今夏、ワインディングに標準モデルを引っ張り出してテストした渡辺氏。今回のニスモ版はATのみということもあり、一般道を中心にテスト今夏、ワインディングに標準モデルを引っ張り出してテストした渡辺氏。今回のニスモ版はATのみということもあり、一般道を中心にテスト

日産伝統のスポーツカー・フェアレディZに高性能バージョンとなる「ニスモ」が登場した。そこで、都内で開催された日産の試乗会にカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏が突撃。その実力とお宝化の背景などを解説する。

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■なぜニスモ版は9速ATのみなのか?

――現在、ニッポン市場におけるスポーツカーのシェアってどんな感じなんスか?

渡辺 スポーツカーやクーペの売れ行きは下がっており、乗用車の新車販売台数に占める割合は1%程度ですが、少数精鋭ながら魅力的な車種が勢ぞろい。その最右翼とも言えるのが、日産のフェアレディZです。今回試乗したのは、今年8月に追加されたニスモ版になります。

日産 フェアレディZニスモ 価格:920万400円 外観でニスモ専用となるのは、フロントグリル、フロント&リアバンパー、リアスポイラーなど。車体にもチューニングが施されている日産 フェアレディZニスモ 価格:920万400円 外観でニスモ専用となるのは、フロントグリル、フロント&リアバンパー、リアスポイラーなど。車体にもチューニングが施されている

――ニスモって?

渡辺 日産のモータースポーツ専門のブランドで、いわゆるメーカー直系のワークスチームです。レースで培った高い技術で日産車のスポーツ性能をさらに磨き抜く。具体的にはGT-R、スカイライン、リーフ、ノートオーラにニスモ版が設定されています。

ニスモが3リットルのV6 ツインターボエンジンを徹底的に磨き、パワーとトルクはベースモデルよりアップ!ニスモが3リットルのV6 ツインターボエンジンを徹底的に磨き、パワーとトルクはベースモデルよりアップ!

――フェアレディZの標準モデルとニスモ版は何がどう違う?

渡辺 フェアレディZニスモには専用のチューニングが施されています。V型6気筒3リットルツインターボエンジンの最高出力は、ベース車の405馬力から420馬力に、最大トルクも475Nmから520Nmへ向上しています。9速ATも変速時の反応を機敏にし、熱対策も行なっていますね。

――MT(マニュアルトランスミッション)はない?

渡辺 ベース車のフェアレディZには6速MTが用意されていますが、ニスモは9速ATのみですね。

内装もニスモ専用品が輝く。シートもニスモのチューニングが施された専用スポーツシートになっている内装もニスモ専用品が輝く。シートもニスモのチューニングが施された専用スポーツシートになっている

――その理由は何ですか?

渡辺 磨きに磨き抜かれた超ド級のエンジンなので、正直言うとドライバーがクラッチペダルを操作して変速するよりも、ATに任せてしまったほうが操作は確実(笑)。

しかも、フェアレディZのMTは6速ですが、ATは9速なので、エンジン回転数を高く保てます。事実、タイムを計測すれば9速ATのほうが6速MTよりも速い。

スポーツ走行を楽しめるよう、ニスモ専用のタイヤ、ホイール、専用大径ブレーキなどを採用スポーツ走行を楽しめるよう、ニスモ専用のタイヤ、ホイール、専用大径ブレーキなどを採用

――足回りはどうです?

渡辺 ボディの前後を補強して、ねじり剛性を高めています。サスペンションのスプリングレート(スプリングの反発力の強さなどを表す数値)やショックアブソーバー(緩衝器)の減衰力も最適化しました。ブレーキユニットやタイヤもニスモ専用ですね。

ニスモ専用のリアスポイラーは、ダウンフォース(車両を路面に押しつける力)が向上ニスモ専用のリアスポイラーは、ダウンフォース(車両を路面に押しつける力)が向上

――外観も標準モデルとはひと味違いますね?

渡辺 ニスモ専用のフロントグリルやバンパー、サイドシルプロテクター、リアスポイラーなどを装着しています。内装もシートなどが専用になっていますよ。

――試乗した印象は?

渡辺 動力性能は、先に述べた数値以上に感じました。低回転域から高回転域まで、全域にわたって加速性能が高まり、発進直後の1400回転付近から十分な駆動力が発揮され、4000回転以上の吹き上がりが特に力強い。アクセルペダルを深く、素早く踏むと、ATなのに簡単にホイールスピンを発生させます。

――つまり、フェアレディZニスモの性能をMTで引き出すには、プロ級のシフトレバーとクラッチの操作が必要であると?

渡辺 そりとおり。だからATのみの設定なのです。ちなみにアクセル操作をデリケートに行なうことが、このフェアレディZニスモを楽しむコツですね。

――カーブを曲がる性能はどうです?

