のどかな日本家屋の前に集落の人たちが集まり応援。その前を爆音を響かせ、ラリーカーが非日常な速度で駆け抜けていく のどかな日本家屋の前に集落の人たちが集まり応援。その前を爆音を響かせ、ラリーカーが非日常な速度で駆け抜けていく

愛知、岐阜両県が舞台となった世界ラリー選手権の今季最終戦「ラリージャパン2023」がチョー激アツだったという。熱気の源は? 昨年と何が違う? 現地で取材した自動車研究家の山本シンヤ氏が特濃解説する。

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山本 11月16~19日の4日間、愛知県と岐阜県を舞台に、「FIA(国際自動車連盟)WRC(世界ラリー選手権)」の今シーズン最終戦となる日本大会「フォーラムエイト・ラリージャパン2023」が開催されました!

――WRCはF1と並ぶ自動車競技の最高峰で、2年目の開催となる今年はトヨタ勢が1位、2位、3位と表彰台を独占して大きな話題を呼びました。今回も山本さんは現地に飛び、特濃取材されたわけですが、率直な感想からお願いします。

山本 大会の実行委員会によると、来場者数は4日間で53万9600人。ちなみに東京ビッグサイトを中心に開催された「ジャパンモビリティショー2023」は、11日間で来場者数111万2000人ですから、今回のラリージャパンは大盛況だったかと。

ちなみにテレビは150ヵ国で放送、視聴者数は8億4000万人。SNSの総視聴者数は17億人だったそうです。

トヨタのエルフィン・エバンスが総合優勝で今季3勝目。ちなみに3位までトヨタ勢が独占!! トヨタのエルフィン・エバンスが総合優勝で今季3勝目。ちなみに3位までトヨタ勢が独占!!

――専門家筋からは「経済効果40億円!」との声も。

山本 それだけではありません。モリゾウさん(豊田章男トヨタ自動車会長)は、「ラリーは町おこし、村おこしだ!」と語っていますが、それを実感する話をいくつか聞きました。

――ほお!

山本 愛知県豊田市と共にラリージャパンの運営主体となっていた岐阜県恵那市(えなし)の小坂喬峰(こさか・たかね)市長にお話を伺う機会がありまして。余談ですが、恵那市の名産品は栗きんとんと五平餅です。

――市長の話の中身は?

山本 ラリーが来ることで、お客さまとの交流が生まれ、街が活性化し、地元住民の役にも立てると。さらに市の職員も、"世界イベント"に関わることで刺激を受け、仕事に張りが出ているのがうれしいと語ってくれました。

岐阜県恵那市にある古い町並みを通過するラリーカー。沿道にはファンが詰めかけ、お祭り状態に!! 岐阜県恵那市にある古い町並みを通過するラリーカー。沿道にはファンが詰めかけ、お祭り状態に!!

――豊田市の協力もハンパなかったそうですね?

山本 豊田市は、Jリーグ・名古屋グランパスの本拠でもある「豊田スタジアム」のピッチの天然芝をアスファルト舗装に替え、競技エリアとして提供。ちなみに剥がした天然芝はあらゆる場所ですでに活用されており、その一部は豊田氏がオーナーを務める「ルーキーレーシング」のファクトリー付近にも植えられています。

――そんな豊田スタジアムでのSSS(スーパースペシャルステージ)はチョー激アツだったとか?

山本 はい。ラリーは一台ずつ走行するタイム競技ですが、SSSは2台同時に走行をするのでガチンコ勝負が見られました。さらにコースすべてが見渡せるため、スタートからゴールまで大コーフンで楽しめる。

豊田スタジアムのピッチには2台が同時に走行するコースが設定され、観客を熱くたぎらせていた 豊田スタジアムのピッチには2台が同時に走行するコースが設定され、観客を熱くたぎらせていた

――これは誰のアイデアですか?

山本 あまり知られていませんが、ラリーカーが豊田スタジアムの中を走るというのはモリゾウさんのアイデアです。というか、開催までの間にモリゾウさんが口にしていた話はあらゆる場所で具現化されていましたね。その本質は「ファンの方に喜んでいただきたい」という純粋なモータースポーツファンとしての気持ちだと思いますね。

選手と喜びを分かち合うトヨタの豊田章男会長(中央)。シャンパンならぬスパークリング日本酒ファイトに 選手と喜びを分かち合うトヨタの豊田章男会長(中央)。シャンパンならぬスパークリング日本酒ファイトに

――ところで、WRCトップカテゴリーに参戦する唯一の日本人ドライバー・勝田貴元(かつた・たかもと)選手(トヨタGRヤリス・ラリー1)は総合5位でした。

山本 勝田選手は2日目のSS2でのクラッシュで33番手まで沈んだ順位を、鬼神のような走り(なんと10回のステージでベストタイム!)で、総合5位まで引き上げたんですよ。

ちなみに今年のラリージャパンは雨の影響もあり、路面状況は今年のWRCチャンピオンのカッレ・ロバンペラ選手をして「日本の道は本当に難しい」と。そんなコンディションの中で勝田選手は快走を見せたわけです。

――なるほど。

山本 ちなみにクラッシュした場所は、勝田選手以外にふたりのドライバーもクラッシュするほど先が読めない難しい路面でした。加えて、そのふたりは崖から落ちてしまいましたが、勝田選手は1本の幸運にも木が助けてくれ、コース上に残ることができました。

ただし、クラッシュ時にエンジンを冷却するラジエーターを損傷。その後、勝田選手は用水路から水を汲んで必死に補充し、そのシーンが世界中継され話題を呼びました。

――選手自ら修理?

