藤島知子ふじしま・ともこ
モータージャーナリスト。レーシングドライバー(国際C級ライセンスを所持)。テレビ神奈川『クルマでいこう!』のパーソナリティ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
マツダがサプライズ的に新たなロータリーエンジンの本格的な開発を宣言し、大きな話題を呼んでいる。さらに昨年発表したコンセプトカーの市販化も!? どんなエンジンになりそう? 死角は一切ない? モータージャーナリストの藤島知子氏が解説する。
藤島 マツダの"至宝"である「ロータリーエンジン」に関する大きな発表が東京オートサロンでありました!
――東京オートサロンは、今年1月に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された世界最大級の改造車の祭典です。一方で新年恒例のクルマ業界の大イベントなんスよね?
藤島 はい。378社が893台を展示し、3日間で23万人以上の観客が押し寄せましたが、その初日(1月12日)、マツダの代表取締役兼CEOの毛籠勝弘(もろ・まさひろ)社長が報道陣に向け、今後の方針などの説明を行なう中で、「2月1日にロータリーエンジンの開発グループを立ち上げます」と高らかに宣言!
日本はもちろんのこと、世界的にも大きな話題となりました。
――ファン爆上がりのウルトラサプライズでした。ちなみに現在のマツダにはロータリーエンジンの開発組織はなかったの?
藤島 同社でロータリーエンジンの開発組織が再結成されるのは約6年ぶりとなります。
――なぜこのタイミングでマツダは、伝家の宝刀ともいえるロータリーエンジンの再起動をブチ上げた?
藤島 毛籠社長は、「(昨秋に開催された)JMS(ジャパンモビリティショー2023=旧東京モーターショー)でお披露目したコンパクトスポーツカーコンセプト『マツダアイコニックSP』に多くの賛同や激励をいただいた。大変うれしくとても感激している」と語っていました。
――JMSでロータリーエンジンのコンセプトカーとして発表されたアイコニックSPの反響がハンパなかったと。
藤島 マツダ関係者は、「デザイン、そしてロータリーエンジンに関して、ファンの皆さまからすさまじい反響がありました」とうれしい悲鳴を上げていましたね。
――アイコニックSPってどんなクルマ?
藤島 サクッと説明すると、ロータリーエンジンを発電用としたプラグインハイブリッド車です。燃料は水素や「イーフュエル」などのカーボンニュートラル燃料を使用します。
実はロータリーというエンジンは、あらゆる燃料に対応できる拡張性を備えています。また、スポーツカーですが、バッテリー搭載車なので、レジャーや災害時の電力供給も可能です。
――スポーツカーとしてのポテンシャルは?
藤島 毛籠社長は、「ポルシェ911に相当するパフォーマンスを秘めている」と胸を張っていましたね。
――要するにファンの熱い声を受けて、アイコニックSPの市販化という夢の実現に向けたファーストステップが、今回、毛籠社長がブチカマした、ロータリーエンジン開発組織の復活なわけスね!
藤島 つけ加えると、JMSの会見で、毛籠社長は、「今後の決意を象徴するモデル」とアイコニックSPを説明していましたので、まさに有言実行という印象です。
藤島 ただ、今回の毛籠社長の宣言には疑問も残ります。
――それはどこらへんに感じたもの?
藤島 アイコニックSPは、2ローターのロータリーEVシステムを搭載する試作車ですが、マツダには昨年11月に発売された1ローターのMX-30ロータリーEVというクルマがある。現在のマツダの技術力であれば、わざわざロータリーエンジンの開発組織を立ち上げなくとも市販化できてしまう。
――越えるべき技術の壁はそれほど高くないと。それならなんのためにマツダは約6年ぶりに開発組織を立ち上げたんでしょうか?
藤島 毛籠社長は、「ロータリーエンジンの開発には30人くらいの陣容で再スタートを切ることを考えている」と述べています。
さらにカーボンニュートラル時代に向けた課題をブレークスルーするべく、スカイアクティブエンジンやスカイアクティブXなどの開発で鍛錬を積んだエンジニアを結集するとも言っている。
――それらを踏まえた上で、今後の展開を大予想すると?
藤島 モーターと組み合わせたロータリーエンジンによる駆動を念頭に置いたものなら、開発組織の立ち上げも理解できますよね。
――なるほど!
藤島 実はマツダの販売店にはMX-30ロータリーEVの試乗を希望するファンが殺到していると耳にしています。
――マツダファンにとってロータリーエンジンという存在は特別なんスね。
藤島 ただ一方で、熱い魂を持つマツダファンは、発電機という黒子に徹したロータリーではなく、アクセル操作で味わえるロータリーの味を求めているのも事実です。
――そもそもですが、ロータリーエンジンの歴史って?
