渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
激動の予感がプンプン漂う2024年のクルマ業界。そこで、カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が各自動車メーカーなどに鬼取材を展開! 今年のクルマ業界を予想する!!
――今年のクルマ業界のアレコレを大予想してもらおうと思っているんですが、まずは世間を揺るがせているアレからオナシャス!
渡辺 ダイハツの認証申請における不正問題ですね?
――はい。渡辺さんは今回のダイハツの自爆というか闇落ちをどう捉えています?
渡辺 大前提として、ダイハツの責任が重いことは間違いありません。その上で言えば、ユーザーの「安全」と「利益」を守ることが最も大切です。
――ズバリ、ダイハツ車にそのまま乗っていて大丈夫なんスか? 危ないのでは?
渡辺 そこは大丈夫です。ダイハツ車について、法規で定める性能基準がすでに確認されており、第三者認証機関の「テュフ・ラインランド・ジャパン株式会社」も同様に確認しています。
過去に実施された自動車事故対策機構による自動車アセスメントの結果を見ても、ダイハツロッキー(姉妹車はトヨタ・ライズ)は衝突安全性能で5つ星を獲得しています。ミライースやムーヴも4つ星です。実際、販売店も「(すでに購入した)お客さまには継続して使ってくださいとご案内しています」と語っていました。
――しかしですよ、現実問題としてダイハツは認証不正を行ない、車両の出荷も停止しています。車両に問題がなく、使用して大丈夫だとするなら、そもそも出荷を止める必要はありません。そこについてはいかがです?
渡辺 不正が行なわれたのは認証の取得段階です。例えばロッキー&ライズハイブリッドのポール側面衝突試験の認証手続きでは、助手席側は試験を実施しましたが、運転席側は時間不足などのために試験を行なっていません。そして助手席側の試験結果を運転席側にも流用して提出したのです。
――サイド&カーテンエアバッグの不正もありました。
渡辺 本来なら衝突時の衝撃をセンサーが感知して、ECU(電子制御ユニット)がエアバッグの作動を指示します。しかし試験の時点ではエアバッグのECUが開発されておらず、タイマーで作動させました。いずれもその後の試験で法規が定める性能基準を満たしていると確認され、運行停止に至っていませんが、もちろん結果オーライで済まされる話ではありません。国の認証試験は安全性を左右するため、たとえ売られている車両が安全でも、そこに不正があっては断じてなりません。従って出荷を停止しています。
――そんなダイハツ車を注文した人はどうなっています?
渡辺 販売店にたずねると、「未出荷の車両は納車できません。出荷再開のメドも立っていません。メーカーから明確な案内がないのです」と返答していました。ダイハツは今後の見通しについて、顧客と販売店に正しい情報をしっかり伝えるべきです。とにかく顧客を最優先にして、迅速に行動してほしい。
――ユーザーの対処法は?
渡辺 ダイハツ車の納車を待つ間に、下取りに出す車両が車検期間を満了する場合もあるでしょう。メーカーの都合で納車が遅れて車検を取るなら、道義的には下取り額の上乗せなどを含め、その費用をメーカーや販売会社に請求できます。あるいはキャンセルして、予め支払った申込金の返金を請求できます。ユーザーの皆さんは、とにかく冷静にご自分の利益を守る賢い行動をとってください。
――ダイハツ車のリセールバリューが今後どうなるのか大予想を!
渡辺 数年後の売却額が下がる可能性があります。運行上の危険がなくても、認証申請における不正は、安全に対する信頼性を損なうからです。ブランドイメージにも悪影響を与え、中古車の人気と価格は下がるため、売却額にも影響します。そこで数年後にダイハツの販売店が買い取るときは、他社や中古車店よりも買取額を高める配慮が必要です。
――ズバリ、24年に話題を集めそうなクルマはどれ?
渡辺 23年10月に発売されたホンダの3代目N‐BOXが、24年も話題の中心になりますね。この3代目は走行性能、乗り心地、視界性を向上させた代わりに、デザインが地味になって収納設備の数も減りました。賛否両論のモデルですが、早くも爆売れ。しかも、24年はさらに爆売れが加速しそうなのです。
渡辺 24年にはN‐BOXにSUV風の仕様が加わるという噂が!
――三菱のデリカミニのようなSUV風N‐BOXが爆誕する可能性があると。
渡辺 登場したら大きな話題を呼ぶと思いますよ。
――なるほど。一方、N‐BOXのガチライバル車となるのが、23年11月に発売されたスズキの新型スペーシアです。
渡辺 スペーシアの燃費は、全高が1700㎜を超える軽自動車では最も優れています。後席の座面にミニバンのオットマンのように使えるマルチユースフラップを装着し、従来型と同様、収納設備も多い。軽自動車のニーズに的確に応えているので、当然販売も相当伸びるでしょうね。
渡辺 こちらもSUV風の新型スペーシアギア、さらにスイフトスポーツの新型が飛び出すなんて情報もつかんでいます。24年のスズキは激アツですよ!
――23年、日本カー・オブ・ザ・イヤーを戴冠したのはトヨタのプリウスでした。
渡辺 従来のプリウスは、燃費の優れたハイブリッド専用車という価値が注目されました。ところが今は、トヨタの大半の売れ筋車種にハイブリッドが用意され、プリウスの存在感は薄れました。22年の登録台数は2010年の約10%です。
そこで新型はハイブリッドの付加価値に注目して、モーター駆動の優れた加速力や静かさを磨いています。天井も低くなり、居住性や乗降性よりも、低重心による優れた安定性とカッコ良さを追求しました。23年の月平均の登録台数は8000台を上まわり、メーカーの目標値の1.7倍をマークして人気車になりましたね。
渡辺 24年3月までにクラウンエステートが追加され、クラウンシリーズが完成します。エステートは車内の広いSUVで、クラウンの最多販売車種になるでしょう。ランドクルーザーはプラドの後継となる250が登場します。
――でも、ランドクルーザーは実質的に買えませんよね?
渡辺 ランドクルーザー70も復活しましたが、早々に受注を停止しました。ランドクルーザー300、アルファード&ヴェルファイアも長らく受注していません。一部の車種は、定額制カーリースのKINTOを使うと納車できますが、使用期間が満了すれば返却するので購入は不可能です。日産もフェアレディZ、GT‐R、アリアは受注を止めています。
――ほしいクルマが買えないのは残念無念です(号泣)。
渡辺 これらの車種は、ユーザーにとっては存在しないのと同じです。加えて、転売ヤーにより中古車価格が吊り上げられ、市場の混乱も招きます。車両を安定供給できることも商品力の大切な要素のひとつで、「いいクルマ」の絶対条件でもあります。24年は各メーカーにこの手の問題をぜひ改善してもらいたいですね。
――最後に24年の展望を!
渡辺 ダイハツの不正問題、新型車の受注停止など、解決すべき課題が多い1年になりそうですが......その一方でチョー魅力的な新型車も盛りだくさん登場します。お楽しみに!!
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員