渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
国内の新車販売で9年連続トップに輝き、完全無双状態となっているのが、ホンダの軽スーパーハイトワゴン「N‐BOX」。そんな〝絶対的強者〟が昨年10月にフルチェン、3代目となる新型が爆誕した。しかし、一部ディーラーではまだ2代目が新車で買えるという。なぜそんなことに? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
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――国内の新車販売総合トップは、23年もホンダの軽N‐BOXだったそうで?
渡辺 はい。N‐BOXは、昨年末にホンダ史上最速で累計250万台を突破し、新車販売の軽自動車部門で9年間連続トップに輝きました。一方、国内販売総合部門でも17年以降は、21年を除くと1位を譲らない。
――絶対的強者!
渡辺 つけ加えると、23年は月平均1万9300台が届け出され、国内で売られたホンダ車の実に39%を占めました。
――国内のホンダ車の3分の1以上がN‐BOXじゃないスか!
渡辺 ただし、23年のホンダ全体の国内販売順位は4位です。
――これだけN‐BOXが売れているのに?
渡辺 N‐BOXの爆売れは、フィットなどホンダのコンパクトカーの需要を奪った数字でもあるんですよ。
渡辺 何が言いたいかというと、ホンダの国内販売はN‐BOXへの依存度が非常に高い。当然、N‐BOXの売れ行きは落とせない。そこで、23年10月に新型へ切り替わるときも、先代型の在庫を販売店は大量に抱えました。その理由は新型の納期が延びても、在庫で販売を保つためです。問題なのは先代型の在庫が膨大なこと。
――具体的には?
渡辺 新型の登場から3ヵ月を経過した23年1月中旬時点でも、販売会社によっては先代型の在庫が残っています。販売店によると、「先代N‐BOXなら、カーナビの装着などを含め20万円は値引きします。新旧モデルのインパネを見比べて、先代型の方が上質だと判断され、先代型を好条件で買うお客さまもおられます」とのこと。
――新型と旧型が併売されていると。
渡辺 複数の販売店から「先代型の在庫は急速に減っている」という返答もありましたが......私も長いことクルマ業界の末席を汚させていただいていますけどね、新旧モデルを比べて買えるという新車は稀有(笑)。
――とはいえ、先代の在庫は順調に減ってんスよね?
渡辺 はい。ただ、先代型の在庫が減った代わりに、今度は新型N‐BOXの在庫が増えている。
――どういうこと?
渡辺 N‐BOXはホンダの基幹車種で、薄利多売の軽自動車ですから、生産ペースを落とせません。今は新型を大量生産していますが、実際の売れ行きが追い付かないと、生産が過剰になって在庫が増えてしまう。新型N‐BOXもその状態に陥りつつある。複数の販売店から、「恥ずかしながら新型N‐BOXの在庫は豊富」という話も耳にしています。
――単純に考えて販売店は在庫を多く抱えると困るのでは?
渡辺 クルマはほかの商品に比べてサイズが大きく、保管コストも高額なので早急に売却したい。そこで販売店では、「在庫車ならメーカーへ新規で発注するよりも値引きを増やせます」と言います。
――それでも在庫がさばけないときは?
渡辺 販売会社が届けを出して、実質的に未使用の届け出済み中古車として中古車販売店に並べます。昔は「新古車」と呼ばれましたが、この表現は消費者の誤解を招く恐れがあるため、自動車公正取引協議会が使用を禁止しています。
――要するに新型N‐BOXも届け出済み未使用中古車が多いと?
渡辺 発売から3ヵ月だからまだ大量ではありませんが、すでに増え始めています。カスタムよりも標準ボディが多いですね。
――届け出済み未使用中古車はお買い得なんスか?
渡辺 値引き額に相当する数万円は安くなる場合もありますが注意も必要です。業者によっては届け出済み未使用中古車の価格を安く抑えながら、点検整備費用などの名目で、高額の法定外諸費用を請求する場合があるからです。
――価格を安く見せて、諸費用で儲ける戦略ですね。
渡辺 また新車で買えば24年式ですが、届け出済み未使用中古車には23年式が多い。数年後に売却する際は、年式が基準になるため、23年式の届け出済み未使用中古車を24年に買うと損です。いずれにせよ、N‐BOXは大量に売られてきた車種ですから、ほかのクルマに比べて裏側のアレコレも多いのです。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員