渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
今年発売された新型、取材した話題のモデルの中から、珠玉にも程があるやりすぎカーを選び、勝手に表彰! 選考委員長は日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員で、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏。てなわけで、今年を代表するクルマを一挙大放出!
――それでは渡辺委員長、早速1位の発表からお願いします!
渡辺 それでは発表します。2023年の1位は、東京ビッグサイトなどを中心に10~11月に開催された「ジャパンモビリティショー2023」に出展、大きな話題を呼んだマツダのアイコニックSPです!
――会場もネットも「次期ロードスターか!」「いや、アレはRX-7の再来だ!」と沸きに沸きました。ズバリ、どこがやりすぎ?
渡辺 全部です(笑)。リトラクタブル風のヘッドライトやはね上げ式ドアを採用。さらにロータリーエンジンを発電機として使用するPHEVの最高出力は370馬力! 後輪駆動のツーシーターのスポーツカーで、外観は低いボンネットの効果もあり、実にカッコいい。マツダはこの手のクルマを造らせたら天下一品ですよ。
――確かにやりすぎ!
渡辺 ただし、もう少し、やりすぎてほしいところがある。
――ほお、それはどこです?
渡辺 アイコニックSPは純粋なスポーツカーなのに、せっかくのロータリーエンジンを、MX-30ロータリーEVと同じく発電だけに使うのは実にもったいない。
スポーツカーなら、モーターと併せ、ロータリーエンジンによる駆動を行なってほしい。クルマ好きが望んでいるのは、アクセル操作によって味わえるロータリーフィーリングです。
――そうスね。
渡辺 以前、マツダの開発者を取材した際に、「今後のロータリーは、決して発電用のエンジンだけではない。ロータリーエンジンによる駆動も考えています」と語っていたんですよね。
――なるほど。ちなみにこのアイコニックSPは、ぶっちゃけ、次期ロードスター?
渡辺 ボディサイズを精査すると、現行のロードスターよりも大きく、どちらかというと1991年に発売された3代目RX-7のボディサイズに近いですね。
――市販化は?
渡辺 マツダの公式アナウンスはありませんが、販売店には、すでにファンからの問い合わせが入っているようです。ロータリーエンジンによる駆動も含め、マツダがファンの声をどうくみ取るのか注目していきたいですね!
――2位は?
渡辺 今年1月に開催された改造車の祭典「東京オートサロン2023」に出展されたトヨタのAE86BEVコンセプトと、AE86H2コンセプトです!
1983年に発売されたAE86型カローラレビンとスプリンタートレノという、ファンから熱い支持を受ける旧車に最新の脱炭素機能を搭載しました。しかも、わざわざMT(マニュアルトランスミッション)に改造したのもポイント。
――本来、EVだとMTはなんの役にも立ちませんよね?
渡辺 ええ。ただ、トヨタはクルマ好きのツボを心得ているなと。旧来のクルマ好きには、「モーターで走るクルマはつまらない」と考えている人も多いのが実情です。
そこで、MTを搭載するという"公式ミラクル魔改造"によって、実に夢のあるクルマに仕上がった。またAE86BEVコンセプトは、将来のクルマ造りにおいて、重要な意味を持つかもしれません。
――どういうこと?
渡辺 仮に世の中のクルマがすべてEVになったら、ガソリンの流通も終了します。そうなると保有されている過去の名車は走行できず、ただの置物に......。そのときに改めて意味を持つのが、今回のコンバート案です。
将来、既存のガソリン車をEVにコンバートするビジネスが脚光を浴びるかもしれませんよ!
――3位はデビュー10年目に爆誕した日産スカイラインニスモですか!
渡辺 まさにEVの対極ともいえるモデルですね。現行スカイラインは2013年にデビューした13代目です。長らくモデルチェンジを行なっておらず、ファンらの間では、「スカイライン消滅か!?」なんてウワサも飛び交っていました。しかし、このニスモバージョンの登場でファンは安堵したと思いますね。
――やりすぎにも程がある史上最強の420馬力の走りについてはいかがですか?
渡辺 往年の"スカG"って感じの走りでファン感涙かと。ただし、ベース車が古いので仕方ありませんが、パーキングブレーキが足踏み式なのはご愛嬌(笑)。
――ほかに気になる点は?
渡辺 衝突被害軽減ブレーキは絶対に改善すべき。現状では車両など大きな物体しか検知できず、歩行者や自転車は対象外なんです。安全装備に関して言うと、日産自慢の軽自動車「デイズ」と比べても性能が低く手を抜きすぎ。走行性能がやりすぎなクルマだからこそ、安全面も徹底的にやりすぎないとダメ!
