渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
国内の自動車メーカーから魅力的な新型が続々登場する予定の今年! その中から注目のクルマをカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が勝手に厳選。自動車メーカーや販売店から拾った話を軸に、新型モデルをコッテリ解説する。
渡辺 今年はありとあらゆるカテゴリーから国産の新型やモデルチェンジ車が次々に登場します。その中で特に話題を呼んでいるのが、世界的に売れに売れているSUVクラス。注目のモデルがズラリ勢ぞろいです。
――具体的には?
渡辺 まず筆頭は三菱トライトンでしょうね。
――ド迫力にも程がある顔面がエグい! ボディも超ダイナマイト&グラマラス!
渡辺 トライトンはタイで生産するピックアップトラックで、2月15日に発売です。
――スペックは?
渡辺 エンジンは直列4気筒2.4Lのディーゼルに2ステージターボを組み合わせており、最大トルクは4.5Lのガソリンエンジンに匹敵します。
――鬼パワー!
渡辺 試乗すると動力性能はとても力強い。ちなみに駆動方式はフルタイム4WDで副変速機も備わり最低地上高は220㎜なので悪路走破力も非常に高いものがある。外観もご覧のようにワイルド。
――トライトンがニッポン市場に輸入される経緯は?
渡辺 実は2006年から11年にかけて、三菱は従来型トライトンを輸入していました。しかし、当時の月平均の登録台数は30~40台と鳴かず飛ばず。そういうわけで、程なくして輸入は打ち切りになってしまったのです。
――ふむふむ。
渡辺 ところが、17年にトヨタがタイからハイラックスを輸入すると人気爆発! 現在も月に1000台近くを登録しています。
――ハイラックスのヒットで潮目が変わったと。
渡辺 加えて19年にはパジェロの販売が終了し、三菱の後輪駆動をベースにした悪路向けのSUVが完全に消滅してしまった。そんな台所事情もあり、三菱はトライトンのニッポン導入を決めました。もちろん、飛ぶように売れるクルマではありませんが、ピックアップトラック好きは必見のニューモデルです。
――続いての注目は?
渡辺 3月22日に発売予定のホンダのWR-Vです。ボディサイズや車内の広さの割に価格がお手頃なのが最大の魅力ですね。
――こちらは日本製スか?
渡辺 インドで生産されているエレベイトというモデルを輸入し、ニッポンではWR-Vの名前で販売します。エンジンは1.5Lのガソリンタイプで駆動方式は2WDのみ。
――ガチライバルは?
渡辺 トヨタのライズとダイハツのロッキーです。しかし、ダイハツが型式指定の申請で不正を行なったため、現在、同社のロッキーと、トヨタにOEM(相手先ブランドによる生産)供給しているライズは出荷と新車販売を停止中です。
――つまり、今、コンパクトSUV部門で爆売れしていた王者・ライズ&ロッキーが不在なわけですね。
渡辺 WR-Vは販売を伸ばす絶好のチャンスですよ。
――まだまだ注目カーが?
渡辺 トヨタ・クラウンエステートは注目を集めています。近年のクラウンは売れ行きを落とし、21年の国内登録台数は最盛期だった1990年の約10%まで減りました。それでもクラウンは、1955年に初代モデルを発売したトヨタ伝統の主力車種ですから廃止はできません。
そこでクラウンの存続をかけて、国内向けのセダンから海外でも販売できるSUVを中心とした4タイプのクラウンシリーズを爆誕させたわけです。
――そのうちの3タイプはすでに登場しています。クラウンエステートの発売はいつ?
渡辺 エステートは3月までに発売される予定です。パワーユニットはハイブリッドとプラグインハイブリッドが用意されています。
――お値段は?
渡辺 エステートはクラウンシリーズの大本命SUVです。価格は未定ですが、売れ筋グレードはおそらく600万円以上でしょう。それでも今は高級SUVが高い人気を誇っています。エステートはそのニーズの最適解といえますね。
――トヨタにはもうひとつ、世の男性から熱い視線を受けるSUVが控えています。
渡辺 4月頃に登場するランドクルーザー250ですね。エステートと同様、Lサイズの上級SUVですが、車両の性格と機能が大きく異なる。クラウンエステートは前輪駆動をベースにした乗用車のプラットフォームを使うシティ派SUVですが、ランドクルーザー250は、後輪駆動ベースの4WDで悪路向けのSUVです。
――エンジンは?
渡辺 直列4気筒2.7Lガソリンと、2.8Lディーゼルターボです。販売店によると、発売前から問い合わせが殺到しているとのことです。
――SUV以外にも注目カーがたくさんあるそうで?
