最初の見積書には高級タイプのフロアマットやサイドバイザーなどが記載されている。不要な場合はその旨を伝えるべし 最初の見積書には高級タイプのフロアマットやサイドバイザーなどが記載されている。不要な場合はその旨を伝えるべし

ニッポンで一番クルマが売れるのが3月の決算セール。多くの国民は賃金が上がらず、物価高騰に悶絶ヨガリ泣き。少しでも安く新車を買いたい! というわけで、長年販売店を取材し、舞台裏を知るカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が交渉術を伝授する!

■軽新車販売トップのダイハツ車は買えるのか?

――2月13日、ダイハツ工業は国の認証取得の不正問題で、経営体制の刷新を発表しました。

渡辺 ダイハツの新社長には親会社であるトヨタ自動車の井上雅宏中南米本部長の就任が決定しました。

――この記者会見は大きなニュースになっていましたね。

渡辺 トヨタグループという部分もあると思いますが、ダイハツは国内の軽自動車販売で17年連続トップのメーカー。しかも3割のシェアを誇ります。当然ですが顧客も多く、3月の決算セールで買い替えを検討していた人は少なくないかと。

――今、ダイハツの販売店でクルマは買えるの?

渡辺 販売店に尋ねると、「販売できる在庫車は減っており、売るクルマがないのが実情」とボヤいていました。

しかし直近では、コンパクトSUVのダイハツロッキー、OEM(相手先ブランドによる生産)車のトヨタライズとスバルレックスは、国土交通省による出荷停止の指示が解除されました(ガソリン車のみ)。道路運送車両法の基準に適合していることが確認されたからです。

ダイハツトール、トヨタルーミー、スバルジャスティも、2月中旬の時点では出荷停止の解除はされていませんが、今後は購入可能になるはず。ただ、ダイハツの売れ筋である軽自動車のタントやムーヴキャンバスの出荷停止は続いています。

――要はダイハツの目玉である軽は販売店に在庫車が残っていれば購入できると?

渡辺 現時点ではそうなります。気の毒なのはダイハツの販売店です。初売りセール、そして3月の決算セールというふたつの繁忙期を逃した。この影響は大きく、どこの販売店関係者も途方に暮れていました。クルマを買えないファンのためにも、ダイハツは一日も早い、軽の生産と出荷再開に尽力してほしいですね。

■オプション選びも賢い選択を!

――そもそもの話ですが、クルマの3月決算セールが注目を集めるワケは?

渡辺 自動車関連企業には3月決算の法人が多い。そのため、3月にラストスパートをかけて売れ行きを少しでも伸ばしたい思惑がある。事実、3月は一年で最もクルマが多く登録(軽自動車は届け出)されており、23年の新車販売の数字を見ると、ニッポン市場の12%を3月が占めているんですよ。

――3月にクルマが売れるのは、商談で好条件が飛び出すからですか?

渡辺 正直言うと、バブル期のような大盤振る舞いの見積書は減っています。

――昔のような好条件が飛び出さない理由は?

渡辺 以前に比べると、販売会社が受け取る1台当たりの利益が減ってしまった。特に販売比率の増えた軽自動車は、価格は高くなりましたが、安全装備の充実などにより製造コストが上昇している。

直近では原材料費や輸送費の高騰も影響しています。そのほか以前は自動車メーカーが販売会社に報奨金を支給し、これを原資に値引きを増やしていましたが、近年では報奨金の額が減っていると耳にしています。

――つまり、今、商談してもあまりいい条件は出ない?

渡辺 そんなことはありません! 昔のようにライバル車と値引き競争をさせて、条件を引き上げる単純な方法は通用しにくいという話です。

――では、3月決算でお得な条件を引き出すテクを教えてください!

渡辺 まずライバル車の名前を出すだけでは百戦錬磨のセールス担当には、すぐウソだと見抜かれます。私は本当に欲しいクルマと競わせるべきだと考えています。

――どういうこと?

渡辺 クルマを選ぶとき、同じSUVのカローラクロスとヴェゼルで迷うことは意外と少ない。それよりも、「SUVならカローラクロスだけどコンパクトカーのノートオーラもカッコいいよなぁ!」というように、価格は近いものの、別カテゴリーのクルマに目移りして悩むことが多々ある。

――商談では、そういう自分の素直な気持ちを伝えたほうがいいわけですか?

