渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
店舗によっては1月3日からスタートしている新車の初売りセール。初売りの魅力って? お得な交渉術は? 狙うべき本命カーは? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎(わたなべ・よういちろう)氏がマル秘情報を一挙大公開!!
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――毎年恒例の話ですが、年末年始になるとスズキなどの初売りCMがテレビでバンバン流れます。そもそもの話ですが、初売りって?
渡辺 年始に開催される自動車販売店のお祭り的な大イベントで、最速だと1月3日から実施していますね。店舗によっても内容は大きく異なりますが、福袋やお米、カタログギフト、ノベルティグッズ、さらにはディーラーオプションの豪華プレゼントや、出血覚悟の初売り限定の〝お宝カー〟を用意している店舗もありますね。
――年始から商談ですか?
渡辺 正月に帰省しない人は年末年始は暇を持て余していますから、新車の商談を行なうのにちょうどいい。実際、初売りを開催している販売店に取材すると、
「年末に来店して商談をある程度進めておき、年始の初売りフェアで契約するお客さまが多いですね。また、初売りで即決する方もいます。年始から営業する店舗は少ないので意外と目立つようで、アポなしでフラリとご来店されそのままご契約をいただくパターンもあります」
とのこと。初売りが恒例化した販売会社も多く、決算期と同様、年々この初売りで購入するユーザーも増えていますね。
――ユーザーのメリットは?
渡辺 繰り返しになりますが、まず年末年始の休暇を利用し、ゆっくり落ち着いて愛車を選べること。それから初売り限定の〝出血大サービス〟も受けられますし、そして何よりも年末より初売りで買ったほうが、数年後の売却時に有利になる。
――どういうこと?
渡辺 実は愛車の売却時の査定額というのは、主に車種とグレード、年式、走行距離、キズの有無などによって決まります。そうなると年式は新しいほうが好ましいわけです。
23年の12月下旬に登録(軽自動車は届け出)をするのと、24年の1月上旬では、実際は半月程度の違いですが、年式は1年も異なる。購入して5年以内に売却する場合、この差は大きく響きます。
――そんな初売りの目玉は?
渡辺 軽自動車やコンパクトカーのような販売台数の多い車種は、初売り専用の在庫車が用意されています。
――在庫車ってお得なの?
渡辺 在庫車は保管費用もかかるため、店側は1週間程度の初売り期間中に完売したいのが本音。在庫車なのでグレードや外装色は選べませんが、特上値引きやディーラーオプションのサービス装着など初売り限定のお得な条件が出ます。
――初売りの賢い交渉術は?
渡辺 普段閑古鳥が鳴いている店も、初売り期間中は客足が途絶えないなんて話も耳にします(笑)。つまり、セールス担当が多忙になるため、のらりくらりとダラダラした商談を行なっていると、「この客は冷やかしだな」と判断され、条件提示もなく適当にあしらわれる可能性も。
――なるほど。
渡辺 特に大本命カーの商談の場合は、迅速に話を進めることが大切です。そのためには、例えば初売りの豪華特典としてディーラーオプションプレゼントが用意されている店舗なら、何を装着してもらうのかを商談前に必ず調べて決めておくこと。商談の席でグズグズ悩むのは避けるべき。初売りはスピード感を意識しましょう。
――つまり、初売りの情報を事前につかんでおけと?
渡辺 昔と違ってスマホで調べれば、欲しい情報はすぐ手に入る時代ですからね。
――そのほかの注意点は?
渡辺 当たり前の話ですが、商談前には予算や支払い方法なども考えておく。そして、目当てのクルマは必ず試乗すること。
――それでは今年の初売りの注目車を紹介してください!
渡辺 その前に、まず注目車の選考基準ですが、基本的に20年以降に発売された、ディーラーが販売に力を入れるクルマを取り上げました。次に適正な納期で買えること。納期が数年かかるクルマは却下しました。
また、購入したクルマの資産価値の高さをリセールとしてA~Eで評価。ただし、今回紹介するクルマはC評価までとなっています。
――そんな条件を踏まえた上で、渡辺さんの推しは?
渡辺 軽自動車のスーパーハイトワゴンでしょう。全高が1700㎜を超えるボディにスライドドアを装着したタイプで、23年にはホンダN-BOX、スズキのスペーシア、三菱デリカミニの3車種が新型になり大きな話題を呼びました。
――魅力はどこ?