藤島 ロータリーエンジンは、1967年に発売したマツダ(当時は東洋工業)のコスモスポーツに初めて搭載されました。世界中の自動車メーカーが挑戦しましたが、ロータリーエンジンを量産化できたのはマツダだけです。これによりマツダの高い技術力を天下に知らしめました。
――ロータリーエンジンってどんな構造なんスか?
藤島 ザックリ言うと、三角形のローターが回転することにより吸気、圧縮、燃焼、排気の工程を繰り返して動力を生みます。一般的なエンジンで説明すると、上下に動くピストンの部分、アレが三角形のローターになったとイメージしてください。
――ロータリーエンジンって何がスゴい?
藤島 軽量コンパクトに設計できるので、エンジンの搭載位置を低くできます。そのため、アイコニックSPのような重心の低いカッコいいクルマをデザインできる。しかも、高回転までよく回り、小さな排気量で高出力を発揮できる。
――無敵のエンジン?
藤島 私は1991年に誕生した3代目RX-7の最終型(FD3S型)に乗っていました。グレードはタイプRです。
――ギンギンモデル!
藤島 当時、私は免許を取得してわずか半年でしたが、地を這うように低く、抑揚(よくよう)のあるプロポーションにひと目ぼれ。しかも、「これが最後のロータリーターボ」という噂もあり、どうしてもマニュアルトランスミッションで乗りたかった。
――男前にも程がある動機! ちなみに購入時のお値段はいかほど?
藤島 購入価格は全部コミコミで約400万円。頭金が110万円で、残りは全額ローン。
――何㎞ぐらい走った?
藤島 9万5000㎞です。ただ、燃費性能は悪くて4㎞/L程度(苦笑)。しかも、エンジンオイルもすぐに減るため、1000㎞走ったらオイルを1Lつぎ足す感じで走っていました。
――つまり、ロータリーエンジン完全復活には燃費などの課題もあるわけですね。
――燃費面などを考えると、やはりロータリーエンジンの未来は発電用の一択では?
藤島 繰り返しになりますが、ロータリーエンジンはマツダが世界に誇る技術です。残念ながら燃費の悪さなどから2012年に生産を終え、開発部門は18年に解散しました。しかし、ロータリーエンジンの軽量コンパクト&高出力という特性は、電動化とのマッチングに適している。
――だから発電用なのでは?
藤島 1991年、マツダは、世界三大レースのひとつである「ル・マン24時間レース」に最高出力700馬力の4ローター搭載車で出場し、日本車メーカーとして初優勝しました。実はその年に、世界初の水素ロータリーエンジン第1号車HR-Xを開発して、第29回東京モーターショーに出展しているんですよ。
――マジか! マツダは30年以上前に水素ロータリーエンジンを開発していたと。
藤島 はい。マツダはさらなる性能向上を目指して研究や開発を続け、2006年には水素ロータリーエンジン車「マツダRX-8ハイドロジェンRE」を限定リース販売しました。ちなみにこのクルマは、水素とガソリンのどちらでも走行できるという優れもの。
――スゴッ!
藤島 何が言いたいかというと、マツダにはロータリーエンジンの環境性能を磨き続けてきた知見があるわけです。アイコニックSPにそれを注入しないのはもったいない。
――確かに!
藤島 さらに市販車をベースとしたレーシングカーがバトルを繰り広げるアジア最高峰のツーリングカーレース「スーパー耐久」に2022年からマツダはフル参戦。昨年7月からは、カーボンニュートラル燃料を使用するマツダロードスターも参戦。この知見だって使えますよね。
――脱炭素時代に対応したチョー激アツのロータリーエンジンが誕生する未来もあると。
藤島 ちなみに毛籠社長は、東京オートサロンで、「マツダの得意な"飽くなき挑戦"のスピリットで立ち向かっていこう、社内に奮起してもらおうと思い、今日こういう発表につなげました」と自身の宣言を結んでいました。
――最後に総括を!
藤島 マツダに「ロータリーエンジン」と聞いてしびれない社員はいません。このときをずっと待っていたと思います。今後のマツダ、新ロータリーエンジン、そしてアイコニックSPに注目ですよ!
モータージャーナリスト。レーシングドライバー(国際C級ライセンスを所持)。テレビ神奈川『クルマでいこう!』のパーソナリティ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。