――4位も日産?
渡辺 ジャパンモビリティショーに日産がブチ込んだ痛快モデルを選びました。
――ハイパーフォースですね。日産の内田誠社長はハイパーフォースについて、「まさにゲームチェンジャー」と胸を張っていました。
渡辺 一方、口の悪い専門家らは「こいつに竹やりマフラーを装着したら、完全に80年代の族車だよなぁ!」などと騒いでいました(笑)。
――このクルマは次期GT-Rなんスか?
渡辺 日産は明言を避けていますが、リアの丸い4灯ランプなど、におわせがスゴく、誰がどう見ても次期GT-Rのコンセプトモデル(笑)。
ちなみに全固体電池や電動駆動四輪制御技術「e-4ORCE」を搭載し、言ったモン勝ちの世界ではありますが、最高出力は1360馬力と完全にやりすぎ。ただ、少しマジメな話をすると、ハイパーフォースはEV時代を日産が生き抜く上で重要なコンセプトモデルだと思います。
――というと?
渡辺 EVだけを造る時代になってGT-Rがなくなったら、"技術の日産"のイメージは完全に薄れてしまう。
日産はEV時代になってもGT-RやフェアレディZというイメージリーダーカーをラインナップさせ続け、その高い技術力やレベチの走りを世界に訴求する必要がある。要はブランドイメージを高める役割を担うのが、このハイパーフォースなんです。
――そして5位は、現行モデルの日産GT-Rニスモスペシャルエディションです。
渡辺 2007年デビュー時の価格は777万円ですが、このGT-Rニスモのスペシャルエディションの価格は約4倍の2915万円......。しかもお宝と化しており、中古価格は5000万円を軽く突破する天井知らず!
どう考えても価格がやりすぎ。まさにバブル時代の地上げを彷彿とさせる世界ですよ! GT-Rは生産台数も減っており、価格を高めないと成り立たない商品になってきましたね。
――6位はランボルギーニのレヴエルトです。
渡辺 ランボルギーニのPHEVですね。価格は約6600万円で、エンジンとモーターを合計したシステム最高出力は1015馬力! 時速100キロへの到達は2.5秒、最高速度は時速350キロ。
――問答無用のやりすぎカーであると?
渡辺 逆に言うと、脱炭素時代もランボルギーニはランボルギーニです。常にやりすぎこそが、ランボルギーニの神髄ですからね!
――7位は1542万円スタートのメルセデス・ベンツの最新大型EV、EQS SUVです!
渡辺 全長5130㎜、全幅は2035㎜とやたらデカい。ただし、車内はとても広く、3列のシートまで備えています。
――どこがやりすぎ?
渡辺 車内イルミネーションですね。昼間でも繁華街のネオンサインのごとくギンギラギンに輝いて超ド派手!
――8位もベンツ!
渡辺 コンセプトEQGです。人気のGクラスのEVモデルです。来年、ドイツ本国で発売予定ですね。EV化されても本格オフローダーのキモは忘れず、ラダーフレームを採用するやりすぎぶり!
――やりすぎのワケは?
渡辺 これもハイパーフォースと同様、技術とブランドの継承です。メルセデス・ベンツとしてはEV時代になっても、しっかり稼げるGクラスであってほしいわけです。
つまり、EV時代になり、すべてがリセットされ、今の神通力とか優位性、あるいはユーザーに対する既得権益みたいなものを失うのが一番怖い。今後、人気のガソリンモデルが次々にEV化され、各メーカーからたくさん出ると思いますよ。
――9位は中国BYDのEV。
渡辺 今年ニッポン市場に進出し、話題を呼んだ中国BYD自慢の世界戦略車がこのドルフィンです。車名のとおり外観や内装はあのイルカをイメージ。中国メーカーの実に大胆な発想と、個性的な仕上がりに9位を進呈します。
――10位は三菱のデリカミニです。
渡辺 鳴かず飛ばずだった三菱の軽スーパーハイトワゴン「eKクロススペース」。こちらをベースに、パジェロと並ぶ三菱のビッグネーム「デリカ」の名前を与え、お顔を整形したら三菱久々のスマッシュヒットとなったのがデリカミニです。
――へぇー!
渡辺 正直、マイナーチェンジでここまで成功した車種は、日本車の歴史を振り返ってもほとんどない。デリカミニは歴史に残るクルマです。ルッキズム反対が叫ばれる昨今ですが、やっぱりクルマは見た目が大事だなってことで10位にランクイン!
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員