渡辺 こちらの購入する熱意がセールス担当に伝われば、商談モードに火がつきます。

――冷やかしの客だと思われないことが重要だと。

渡辺 3月の決算はセールス担当が複数の商談を抱えている可能性が高い。そのため、冷やかしの客かどうかの判断や見切りがいつもより早い。欲しいクルマを繁忙期に好条件で手に入れたいなら、まず購入意欲をセールス担当に示したほうがいいですね。

――ほかには?

渡辺 値引きの商談をする場合は必ず車両本体、ディーラーオプション、下取り車というふうに、個別に値引き額を算出させること。これを値引きの可視化と言います。

――ほお!

渡辺 そうすることで、例えば「車両値引きは10万円で限界」と言われたら、下取り車の売却額をもう少し増やせないかという交渉が可能になる。見積書にどんぶり勘定の値引き額しかない場合は、交渉の余地さえ生まれません。

――カーナビなどは、メーカーオプションとディーラーオプションがありますね?

渡辺 ディーラーオプションは販売店の受け取る利益が多い。そのため値引きできる金額が大きく、オプションのサービス装着もしやすい。逆に生産ラインで装着するメーカーオプションは、販売店の儲けが少ないため値引きも少額になる。

――オプションは賢く選択せよと!

渡辺 同じナビでもメーカーオプションとディーラーオプションでは金額がかなり違うので、商談前にスマホなどを使って価格差を把握すべし!

■下取り車は切り札になる?

――続いては、下取り車の賢い売却法です。

渡辺 3月の決算セール時に下取り車がある場合は、"切り札"になるので、まず足を使って、愛車の相場を知ること。その上で商談に臨む。

――買い取り店はどこでもいいんスか?

渡辺 まずスマホなどで情報収集し、買い取り業者を見極めること。中には売却後に、難癖をつけて減額する極悪業者も。そこに売ったら大損です。

――買い取り店選び重要!

渡辺 ちなみに愛車をドレスアップしていたり、チューニングを施している場合は、その価値がわかる専門の買い取り店に持ち込んだほうが、査定額が販売店よりもアップする可能性が高いです。

――ぶっちゃけ、買い取り店に売却するほうがお得なんスか?

渡辺 一時は買い取り店が注目されていましたが、近年では新車の販売会社も中古車ビジネスに本腰を入れており、買い取り台数を増やすため、適正な査定額を提示するようになっています。また、決算セールでは新車の販売店が特別価格で買い取る場合もあります。

「買い取り店はピンキリの世界。売却は慎重に!」と渡辺氏。写真は不正が噴出した中古車販売大手のビッグモーターの店舗 「買い取り店はピンキリの世界。売却は慎重に!」と渡辺氏。写真は不正が噴出した中古車販売大手のビッグモーターの店舗

――クルマは個体差があるので、お得の道を極めるなら、汗をかいて下取り価格を徹底的に調べるべきであると。

渡辺 さらにお得を突き詰めるなら、買い取り店の金額が僅差で販売店を上回ったときは、売却を焦らずいったん立ち止まって熟考しましょう。

――それはなぜ?

渡辺 例えば商談が進んで車両本体からの値引きが上限に達し、それでもまだ予算に見合わないときは、下取り車の買い取り額を上乗せし、条件をさらにアップしてくる場合も。特に数を売りたい決算セール、しかも契約直前の土壇場なら、その可能性は大いにある。

実際、販売店を取材していると、「下取り車があると、お客さまの要望に応じやすい」という話をよく耳にします。

――愛車を売るときに、キズなどは修理すべき?

渡辺 お金を出してキズなどを修理するのは損です。修理費用を補えるほど査定額は高くなりません(笑)。

ただし、商談前に洗車やワックスがけ、車内の清掃は入念に行なうべきですね。愛車の売却時は、自分は売る側で、販売店は買っていただくお客さまだからです。自分が売る商品を魅力的に見せるように努力するのは当然ですよね。

――確かに。

渡辺 それが証拠に今回取材したセールスマンも、「手入れをしてあるクルマは、古くても好感を持ちます。逆に汚れた状態で査定に出されると、『日頃の整備も手抜きをしていたのではないか?』と疑います。

専門のスタッフが査定をしても、すべてを見抜けるワケではなく、お客さまのクルマに対する愛情は判断材料のひとつになりますね」と語っていました。

――洗車重要!

渡辺 商談時に注意してほしいのは、好条件を追うあまり高圧的になる人がいること。商談はあくまで楽しくしたたかに進めてください。セール担当も人間です。賢く立ち回れば、黙っていても希望ナンバーやメンテナンス無料の話が出るかも!?