渡辺 先ほどWR-Vを紹介したホンダが、今年はニューモデルの大攻勢を仕掛けます。
――どんなクルマが出るの?
渡辺 ニッポン市場で一度販売を停止したクルマの復活が多い。その先陣を切るのがオデッセイですね。
――オデッセイ! 一世を風靡したミニバンですね。
渡辺 はい。21年に国内販売を一度終了しましたが、昨年12月に復活しました。
――廃止と復活の経緯は?
渡辺 オデッセイは20年に規模の大きな改良を実施し、21年の前半は月に約1800台が登録されました。この数字は前年の2倍です。ところが、狭山工場(埼玉県狭山市)の閉鎖という生産上の都合で、売れ始めたオデッセイを21年に廃止してしまった。実に場当たり的な対応としか言いようがありません。
――ニッポン市場に復活したオデッセイの中身は?
渡辺 中国製に切り替えて復活した今回のオデッセイは、ハイブリッドのみで価格は480万円スタートです。
――けっこうなお値段です。
渡辺 オデッセイは床が低く、乗降性と3列目を含めた居住性にも優れ、重心も下がっているため走行安定性も良好です。冗談抜きに秀逸なミニバンです。しかし、一度国内市場を見限ったので、今さら値上げして復活してもファンに歓迎されるかはわかりません。
――ほかのホンダ車は?
渡辺 アコードは国内から撤退したわけではありませんが、先代型の販売終了が昨年1月で、新型の発売は今年3月です。結果的に1年以上の空白期間ができているのが......。ちなみに受注は昨年12月から開始されており、販売店では価格を544万9400円と公表していますね。
――新型アコードは売れる?
渡辺 車内は広く後席も快適です。内装も上質ですが、先代型の価格が465万円でしたから、新型は約80万円も値上げされている。この価格アップは販売に響くかも。
――復活モデルはまだある?
渡辺 もしかすると、来年以降登場の可能性もありますが、昨年開催されたJMS(ジャパンモビリティショー2023)に出品されたプレリュードコンセプトが、ホンダ・プレリュードとして年内に登場するという噂が飛び交っています。パワーユニットや骨格は基本的にシビックと共通になりそうですね。
――ホンダのクルマらしく、実にスポーティな見た目に仕上がっていますね。
渡辺 はい。ただ、現在のホンダの国内販売の状況を見ると、軽自動車のN-BOXだけで約40%を占めている。その関係で、ブランドイメージは大きく変わっています。
――確かに今のホンダは、N-BOXの会社ってイメージが一般的には強いですね。
渡辺 ホンダがブランドイメージを再びスポーティな方向へ戻したいのなら、私はこのプレリュードの開発と販売に力を入れるべきだと思います。
――フルモデルチェンジの情報もあるそうで?
渡辺 ホンダのミニバン・フリードが今年の6~9月頃に新型になります。ボディサイズはあまり変わりませんが、最新のハイブリッドシステムを搭載し、動力性能、燃費、走行安定性や乗り心地を向上させます。
ホンダのミニバンを見ると、ステップワゴンは、ガチライバルであるトヨタのノア&ヴォクシーに販売で負けている。当然、新型フリードは先行するトヨタのシエンタに是が非でも勝ちたいはず。この販売バトルは見ものです。
それとN-BOXにSUV風のモデル、軽商用車のN-VANにEVを設定します。今年のホンダは激アツですよ。
――そのほかの注目メーカーや新型車は?
渡辺 手堅いクルマを造るスズキでしょうね。昨年末にフルチェンした販売絶好調のスペーシアに加え、今年はSUV風のスペーシアギアの新型も登場します。東京オートサロン2024に、スペーシア・パパボクキッチンとして出展されたモデルこそ、次期スペーシアギアのプロトタイプです。
――スズキが誇る世界戦略車もデビューしましたね?
渡辺 はい。コンパクトカーのスイフトは、CVT車を昨年12月13日に発売していますが、5速MT車を1月17日に追加。男心を刺激するスイフトスポーツの新型は今夏登場するという噂も。
――自動車専門誌などには、「今年国内にジムニー5ドアが登場!」という報道も。
渡辺 もちろん、今年こそジムニーシエラ5ドアを母国へ導入してほしいです。ただ、ジムニーとジムニーシエラは燃費数値が悪く、そうすると、国が定める企業別平均燃費基準で不利になる。そのため5ドアを発売しないという話も。国内導入を待ち望むファンは多いので、ぜひスズキには頑張ってほしいですね。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員