MX-30ロータリーEVのパワーユニットとなる1ローターエンジン「8C型」。発電機として昨秋に大復活 MX-30ロータリーEVのパワーユニットとなる1ローターエンジン「8C型」。発電機として昨秋に大復活

マツダがサプライズ的に新たなロータリーエンジンの本格的な開発を宣言し、大きな話題を呼んでいる。さらに昨年発表したコンセプトカーの市販化も!? どんなエンジンになりそう? 死角は一切ない? モータージャーナリストの藤島知子氏が解説する。

■大反響を巻き起こしたアイコニックSP

藤島 マツダの"至宝"である「ロータリーエンジン」に関する大きな発表が東京オートサロンでありました!

――東京オートサロンは、今年1月に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催された世界最大級の改造車の祭典です。一方で新年恒例のクルマ業界の大イベントなんスよね?

藤島 はい。378社が893台を展示し、3日間で23万人以上の観客が押し寄せましたが、その初日(1月12日)、マツダの代表取締役兼CEOの毛籠勝弘(もろ・まさひろ)社長が報道陣に向け、今後の方針などの説明を行なう中で、「2月1日にロータリーエンジンの開発グループを立ち上げます」と高らかに宣言!

日本はもちろんのこと、世界的にも大きな話題となりました。

東京オートサロンで、事実上、新たなロータリーエンジンの開発を宣言した毛籠社長。SNSにはファンらの歓喜の声が飛び交った 東京オートサロンで、事実上、新たなロータリーエンジンの開発を宣言した毛籠社長。SNSにはファンらの歓喜の声が飛び交った

――ファン爆上がりのウルトラサプライズでした。ちなみに現在のマツダにはロータリーエンジンの開発組織はなかったの?

藤島 同社でロータリーエンジンの開発組織が再結成されるのは約6年ぶりとなります。

――なぜこのタイミングでマツダは、伝家の宝刀ともいえるロータリーエンジンの再起動をブチ上げた?

藤島 毛籠社長は、「(昨秋に開催された)JMS(ジャパンモビリティショー2023=旧東京モーターショー)でお披露目したコンパクトスポーツカーコンセプト『マツダアイコニックSP』に多くの賛同や激励をいただいた。大変うれしくとても感激している」と語っていました。

――JMSでロータリーエンジンのコンセプトカーとして発表されたアイコニックSPの反響がハンパなかったと。

藤島 マツダ関係者は、「デザイン、そしてロータリーエンジンに関して、ファンの皆さまからすさまじい反響がありました」とうれしい悲鳴を上げていましたね。

――アイコニックSPってどんなクルマ?

藤島 サクッと説明すると、ロータリーエンジンを発電用としたプラグインハイブリッド車です。燃料は水素や「イーフュエル」などのカーボンニュートラル燃料を使用します。

実はロータリーというエンジンは、あらゆる燃料に対応できる拡張性を備えています。また、スポーツカーですが、バッテリー搭載車なので、レジャーや災害時の電力供給も可能です。

マツダ「アイコニックSP」全長×全幅×全高(㎜):4180×1850×1150 ホイールベース(㎜):2590 最高出力(PS):370 車両重量(㎏):1450/昨秋開催されたJMSでぶっちぎりの注目を集めたのがマツダのアイコニックSP。マツダの販売店には気の早い顧客からの問い合わせもあったそうな マツダ「アイコニックSP」全長×全幅×全高(㎜):4180×1850×1150 ホイールベース(㎜):2590 最高出力(PS):370 車両重量(㎏):1450/昨秋開催されたJMSでぶっちぎりの注目を集めたのがマツダのアイコニックSP。マツダの販売店には気の早い顧客からの問い合わせもあったそうな

試作車ながら、いつ市販化されても不思議ではない見た目で登場し、「RX-7が復活!?」と話題に 試作車ながら、いつ市販化されても不思議ではない見た目で登場し、「RX-7が復活!?」と話題に

――スポーツカーとしてのポテンシャルは?

藤島 毛籠社長は、「ポルシェ911に相当するパフォーマンスを秘めている」と胸を張っていましたね。

――要するにファンの熱い声を受けて、アイコニックSPの市販化という夢の実現に向けたファーストステップが、今回、毛籠社長がブチカマした、ロータリーエンジン開発組織の復活なわけスね!

