昨年、過去最高収益を更新するなど、絶好調のスズキ。そんな同社を率いるのが鈴木俊宏社長。今後の戦略などを聞いてみたいぞ 昨年、過去最高収益を更新するなど、絶好調のスズキ。そんな同社を率いるのが鈴木俊宏社長。今後の戦略などを聞いてみたいぞ

17年連続で軽自動車トップのシェアを誇っていたダイハツ。しかし、大規模な認証不正問題が響き、首位から転落。今後の展開はどうなるの? 戦国乱世に突入した軽自動車業界を取材した。

■3月の軽新車販売でスズキが大躍進

スズキが2023年度の軽の新車販売台数でトップに輝いた。実に18年ぶりの返り咲きである。全軽自協(全国軽自動車協会連合会)によると、23年度のスズキは55万2251台(前年比7%増)と躍進。一方、ダイハツは44万3694台(前年比21.6%減)と落ち込んだ。

明暗を分けた最大の理由は、ご存じダイハツの自滅である。06年度以降、"軽の絶対王者"として君臨してきたダイハツだったが、国の認証取得の不正に伴う生産・出荷の停止が痛恨の一撃となり王座から転げ落ちた。

ダイハツの新社長を務めるのはトヨタ自動車の中南米本部長を務めていた井上雅宏氏。これからダイハツをどう立て直すのか!? ダイハツの新社長を務めるのはトヨタ自動車の中南米本部長を務めていた井上雅宏氏。これからダイハツをどう立て直すのか!?

今回のスズキの首位奪還にメディアやSNSには、「棚からボタモチ」とか「漁夫の利」というようなワードが躍った。しかし、自動車誌幹部はこう指摘する。

「そもそも、ダイハツからスズキへ顧客が大移動したという話は耳にしていません。スズキが18年ぶりの首位に立てたのは、クルマ造りと真摯に向き合ってきたからです」

スズキといえばカリスマ経営者・鈴木修氏のイメージが強いが、15年6月、そのバトンは修氏の長男で現社長の鈴木俊宏氏に受け継がれている。

「そんな"新生スズキ"を象徴するクルマのひとつとして、ニッポン市場に満を持して投入されたのが、昨年11月、6年ぶりにフルチェンを受けた軽スーパーハイトワゴン・3代目スペーシア。この新型が大方の予想に反し、登場から怒濤の快進撃を続けています」

抜群の存在感を誇る外観と上質な室内が魅力の新型スペーシアカスタム。安全性能もアップデートされた 抜群の存在感を誇る外観と上質な室内が魅力の新型スペーシアカスタム。安全性能もアップデートされた

事実、今年2月の新車販売では1万5066台をマークし、"絶対強車"として首位を走るホンダ・N-BOXとの差を1476台まで一気に縮めた。この肉薄にメディアもSNSもザワついたが、実はこんな裏事情が。

「能登半島地震の影響でN-BOXの部品が不足。そのため減産しました」(ホンダ)

とはいえ、2月のスペーシアの販売台数は前年同月比53.9%増! スズキの販売店関係者もホクホク顔でこう話す。

「おかげさまで、"スペーシア効果"もあり、今年の初売りと、3月の決算セールは大成功でした!」

その証拠が上のランキングである。ご覧のように3月の軽新車販売ベスト10の半数をスズキ車が占めている。

「スペーシア指名でご来店くださったお客さまが、別の展示車両にひと目ぼれというパターンが、初売りや3月の決算セールのあるあるでした」(販売店関係者)

もちろん、予算や納期などを勘案した上での判断だろうが、そこに魅力的なクルマが存在しなければ目移りできないのも確かだ。

「スペーシア指名のお客さまの中には、乗り比べられた上で、『ハスラーのほうが自分の生活に合っている』とか『アルトのような取り回しの楽なクルマを探していた』と車種変更される方もいらっしゃいましたね」(販売店関係者)

■スペーシア好発進でうれしい悲鳴!?

破竹の勢いが続く3代目スペーシアにも泣きどころはある。昨秋、週プレはスペーシアの開発責任者である鈴木猛介氏を直撃している。その際、鈴木氏に月販目標台数を質問した。新型を試乗し、その出来栄えに驚いたからだ。

「標準モデルとカスタムとを合わせて1万2000台です。22年の販売実績が10万206台ですから、1万2000台なら納期でお客さまにご迷惑をおかけしません」

先代モデルに続き、新型スペーシアでも開発責任者を務めたスズキの鈴木猛介氏。軽量化に取り組んで低燃費を実現した 先代モデルに続き、新型スペーシアでも開発責任者を務めたスズキの鈴木猛介氏。軽量化に取り組んで低燃費を実現した

スズキはジムニーの納期が長期化した反省を踏まえ、スペーシアの月販台数は万全の数字を算出したという。 

ただ、爆誕ホヤホヤの3代目スペーシアを見れば見るほど、売れ線の"オラオラ感"を消し、品位を高めた3代目N-BOXと熱い販売バトルを展開する姿が浮かんだ。そんな感想を伝えると、鈴木氏は苦笑いしながらこう言った。