渡辺 軽自動車ですから運転がしやすく、なおかつ車内も広い。後席を格納すれば自転車なども積めます。しかも、この3車種は設計が新しく、安全装備も充実している。推せるクルマですね。
――スズキのスペーシアは23年11月にフルチェンを受けたばかりなのもあり注目を集めています。販売状況は?
渡辺 滑り出し好調のようです。スペーシアの大きな注目点は燃費です。マイルドハイブリッドを搭載するGのWLTCモード燃費は25.1㎞/リットルと非常に優秀です。
推しグレードでも23.9㎞/リットルを誇り、先代型から新型に乗り替えると、燃料代を10%以上も節約できる。衝突被害軽減ブレーキの性能も磨き抜かれ、インパネ周辺の質感も先代から衝撃的にアップ!
――そんなスペーシアの大きな壁が〝絶対王者〟です。
渡辺 国内の最多販売車種であるN-BOXの新型は、シンプルになった内外装に賛否が巻き起こっていますが、加減速や操舵は非常に滑らか。車線変更を行なったときの揺り返しも抑えられ、乗り心地はスーパーハイトワゴンの中で特に快適で、まさに〝絶対王者〟。
――デリカミニは?
渡辺 eKクロススペースの顔と名前を容赦なく刷新して大成功。三菱の入魂作ですね。
――話題のEVは?
渡辺 圧倒的な売れ行きを誇る日産サクラで決まり。EVは長距離移動が苦手で、街中の移動に適するため、軽自動車との親和性が高い。サクラはそこを突いて人気を高めました。
道の狭い日本でEVを普及させるなら軽自動車が一番。EVはエコカーですから、小さくて軽いことが不可欠。輸入車の大きくて重いEVが間違っている。
――要は街中を中心に使うならサクラの満足度は非常に高いと?
渡辺 そのとおり!
――お次はコンパクトカー。
渡辺 筆頭は発表ホヤホヤのスズキの新型スイフトです。
――どこがスゴい?
渡辺 内装が上質で、スペーシアと同様に安全装備も向上しました。新開発の1.2リットルエンジンが搭載され、マイルドハイブリッドとの相乗効果で燃費も優れています。
ハイブリッドMXの5速MTは、WLTCモード燃費が25.4㎞/リットルでフルハイブリッド並みの低燃費を誇ります。価格もお手頃で、ズバリ、今年のスズキの初売りの目玉は、このスイフトとスペーシアです!
――日産にも大本命が?
渡辺 はい。ノートオーラニスモですね。ハイブリッドのeパワーを搭載するコンパクトカーで内外装も上質です。ニスモはスポーツ志向のグレードですが、価格も割安です。
エアロパーツ、専用のアルミホイールとハイグリップタイヤ、専用の内装、専用にセッティングされた足回りなどを装備し、ベースのオーラGと比べた際の価格アップは約28万円に抑えられている。この内容なら50万円高くても不思議ではありません。
――流行のSUVは?
渡辺 ホンダZR-Vは、プラットフォームなどをシビックと共通化して、運転感覚が上質で楽しい。しかし、売れ行きが伸び悩んでいるため、現在値引きは拡大傾向にある。販売店も「ZR-Vなら頑張れます!」と鼻息も荒く、クルマ好きは狙い目カーです。
――セダン&ハッチバックはトヨタのプリウスです。
渡辺 5ドアクーペ風のカッコ良さと、低重心による優れた走行安定性が魅力ですね。
――ミニバンは日産セレナ!
渡辺 ミドルサイズミニバンでは、3列目シートを中心に車内が最も広く、シートアレンジも多彩です。現行型ではeパワーも進化。納期が約2ヵ月なのも好印象です。
――ワゴンはスバルです。
渡辺 ワゴンの人気は、車内の広いミニバンに押され、現状では車種数がセダン以上に少ない。そこでスバルのレヴォーグを選びました。低重心でボディ剛性を高めるなど、ミニバンでは得られない走行安定性が魅力です。
エンジンも1.8リットルターボ、さらに強力な2.4リットルターボをそろえています。スバルが長い年月をかけ、愚直に仕込んできた〝ワゴン造りの味〟は絶品です。
――そして男心がたぎるスポーツカーはマツダ。
渡辺 現行型デビューは2015年にさかのぼりますが、マツダが絶え間なく熟成させてきたロードスターは推せますね。運転の楽しさ、爽快なオープンドライブを味わえますよ!
一、商談前に初売りの情報を仕入れる
一、欲しい目玉カーがあるかまず確認
一、ダラダラと商談しない
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員