藤島 つけ加えると、JMSの会見で、毛籠社長は、「今後の決意を象徴するモデル」とアイコニックSPを説明していましたので、まさに有言実行という印象です。

■開発グループ立ち上げ後の展開を予想

藤島 ただ、今回の毛籠社長の宣言には疑問も残ります。

――それはどこらへんに感じたもの?

藤島 アイコニックSPは、2ローターのロータリーEVシステムを搭載する試作車ですが、マツダには昨年11月に発売された1ローターのMX-30ロータリーEVというクルマがある。現在のマツダの技術力であれば、わざわざロータリーエンジンの開発組織を立ち上げなくとも市販化できてしまう。

マツダ「MX‐30 ロータリーEV」価格:423万5000~491万7000円/昨年11月に発売開始。ちなみに市販車に発電機とはいえ「ロータリーエンジン」がブチ込まれたのは、2012年に生産が終了したRX-8以来となる マツダ「MX‐30 ロータリーEV」価格:423万5000~491万7000円/昨年11月に発売開始。ちなみに市販車に発電機とはいえ「ロータリーエンジン」がブチ込まれたのは、2012年に生産が終了したRX-8以来となる

エンジンルームの右手に発電機として活用される8C型のロータリーエンジンの姿が エンジンルームの右手に発電機として活用される8C型のロータリーエンジンの姿が

――越えるべき技術の壁はそれほど高くないと。それならなんのためにマツダは約6年ぶりに開発組織を立ち上げたんでしょうか?

藤島 毛籠社長は、「ロータリーエンジンの開発には30人くらいの陣容で再スタートを切ることを考えている」と述べています。

さらにカーボンニュートラル時代に向けた課題をブレークスルーするべく、スカイアクティブエンジンやスカイアクティブXなどの開発で鍛錬を積んだエンジニアを結集するとも言っている。

――それらを踏まえた上で、今後の展開を大予想すると?

藤島 モーターと組み合わせたロータリーエンジンによる駆動を念頭に置いたものなら、開発組織の立ち上げも理解できますよね。

――なるほど!

藤島 実はマツダの販売店にはMX-30ロータリーEVの試乗を希望するファンが殺到していると耳にしています。

――マツダファンにとってロータリーエンジンという存在は特別なんスね。

藤島 ただ一方で、熱い魂を持つマツダファンは、発電機という黒子に徹したロータリーではなく、アクセル操作で味わえるロータリーの味を求めているのも事実です。

■元オーナーが語る!ロータリーエンジンの弱点

――そもそもですが、ロータリーエンジンの歴史って?

藤島 ロータリーエンジンは、1967年に発売したマツダ(当時は東洋工業)のコスモスポーツに初めて搭載されました。世界中の自動車メーカーが挑戦しましたが、ロータリーエンジンを量産化できたのはマツダだけです。これによりマツダの高い技術力を天下に知らしめました。

――ロータリーエンジンってどんな構造なんスか?

藤島 ザックリ言うと、三角形のローターが回転することにより吸気、圧縮、燃焼、排気の工程を繰り返して動力を生みます。一般的なエンジンで説明すると、上下に動くピストンの部分、アレが三角形のローターになったとイメージしてください。

MX-30ロータリーEVに搭載されている8C型ロータリーエンジン。そのキモとなるのがこのローター。両手に収まるコンパクトさに驚く MX-30ロータリーEVに搭載されている8C型ロータリーエンジン。そのキモとなるのがこのローター。両手に収まるコンパクトさに驚く

――ロータリーエンジンって何がスゴい?

藤島 軽量コンパクトに設計できるので、エンジンの搭載位置を低くできます。そのため、アイコニックSPのような重心の低いカッコいいクルマをデザインできる。しかも、高回転までよく回り、小さな排気量で高出力を発揮できる。

――無敵のエンジン?

藤島 私は1991年に誕生した3代目RX-7の最終型(FD3S型)に乗っていました。グレードはタイプRです。

中古市場では1000万円なんて個体もある3代目RX-7(FD3S型)。藤島氏いわく「購入時は20代半ば。マフラーなども交換しました」とのこと 中古市場では1000万円なんて個体もある3代目RX-7(FD3S型)。藤島氏いわく「購入時は20代半ば。マフラーなども交換しました」とのこと

――ギンギンモデル!

藤島 当時、私は免許を取得してわずか半年でしたが、地を這うように低く、抑揚(よくよう)のあるプロポーションにひと目ぼれ。しかも、「これが最後のロータリーターボ」という噂もあり、どうしてもマニュアルトランスミッションで乗りたかった。

――男前にも程がある動機! ちなみに購入時のお値段はいかほど?