渡辺 フェアレディZは、ベースのグレードでも、ステアリングの操舵角に応じて非常によく曲がり、峠道などを走ると楽しく運転できます。ニスモはこの性能をさらに強めている。操舵に対する反応が神経質にならない範囲で、シャープに、正確に曲がります。

ギンギンにチューニングされたモデルだが、荷室は標準モデルと変わらぬ広さをしっかりと確保しているギンギンにチューニングされたモデルだが、荷室は標準モデルと変わらぬ広さをしっかりと確保している

■フェアレディZニスモは買えない!?

――渡辺さんは、今回試乗したニスモ版のお値段をどうとらえています?

渡辺 フェアレディZニスモの価格は920万400円です。ベースグレードは標準モデルのバージョンST。価格は665万7200円です。比率に換算するとニスモの価格はバージョンSTの1.4倍です。

――なんだか割高に聞こえますが?

渡辺 そうとも言えません。仮にユーザーがバージョンSTを購入して自分でチューニングしても、254万円でフェアレディZニスモの性能は手に入りません。実際、衝突被害軽減ブレーキなども、ニスモ版のチューニングに合わせて磨き抜かれていますしね。

――なるほど。一方で、フェアレディZニスモは〝幻のお宝カー〟らしいスね? 

渡辺 文字どおり買えないんですよ(笑)。

――どういうこと?

渡辺 フェアレディZは、2022年の発売直後となる8月から受注を停止しています。それ以来、1年以上買えない状態が続いている。

――なぜ買えない?

渡辺 単純な話で、フェアレディZの生産規模が需要に対して小さすぎるからです。なので、現在は大量に受注した車両の生産と納車を行なっている最中で、新規の受注は行なっていません。もちろん、フェアレディZニスモも受注は行なっていない。

――ニスモ版は誰が買った?

渡辺 販売店に聞くと、「ニスモの販売は、すでにフェアレディZを注文したお客さまを対象に抽選で決めている」とのこと。この方法なら、確かに納車を待つ人の反感は抑えられるでしょう。

――でも、購入希望者の中には、フェアレディZニスモの追加を予想して、あえてベース車を注文しなかった人もいると思いますが?

渡辺 最初からフェアレディZニスモを希望していたユーザーからすれば、「先にニスモの売り方を知りたかった」とガックリ肩を落とすでしょうね。

――こんなに優れたカッコいいスポーツカーを開発したのに、欲しいユーザーが買えないのは残念無念の極みです(号泣)。

渡辺 自動車メーカーは商品を開発するとき、需要を正確に予想し、それに見合う生産と販売を行なわねばなりません。ユーザーを待たせたり、じらしたり、残念な思いをさせたのでは、優れた商品とは言えません。フェアレディZに限らず、現在受注を止めているクルマはユーザーにとっては存在していないのと同じ。

――ちなみに現行のフェアレディZは、中古車価格も高騰しているそうですね?

渡辺 バージョンSTは新車価格が約666万円ですが、中古車市場では850万円前後で売られていますね。

――転売ヤーが暗躍している?

渡辺 高値で転売するのは好ましくありませんが、クルマの売買は基本的に自由です。それに供給が安定していれば、そもそも転売ヤーが暗躍したり、プレミアム価格の中古車が市場に出回ったりしません。各自動車メーカーは、納期の適正化にそろそろ目を向けてほしいものですね。

■歴代フェアレディZの歩み

1969~1978年 初代フェアレディZ(S30型) 
150馬力のエンジンを搭載した最強モデルは、ラリーなど、世界のあらゆるレースに参戦。

1978~1983年 2代目フェアレディZ(S130型) 
伝説の刑事ドラマ『西部警察』に登場した「スーパーZ」のベース車としても話題を集めた。

1983~1989年 3代目フェアレディZ(Z31型) 
世界累計販売台数100万台を突破した年に登場。このモデルからエンジンは直列からV型に。

1989~2000年 4代目フェアレディZ(Z32型) 
魅惑のボディで世の男を刺激しまくり。エンジンは3リットルV型6気筒ツインターボで280馬力。

2002~2008年 5代目フェアレディZ(Z33型) 
ルノーとの提携で、「Zは消滅」の声も飛んだが、新生日産が総力を結集し、見事復活させた。

2008~2022年 6代目フェアレディZ(Z34型) 
3.7リットルのV型6気筒エンジンは336馬力を誇った。ちなみにオープンモデルも存在した。

2022年~ 7代目フェアレディZ(RZ34型) 
新開発の3リットルツインターボは405馬力! ただし、予約段階から注文が殺到し、現在販売停止中。

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