山本シンヤやまもと・しんや
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。
平成を代表する高級セダンが、来年誕生35周年を迎えるトヨタのセルシオだ。その魅力と実力とは? 最近、この初代セルシオをガチ購入した自動車研究家の山本シンヤ氏が熱く語り倒す!
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――山本さん、初代セルシオを購入されたそうですが、そもそもどんなクルマ?
山本 1989年にトヨタ自動車が新規に立ち上げたのが、ご存じ高級車ブランドのレクサスです。このレクサスのフラッグシップモデルがLSです。当時、日本ではまだレクサスが開業前(2005年から)でしたので、〝トヨタのセルシオ〟として発売されました。
――ズバリ、セルシオの何がスゴい?
山本 トヨタはセルシオを世界基準のモデルにするべく、ゼロから開発を行ないました。走る、曲がる、止まるというクルマの基本性能はもちろん、圧倒的な静粛性、滑らかな走り、そして高品質を実現。その結果、初代セルシオは、世界中のライバルに大きな影響を与えたんです。
――ちなみに初代セルシオが誕生する前、世界的な日本車のイメージというのは?
山本 安くて壊れない。そういう評価が多数を占めていましたね。要するに大衆車としては認められていたものの、高級車となるとアメリカのリンカーンやキャデラック、ドイツのメルセデス・ベンツやBMWに歯が立たなかった。
――初代セルシオの誕生によりその評価が激変したと?
山本 有名な話ですが、世界中の高級ブランドが震撼(しんかん)、こぞってLSを購入したんです。
――マジか!
山本 そして、世界中の高級ブランドがLSを徹底的に解析した。その後、発売されたモデルを見ると、明らかにLSがクルマづくりに影響を与えたのがよくわかります。
――つまり、日本のクルマづくりが世界に認められた?
山本 ええ。それから僕はレクサスの取材を長年行なっているんですが、エンジニアの多くは「われわれの原点はLS(初代セルシオ)」と語ります。もっと深い取材をするには、レクサスの原点をしっかり知る必要があるなと。
――これまで初代セルシオに試乗された経験は?
山本 僕はモータージャーナリストの世界では若いほうで、初代セルシオの発表時はまだ中学生でした。ただ、セルシオがデビューしたとき、子供ながらに衝撃を受けたのは鮮明に覚えています。それで近所のディーラーにカタログをもらいに走ったんですが、「購入者にしか渡せない」と断られてしまった。
――あらら。それでカタログは断念?
山本 いいえ。どうしても諦めきれず、中学生の僕は熱い思いを手紙にしたためてトヨタ本社に送ったんです。部署名も書かず(笑)。すると後日、とても豪華な厚手のカタログが送られてきて......スゴく感動しましたね。その初代セルシオのカタログは今でも大切に保管しています。
――このタイミングで初代セルシオの購入に踏み切った、何かきっかけみたいなものはあったんスか?
山本 トヨタの佐藤恒治社長の取材をしていたら、AE86カローラレビンを購入してレストアを楽しんでいるというお話を聞きましてね。佐藤社長とは収入が全然違うのにもかかわらず(笑)、火がついてしまった。ただ、以前から中古車サイトのパトロールは日課にしていたんですよ。
――狙っていたグレードは?
山本 中学生のときに購入し、穴があくほど読み込んだモーターファン別冊ニューモデル速報第76弾『セルシオのすべて』(三栄書房)に、ジャーナリストの大先輩が、「自分で運転するなら路面状況に応じてダンパーの減衰力を電子制御で切り替えてくれる世界初の技術『ピエゾTEMS』を装備するB仕様を購入すべし!」と書いていまして。
――今回、その〝B仕様〟に出合えたから購入したと?
山本 しかも、超レアなディーラーオプションのトヨタ純正BBSホイールが装着済み。加えてオーディオ(セルシオスーパーライブサウンドシステム)には、当時でもレアだったデジタルオーディオテープレコーダー(DAT)までついていたんですよ!
――購入時のお値段は?
山本 なんと100万円台です。
――同じ年代の伝説カーは1000万円台とかフツーなのに、名車セルシオにしてはお値段安くないですか?
山本 セルシオはグローバルモデルですからね。日産のスカイラインGT-Rなどは国内専用モデルなので、海外からの人気が非常に高い。その影響で中古車価格が天井知らずになっているんです。
――初代セルシオを購入し、実際に乗った感想は?
山本 デビューからすでに34年の月日が経過していますが、今乗っても最新モデルに負けていない部分がたくさんありました。
もちろん、前オーナーが入念な点検やパーツ交換をしてくれていたので、静粛性、滑らかな走りは健在ですし、燃費も悪くない。初恋の人と時がたって会うと「ガッカリ」なんて話もよく耳にしますが、僕が購入した初代セルシオは初恋のままでしたね。
――メロメロじゃないスか!これから大切に乗ると?
山本 世界中の高級ブランドを震撼させた伝説の日本車を多くの人に乗って味わってほしいなと思っています。
――ほお!
山本 そこで、「Vintage Club by KINTO」の旧車レンタカーとして期間限定ですが運用することにしました。興味のある方は、私の初代セルシオにぜひ乗ってみてください。
自動車研究家。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。ワールド・カー・アワード選考委員。YouTubeチャンネル『自動車研究家 山本シンヤの「現地現物」』を運営。