藤島 購入価格は全部コミコミで約400万円。頭金が110万円で、残りは全額ローン。

――何㎞ぐらい走った?

藤島 9万5000㎞です。ただ、燃費性能は悪くて4㎞/L程度(苦笑)。しかも、エンジンオイルもすぐに減るため、1000㎞走ったらオイルを1Lつぎ足す感じで走っていました。

――つまり、ロータリーエンジン完全復活には燃費などの課題もあるわけですね。

■33年前に登場! 水素ロータリーエンジン

――燃費面などを考えると、やはりロータリーエンジンの未来は発電用の一択では?

藤島 繰り返しになりますが、ロータリーエンジンはマツダが世界に誇る技術です。残念ながら燃費の悪さなどから2012年に生産を終え、開発部門は18年に解散しました。しかし、ロータリーエンジンの軽量コンパクト&高出力という特性は、電動化とのマッチングに適している。

――だから発電用なのでは?

藤島 1991年、マツダは、世界三大レースのひとつである「ル・マン24時間レース」に最高出力700馬力の4ローター搭載車で出場し、日本車メーカーとして初優勝しました。実はその年に、世界初の水素ロータリーエンジン第1号車HR-Xを開発して、第29回東京モーターショーに出展しているんですよ。

水素ロータリーエンジン第1号車 マツダ「HR-X」1991年の東京モーターショーに世界初の水素ロータリーエンジンを搭載した試作車を出展。ロードスターに水素ロータリーエンジンを搭載したことも 水素ロータリーエンジン第1号車 マツダ「HR-X」1991年の東京モーターショーに世界初の水素ロータリーエンジンを搭載した試作車を出展。ロードスターに水素ロータリーエンジンを搭載したことも

――マジか! マツダは30年以上前に水素ロータリーエンジンを開発していたと。

藤島 はい。マツダはさらなる性能向上を目指して研究や開発を続け、2006年には水素ロータリーエンジン車「マツダRX-8ハイドロジェンRE」を限定リース販売しました。ちなみにこのクルマは、水素とガソリンのどちらでも走行できるという優れもの。

水素とガソリンの二刀流 マツダ「RX‐8 ハイドロジェンRE」マツダRX-8ハイドロジェンREは、ガソリンでも水素でも走行できるクルマ。ちなみに運転席のスイッチで燃料(水素とガソリン)を切り替えられる 水素とガソリンの二刀流 マツダ「RX‐8 ハイドロジェンRE」マツダRX-8ハイドロジェンREは、ガソリンでも水素でも走行できるクルマ。ちなみに運転席のスイッチで燃料(水素とガソリン)を切り替えられる

――スゴッ!

藤島 何が言いたいかというと、マツダにはロータリーエンジンの環境性能を磨き続けてきた知見があるわけです。アイコニックSPにそれを注入しないのはもったいない。

――確かに!

藤島 さらに市販車をベースとしたレーシングカーがバトルを繰り広げるアジア最高峰のツーリングカーレース「スーパー耐久」に2022年からマツダはフル参戦。昨年7月からは、カーボンニュートラル燃料を使用するマツダロードスターも参戦。この知見だって使えますよね。

マツダ「スピリットレーシング ロードスターCNFコンセプト」使用するカーボンニュートラル燃料はトヨタ、スバルと共同開発。マツダはレース活動により脱炭素、市販車や新ロータリーエンジンの開発を目指す マツダ「スピリットレーシング ロードスターCNFコンセプト」使用するカーボンニュートラル燃料はトヨタ、スバルと共同開発。マツダはレース活動により脱炭素、市販車や新ロータリーエンジンの開発を目指す

――脱炭素時代に対応したチョー激アツのロータリーエンジンが誕生する未来もあると。

藤島 ちなみに毛籠社長は、東京オートサロンで、「マツダの得意な"飽くなき挑戦"のスピリットで立ち向かっていこう、社内に奮起してもらおうと思い、今日こういう発表につなげました」と自身の宣言を結んでいました。

――最後に総括を!

藤島 マツダに「ロータリーエンジン」と聞いてしびれない社員はいません。このときをずっと待っていたと思います。今後のマツダ、新ロータリーエンジン、そしてアイコニックSPに注目ですよ!

藤島知子

藤島知子ふじしま・ともこ

モータージャーナリスト。レーシングドライバー(国際C級ライセンスを所持)。テレビ神奈川『クルマでいこう!』のパーソナリティ。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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