■値引きが拡大する3月決算の在庫車

渡辺 ここまで話をしてきてアレですが、決算期の好条件は3月末日までに登録(軽自動車は届け出)をする必要があります。

――ということは、今から商談をスタートしても、3月登録に間に合わないのでは?

渡辺 そうとは限りません。特に大人気の軽自動車やコンパクトカーは、決算フェア用の在庫車をたっぷり用意している。販売店の幹部も、「在庫車はなんとしてでも3月中に売り切りたいので、本音を言うと、メーカーに新規発注する車両よりも値引き額を増やせます」と言っていました。

――では、3月決算に間に合う狙い目のクルマはどれ?

渡辺 セダンはどれも納期が長いので却下しました。まず軽自動車はホンダのN-BOXです。設計も新しく満足度が高い。売却時の価格もいい。続いてコンパクトカーは日産ノート。在庫車も豊富。そしてミニバンは日産セレナで決まり。こちらも納期が短くて購入しやすい。

ホンダ「N‐BOX」価格:164万8900~188万1000円、値引き目標:4万円、リセール:A。昨年10月に3代目が爆誕したホンダの軽スーパーハイトワゴンN-BOX。昨年末にはホンダ史上最速となる累計250万台を突破して話題に ホンダ「N‐BOX」価格:164万8900~188万1000円、値引き目標:4万円、リセール:A。昨年10月に3代目が爆誕したホンダの軽スーパーハイトワゴンN-BOX。昨年末にはホンダ史上最速となる累計250万台を突破して話題に

日産「ノート」価格:229万9000~269万600円、値引き目標:15万円、リセール:B。昨年12月にマイチェンを受け、今年1月26日より発売。今回の改良ではフロントデザインを大胆に一新。機能や使い勝手を磨いた 日産「ノート」価格:229万9000~269万600円、値引き目標:15万円、リセール:B。昨年12月にマイチェンを受け、今年1月26日より発売。今回の改良ではフロントデザインを大胆に一新。機能や使い勝手を磨いた

日産「セレナ」価格:276万8700~479万8200円、値引き目標:20万円、リセール:A。2022年11月にフルチェンを受け、6代目となったセレナ。日産自慢の先進装備もテンコ盛り。伝家の宝刀e-POWER搭載車も用意 日産「セレナ」価格:276万8700~479万8200円、値引き目標:20万円、リセール:A。2022年11月にフルチェンを受け、6代目となったセレナ。日産自慢の先進装備もテンコ盛り。伝家の宝刀e-POWER搭載車も用意

――人気のSUVは?

渡辺 全般的に納期が長いですが、CX-5は人気車なのに販売店からは「納期は1ヵ月程度」との声が! 前後席や荷室が広く、2.2Lのクリーンディーゼルターボは、実用回転域の駆動力に余裕があります。軽油なので燃料代も安い!

マツダ「CX‐5」価格:290万9500~422万5100円、値引き目標:18万円、リセール:B。現行モデルは2代目。デビューから8年目に突入しているが、その人気はギンギンで、ニッポン市場では全マツダ車の中で販売トップ マツダ「CX‐5」価格:290万9500~422万5100円、値引き目標:18万円、リセール:B。現行モデルは2代目。デビューから8年目に突入しているが、その人気はギンギンで、ニッポン市場では全マツダ車の中で販売トップ

――スポーツカーは?

渡辺 フェアレディZのように受注を停止している車種があり、納期も全般的に長い。その中でロードスターは比較的購入しやすいです。

マツダ「ロードスター」価格:289万8500~430万8700円、値引き目標:11万円、リセール:B。現行モデルとなる4代目ロードスターのデビューは2015年。8年目にフルチェン級の改良を受けて1月下旬から発売。受注も好調 マツダ「ロードスター」価格:289万8500~430万8700円、値引き目標:11万円、リセール:B。現行モデルとなる4代目ロードスターのデビューは2015年。8年目にフルチェン級の改良を受けて1月下旬から発売。受注も好調

――3月決算に間に合うトヨタ車はないの?

渡辺 残念ながらトヨタは一部の車種を除くと軒並み納期が長いんです。一方、日産やマツダ、売れ筋の軽自動車は納期が短い。とはいえ、販売店によって在庫状況は異なります。欲しいクルマがあれば、今すぐ販売店に!