山本 はい。ラリーでは指定された場所以外ではメカニックはクルマに触れられないので、選手が自分の手で修理を行なう必要があります。なので、ドライバーは運転テクニックだけでなく、クルマの構造や修理方法なども理解していないとダメなんです。

――そして、勝田選手はなんとかサービスパークに戻れました。

山本 その後のステージがキャンセルになった"運"も味方しましたが、HEV(ハイブリッド)のモーター走行をうまく活用できたのも大きかったですね。もしガソリンエンジンのみ、EV(電気自動車)のみだったら、おそらくサービスパークまでたどり着けなかった可能性もあったかも!?

――それにしても、45分という限られた時間内にもかかわらず、メカニックは見事な修理でした。SNSでも「新車に戻った」「魔法かよ!」と沸きに沸いていました。

山本 メカニックは壊れたクルマが戻ってくると、「腕が鳴る」と言います。もちろん安全第一、クラッシュはない方がいいのですが、彼らは「壊れても俺たちが必ず直す。だから全力で走ってほしい」とも語ってくれました。

――熱いですね。

山本 つまり、ラリーはドライバー、コドライバーだけでなく、エンジニアやメカニックもヒーローなのだと言えますね。

――なるほど。

山本 もうひとつ熱い話が。今季はセバスチャン・オジエとマシンをシェアしていた勝田選手ですが、ラリージャパンの翌日のTGR(トヨタガズーレーシング)WRCとWEC(FIA世界耐久選手権)の体制発表会で来季のフル参戦が電撃発表されました!

勝田選手は、「来年は自分の力を証明する重要な年。これまでのキャリアにおいて最高の年にできるように頑張ります!」と語ってくれました。実はこの場にいたWECチーム代表の小林可夢偉選手の口から、「僕も来年はラリージャパンに出たい。そのためにはラリーチャレンジで練習しないと......」とサプライズ発言が! 

――話をラリージャパンに戻すと、WRC復帰の期待が高まるスバルの中村知美(なかむら・ともみ)取締役会長が現地を訪れていたらしいスね?

山本 モリゾウさんに「見に来ませんか?」と誘われたようです。実は豊田スタジアムでばったりお会いしたので一緒に観戦しましたが、青いスバルジャケットをまとった中村会長らの姿が目立ったのか、熱狂的なスバルファンが駆け寄ってきまして。

スバルの中村知美会長(右)を直撃した山本氏(左)。中村会長のサムズアップの意味とは!? スバルの中村知美会長(右)を直撃した山本氏(左)。中村会長のサムズアップの意味とは!?

――水戸黄門のような展開!

山本 ファンの方はスバル関係者であることはわかったようですが、中村会長含め、最後まで誰も身分を明かさなかったので、「こちらはスバルの会長ですよ」と私が紹介すると、スバルファンの方はギョーテン! 間髪入れず「中村です」と会長自ら名刺を渡していましたね。

――ズバリ、スバルのWRC復帰の感触は?

山本 単刀直入に聞きましたが、中村会長はほほ笑んでいるだけで(笑)。でも、本当にお忍びだったらわざわざ青いスバルジャケットを着なくてもいいですよね?

さらにグループA時代の三菱ランサーエボリューションⅢとトヨタセリカGT-FOURのデモラン時には、「ウチのクルマ(=インプレッサWRX)のほうが速いよね~」という負けず嫌いにも程があるコメントを私は聞き逃しませんでしたよ!

――山本さんが、ラリージャパンの取材でほかに注目したのは?

山本 トヨタはサービスパークを含め、各所に水素発電を活用していました。担当者を直撃すると、「昨年は水素発電というだけで取材されましたが、今年は話題になっていません。

ただ、インフラはそういうモノですので、浸透してきた証拠だと喜んでいます。ちなみにトヨタのチームテントでは今年は重要な箇所の電源も担い、これまでのさまざまな取り組みが理解され、われわれを信頼してくれた証拠ですね」とコメントしていました。

ラリージャパンでは恐ろしく静かな水素発電機が活躍。トヨタのチームテントの重要な箇所の電源も担ったという ラリージャパンでは恐ろしく静かな水素発電機が活躍。トヨタのチームテントの重要な箇所の電源も担ったという

――ふむふむ。

山本 また、トライアルながら、今回ヘリコプターの活用もスタートしました。日本では法律の壁が高いものの、さまざまなフィードバックが得られたようなので、メディカルヘリなどを含めた今後の展開に注目です。

――ラリージャパンは、来年も開催されるんですよね?

山本 もちろんです。ただ、今回はオフィシャルカーのコース上停止による赤旗や、リエゾン区間(SSとSSの移動区間)の大渋滞(移動のための動線が少ない)など、安全面や運営面での課題も浮き彫りになりました。

来年は11月21~24日に開催が決定していますが、今大会の問題点をしっかり改善し、魅力あるラリージャパンにしてほしいですね。