2代目は微妙な揺り返しが生じていましたが、3代目はそれがありません。
――エンジン性能は?
渡辺 2代目と動力性能に大差はありませんが、CVT(無段変速機)を含め、制御を洗練させました。アクセルペダルを一度戻してエンジン回転が下がり、その直後に再び緩く踏んだような場合、2代目は加速を再開するまでに若干のタイムラグが生じ、加速の仕方も少し唐突でした。しかし、3代目は減速と加速のつながり方が非常に滑らか。
――乗り心地はどうスか?
渡辺 2代目も軽自動車の中では非常に快適でしたが、3代目は段差を乗り越えたときの突き上げ感と、上下にユサユサと揺すられる感覚が少なくなっていましたね。
――3代目のメーターは液晶のデジタルタイプです。2代目はアナログメーターでした。この変更をどう見ます?
渡辺 正直、2代目のアナログメーターのほうが、情報がわかりやすく質感も高かった。質感に関して言うと、メーターだけでなく、エアコンの吹き出し口やドアノブ周辺も、2代目のほうが上質でしたね。
――つまり、2代目のほうが質の高い部分もあったと。
渡辺 先に述べたコスト低減も影響しているでしょうね。ただ、2代目の欠点だった後席の座り心地は改善されて快適になりました。また、荷室には27インチの自転車も楽に載せられます。
――ちなみに3代目は標準とカスタムどっちが売れているんスか?
渡辺 ホンダによると、7割がカスタムだそうです。ボディカラーはプラチナホワイト・パールが4割でトップとのこと。
――ズバリ、渡辺さんが推すコスパ最強のグレードは?
渡辺 最もお買い得なのは標準仕様でしょうね。価格は164万8900円で、衝突被害軽減ブレーキ、運転支援機能、サイド&カーテンエアバッグ、LEDヘッドライトなどを標準装着しています。
――推しのオプションは?
渡辺 左側スライドドアの電動機能は標準装着されるので、右側の電動スライド機能や前席シートヒーター、後席アームレストなどを装着すると便利です。ちなみにこのオプション価格は10万100円です。
――カスタムの買い方は?
渡辺 カスタムは最上級グレードが飛ぶように売れているそうです。ちなみに車両本体価格は4WDモデルで約240万円です。そこにディーラーオプションのカーナビや諸費用を加えると約280万円です。
――けっこうなお値段になるんですね。
渡辺 さらにド派手な見た目に変身可能なエアロパーツのオプションがかなり充実していましてね。それらを"全盛り"にすると、300万円オーバーになってしまうので注意が必要です(笑)。
――マジか!
渡辺 もしカスタムを購入する場合はいったん冷静になる賢者タイムが必要です。何しろ280万~300万円という価格は、ホンダならフリードやステップワゴンという格上のクルマと同等のお値段ですからね。
――ちなみに3代目のリセールバリューは?
渡辺 N-BOXはカスタムを中心に中古車市場で人気が高く、売却条件もいいですよ。残価設定ローンの3年後の残価は、車両価格の53%。一般的には42~48%ですから好条件といえます。
――納期はいかがです?
渡辺 ホンダによると、現時点では2~3ヵ月とのことです。頭痛の種だった半導体を含むパーツ不足の問題が解消傾向にあるようです。
――それでは最後に今回の取材の総括をオナシャス!
渡辺 軽自動車は日常生活のツールですから、新型車が登場したからといって、慌てて買う必要はありません。今使っているクルマの車検期間に合わせて冷静に購入すべきです。そして購入する場合は、必ず販売店に足を運んで実車を試乗してください。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員