ポルシェが仕上げたEVに乗った。スタートボタンを押すと、メカメカしいにも程がある近未来的なメーター類が静かに動き出す。いざ走り出すと、すぐにポルシェのスポーツカーだと感じられた。4ドアのEVなのになぜ?
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■EVでも味わえる〝ポルシェ感〟
2019年11月、ポルシェ初の市販EVとして鳴り物入りでニッポンに登場したタイカン。今、このクルマが大きな注目を浴びている。
ご存じの方も多いと思うが、そのキッカケとなったのはドジャースの大谷翔平選手。実は背番号「17」を譲ってくれた同僚のジョー・ケリー投手の妻にタイカンをプレゼントしたからである。
こうしてポルシェ・タイカンは一躍、時のクルマとなった。ちなみに大谷選手はポルシェジャパンとアンバサダー契約を結んでおり、キャンプなどの移動にはポルシェを使用している。
では、タイカンとはどんなクルマか? 実は現在、ポルシェの代名詞ともいえる911に匹敵する年間販売台数を叩き出すクルマに成長! その人気はまさにうなぎ上り。昨年は高価格帯のクルマにもかかわらず、世界で4万629台を販売し、ニッポンでも過去最高の年間新規登録台数を達成!
今回試乗したのは2021年11月にニッポン市場に導入されたタイカンGTS。タイカンシリーズの中間に位置するグレードである。
実車を目の当たりにして、思わずため息が漏れた。ポルシェらしい真っ赤なボディが美しすぎたからだ。この色はカーマインレッドと呼ばれるオプション設定色で、お値段は39万6000円!
余談だが、今回試乗したモデルの価格はオプション鬼盛りだったので、2317万2000円! 小市民の記者は価格を知り、冗談抜きにガクブル失禁しそうになった。
スペックもハンパない。何しろ最高出力は通常の走行モードで517馬力。時速100キロ到達は3.7秒という快速ぶり。しかも、1回の充電で最大504㎞(WLTCモード)を走る。
試乗してみて驚いたのは4ドアのEVなのに、ポルシェのスポーツカーだと実感できたこと。だが、取材に同行したカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏はこう言う。
「全高が低く、なおかつ低位置に駆動用電池を搭載しているので、走行安定性は相当に優れています。ステアリングはダイレクト感が強く、素早い操作をすると、車両が驚くほど機敏に進行方向を変えます。
EVの特性に合わせたチューニングもポルシェが綿密に行なっており、その結果、エンジンを搭載する従来のポルシェとは次元の異なるクルマに仕上がっていますね」
そうなると、運転感覚は従来のポルシェと違うことになる。記者がタイカンからポルシェの味を感じたのは素人の思い込みなのか?
「いやいや、そんなことはない(笑)。EVとガソリンモデルには意外と共通点が多く、ブランドのこだわりは私も感じました。まず先に述べたダイレクトな操舵感覚です。加えて後輪の接地性の高さですね。峠道の走行中に危険を避けるときでも、後輪がピタリと安定している」
タイカンがポルシェブランドのクルマだと感じる部分はほかにもある。
「モーターは静かですが、高回転域になるほど加速が鋭さを増していく感覚は、EVである以前にポルシェだと実感させてくれますよね」
つまり、タイカンにはポルシェ伝統の味が染み込んでいるわけだ。それはなぜか?
「例えば、日産だと、必ずしも軽EVのサクラとスーパースポーツのGT-Rに共通性を持たせる必要はない。むしろ、パワーユニットや車種の性格により運転感覚が違っていい。それはサクラなら価格や電費面のほうが重要視されるからです」
一方、高級ブランドであるポルシェのユーザーは違う。
「ポルシェのような高級ブランドでは、統一の取れた味わいは必須条件となる。なぜなら、ファンはポルシェブランドに共通する運転感覚に対して対価を払うからです」
そのポルシェの姿勢は、4ドアのEV・タイカンでも変わらない。
「デビュー4年ちょっとで、約15万台を販売しています。その高い人気が証拠ですよね」
2月7日、ポルシェジャパンは改良を施したタイカンの予約受注を開始した。価格は1370万~2746万円。ボディや装備、そして性能と、ありとあらゆる部分にガッツリ手を入れたという。新型タイカンにもぜひ乗ってみたいぞ!