「スペーシアが月販2万台? いやいやいや。もちろん、頑張って開発したので、とてもうれしいお話ですが、そもそも2万台の生産は想定していません。加えて、スズキはそういう規模の自動車メーカーでもありません。1万2000台は現在のスズキの身の丈に合った月販目標台数だと考えております」

ちなみに3月のスペーシアの新車販売台数は1万7000台を突破! スズキの販売店関係者もこう予想する。

「スペーシアの販売はすこぶる好調です。この勢いは当分続くと思います」

今年1月の東京オートサロンに出展された写真のコンセプトモデルが、次期スペーシアギアと噂されている 今年1月の東京オートサロンに出展された写真のコンセプトモデルが、次期スペーシアギアと噂されている

さらにSUVタイプのスペーシアギアの新型が今夏デビューするという噂も。

「同じSUVタイプの三菱デリカミニのスマッシュヒットもあり、スペーシアギアに対するファンの注目度は高い」(前出・自動車誌幹部)

スペーシアシリーズが売れれば売れるほど、身の丈に合わない生産台数が迫ってくる。スズキのうれしい悲鳴はしばらく続きそうだ。

■顧客や販売店が指摘する新型N-BOXの弱点

昨年度の軽自動車の国内シェア3位はホンダである。販売を牽引したのは言うまでもなく、無敵の王者・N-BOXである。昨年度も他の追随を許さず、軽自動車の新車販売台数においては9年連続、総合でも3年連続トップに! 

この勢いを支えたのが、昨年10月に登場した3代目だ。発売と同時に2万台突破の爆売れを何度もマーク。今年に入ってもその強さは揺らがず、現在8ヵ月連続でニッポン市場トップ! だが、ホンダ関係者の顔は浮かない。

「爆売れといっても2代目の在庫を含んだ数字。その上、顧客や販売店からは、『新型は顔が地味すぎる』『先代よりも内装の質感が下がった』という厳しい声が届いている。本当に頭が痛い」

昨年12月に累計販売台数250万台を達成したN-BOX。この数字はホンダ史上最速。ちなみに初代は2011年に登場 昨年12月に累計販売台数250万台を達成したN-BOX。この数字はホンダ史上最速。ちなみに初代は2011年に登場

それもそのはず。国内のホンダの屋台骨を支えるのが、大黒柱に成長したN-BOX。今やホンダの国内新車シェアの約4割を占める最量販車なのだ。今後のN-BOXの売れ行きを注視したい。

さらにホンダの今後を左右するニュースが話題を呼んでいるという。前出の自動車誌幹部が説明する。

「3月15日にホンダと日産がEVなどに関する協業に向けた、戦略的パートナーシップの覚書を結んだと発表しました。ホンダの三部(みべ)敏宏社長は、日産とのEV協業のコスト削減効果についても言及しています。協業が実現すれば技術や知見を持ち寄れるわけで、その相乗効果は大きい」

EVなどの分野で協業の検討を始めるという覚書を結んだホンダの三部敏宏社長(右)と、日産の内田誠社長(左) EVなどの分野で協業の検討を始めるという覚書を結んだホンダの三部敏宏社長(右)と、日産の内田誠社長(左)

協業検討中の影響なのかは不明だが、今春発売予定だったホンダ初の軽EV・N-VANe:のデビューが今秋に延期となった。

「5月に先行予約を開始し、価格や発売日は6月に公表する予定です」(ホンダ)

写真はホンダ初の軽EV「N‐VANe:」のコンセプトモデル。今春の発売を予定していたが、今秋に延期となった 写真はホンダ初の軽EV「N‐VANe:」のコンセプトモデル。今春の発売を予定していたが、今秋に延期となった

軽EVは日産サクラの独走状態が続いている。ちなみにトヨタ、スズキ、ダイハツの3社も商用軽EVを共同開発していた。しかし、ダイハツの認証不正の影響で発売時期などは「未定」という。

仮にホンダと日産の協業が進めば、両社が軽EV市場で断トツの地位を築き、席巻する可能性を指摘する声も。100年に1度の大変革が軽自動車業界にも巻き起こるか!?

■ダイハツ復活のカギを握るクルマたち

軽の王座を奪還したスズキだが、前王者のダイハツも黙ってはいないだろう。すでに軽の主力は生産・出荷を再開し、5月7日からは国内全工場が稼働となる。ここから「反撃開始!」といきたいところだろうが、認証不正の代償はデカかった。

全軽自協によると、ダイハツの主力車種の3月の販売台数は、タントが982台(前年同月比93.6%減)、ムーヴは670台(前年同月比94.7%減)、タフトは537台(前年同月比92.7%減)と低迷。前出の自動車誌幹部は言う。

「主力車種の販売台数を今後どこまで回復できるか? 4月の新車販売ランキングに注目が集まっています」

だが、ダイハツ復活のカギを握る新型モデルも登場を控えているという。

「本来なら昨年夏にフルチェンを受けていた新型ムーヴです。このクルマはダイハツ復活の命運を担っています」(自動車誌幹部)

今年は軽自動車業界の動向から目が離せなくなりそうだ!