青木タカオあおき・たかお
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営。
インドを席巻するスズキのクロスオーバーモデルの"日本仕様"の試乗会が群馬県で開催された。そこで、モーターサイクルジャーナリストの青木タカオ氏が特濃試乗! その実力をチェックしてきた。
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スズキは、昨年5月にインドで発売した新型「Vストローム250SX」を、8月24日に日本市場に投入した。
インドでは経済発展に伴う所得向上で、小排気量のスクーターだけでなく趣味性の強いスポーツモデルの需要も高まり、現在、同国での二輪車の年間販売台数は2000万台超! 言うまでもなく世界最大級の市場だ。
そんなインドにおいて今年4月、スズキ二輪は累計700万台を達成した。この巨大マーケットでさらなる大ヒットを狙うべく、チーフエンジニアの鈴木一立氏(スズキ二輪営業・商品部)ら開発チームは新型設計時に現地調査を実施。インドは舗装された道と土や砂利道が混在しており、開発キーワードを〝ボーダーレス〟と決め、設計開発を進めたのだ。
そもそも道を選ばず、快適に走るのがスズキ自慢のアドベンチャーツアラー「Vストローム」シリーズの持ち味。初代Vストローム1000が2002年にヨーロッパでデビューすると、アルプス越えなど厳しい山岳路を含む長旅の相棒として大人気となり、21年間で累計販売台数44万台突破の超ロングセラーシリーズとなった。
その末弟となるのが、今回試乗したVストローム250SX。車名末尾につくSは「スポーツ」、Xは「クロスオーバー」を意味する。要するに、ツーリング中に現れる未舗装路をも余裕で走り抜ける実力を備えたモデルってわけだ。
Vストロームは、いわゆる〝クチバシ顔〟がシリーズ共通のフロントマスク。ひと目で「スズキのVストロームだ!」とわかるデザインに仕上げてある。コレは〝砂漠を駆ける怪鳥〟と呼ばれた1988年のパリダカマシンから受け継がれるスズキ伝統のスタイル。
Vストローム250SXでは8個のLEDを3列に並べたヘッドライトを組み合わせ、伝統と先進性を融合させているのが特徴だ。
そんなVストローム250SXのインド仕様は、民族衣装・サリーの巻き込みを防ぐ〝サリーガード〟を装着するなどし、販売は好調だという。では今回、日本で発売するモデルの位置づけは?
「Vストローム250SXは、開発当初から日本市場にも投入することを前提としていたんです」(鈴木氏)
都会的なスタイルを併せ持つグラフィックデザインで、精悍(せいかん)なスタイル。目の肥えた成熟市場である日本でも受け入れられるように、フル液晶の多機能メーター左横にはスマホなどの充電に便利なUSBソケットを装備する。
エンジンは低回転域からの力強いトルクとスムーズな吹き上がりを実現。全回転域にわたって右手のアクセル操作に従順で思いどおりに操れる。
その秘密はエンジンにある。スズキファン感涙の伝家の宝刀「油冷エンジン」が新しくなって搭載されているのだ。世界初の油冷エンジンを搭載し、伝説的人気モデルとなったのは、1985年に登場したGSX-R750。
熱を持つ燃焼室を、水を使って効率的に冷やす水冷エンジンは部品点数が増えて重くなる。しかし、オイルを吹きつけて冷やすスズキの独自技術・油冷により、その課題を解決した。
空冷よりパワーが出せ、水冷より軽いという画期的なメカニズムだったが、残念ながら環境規制に対応できず、08年のGSX1400を最後にその姿を消した。
実はチーフエンジニアの鈴木氏は、伝説のGSX-R750をこよなく愛するファンで、スズキ自慢の油冷エンジンを復活させた立役者のひとりでもある。もちろん、高出力と燃費性能を両立させ、環境規制にも対応した〝シン・油冷エンジン〟に仕上がっている。
秀逸なのはエンジンだけじゃない。ダートでの走破力の高さにもマジで驚く。フロントにオフロードも得意とする19インチタイヤを履くおかげで、軽い車体も相まって悪路でもコントロールが利く。舗装が途切れた先へも臆せず入っていける!
それでいて価格は56万9800円と鬼のバーゲンプライス。アオキは日本市場でもヒット確実とにらんでいる!
モーターサイクルジャーナリスト。著書に『図解入門 よくわかる最新バイクの基本と仕組み[第4版]』(秀和システム)など。『ウィズハーレー』(内外出版社)編集長。YouTubeチャンネル『バイクライター青木タカオ【~取材現場から】』を運営。