渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
自民党の三原じゅん子参院議員の愛車・ランクル200が盗難被害にあった。なぜトヨタの高級車であるランドクルーザーは盗難が相次ぐのか? カーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
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――自民党の参院議員で元タレントの三原じゅん子さんが、愛車を盗まれました(泣)。
渡辺 盗難された車両はトヨタランドクルーザーシリーズの最上級車種になる200です。現在販売されているランドクルーザー300の先代型になります。
――今回の盗難被害は大きなニュースになりました。
渡辺 三原じゅん子さんが参院議員で、しかも盗まれた車両がランドクルーザーだからです。日本損害保険協会の調査によると、ランドクルーザーは、21年から23年にかけて3年連続で盗難車の数で1位です。
――ワースト1だと。なぜランドクルーザーばかりがクルマ泥棒から狙われるの?
渡辺 単純な話ですが、超絶的な人気車だからです。トヨタの販売店では、「ランドクルーザーはもともと高価格車で、しかも海外市場でも人気が高い。盗難車両を輸出する組織からも狙われやすいです」と説明されました。前述のとおり21年から23年は車両盗難の1位ですが、ランドクルーザーはそれ以前からも上位でした。
――背景には何が?
渡辺 世界的にランドクルーザーの人気が過熱しているからですね。
――中古車価格も高いの?
渡辺 ランドクルーザーは中古車価格も高騰しています。ランドクルーザー200は、5年落ちになる19年式の中古車価格がZXで600~750万円です。19年式ZXの新車価格は約680万円だったので、ランドクルーザー200は先代型なのに、今でも中古車価格が新車価格を上まわっている。
――ちなみに現行型のランドクルーザー300の中古車価格は?
渡辺 3.5リッターガソリンツインターボを搭載するZXは、中古車価格が1100~1200万円です。新車価格は730万円ですから、中古車価格が500万円ほど高い。比率に換算すると新車価格の1.6倍ですね。
――えぐっ! ランドクルーザー以外で盗まれやすい車種を挙げると?
渡辺 23年のデータによると、盗難件数の1位がランドクルーザーで、2位はアルファード、3位はプリウス、4位がレクサスLX、5位がハイエースです。
――クルマ泥棒はトヨタを狙っていますね。この中で注目の車種は?
渡辺 レクサスLXです。ランドクルーザー200/300をベースに開発された上級SUVで、22年の盗難件数は156件、23年は120件でした。注目すべきはレクサスLXの登録台数で、22年は約1500台、23年は約3000台と少ないです。つまり、レクサスLXでは、国内販売台数の4~10%が盗まれてしまう。
渡辺 私などは気が小さいから、レクサスLXを買ったら心配で寝られません。
――クルマ泥棒から愛車を守るにはどうすればいい?
渡辺 車両盗難の発生を時間帯別に見ると、23年は58%が夜の22時から朝の9時に発生しました。
――夜間に集中する理由というのは?
渡辺 周囲が暗いため盗難の作業が見つかりにくく、人通りも少ないからですね。
――そうなると盗難防止の方法は?
渡辺 周囲が暗いと盗難されやすいなら、駐車場に移動物に反応するセンサーと監視カメラを装着する。自宅の駐車場のライトが点灯すると、住人も気付きやすいです。
――そのほかは?
渡辺 夜間の盗難が多い理由に、人通りが少なく、盗難の作業が発覚しにくいこともあります。つまり犯人は、盗難の発覚を恐れ、作業時間が長引くのを嫌います。
――なるほど。
渡辺 そこで有効な対策が、アナログ的な盗難防止グッズの利用です。ステアリングホイール、ペダル、タイヤなどをロックする道具です。これらのロックをたくさん装着すると、片っ端から手間をかけて解除しないと車両を盗めません。盗難の所要時間が長引き、犯人が諦める可能性が高まります。
――ユーザーはめんどくさいスね。
渡辺 複数の盗難防止グッズを使うと、発進と駐車の度にロックと解除を行なうため、確かに作業が増えます。それでも盗難時間を長引かせる効果は大きいと思います。
――盗難を防ぐ心構えは?
渡辺 スマートキーを使ったリレーアタックが横行しているので、自宅でキーを保管するときは、金属製の箱など微弱な電波を遮るケースに入れます。GPSを使った車両の追跡装置もありますね。
ただし、アナログのロック装備を併用することも大切です。何よりも「愛車は泥棒から狙われているんだ」という意識を常に持つこと。盗難のプロは、各地域の盗難候補車リストを用意して、ユーザーの使い方にも精通していて盗むタイミングを狙っています。
――では最後に総括を!
渡辺 納期の短縮も重要です。ランドクルーザー300のように受注停止の期間が長引くと、前述のとおり中古車価格を始めとする流通価値が高騰して、盗まれやすくなります。車両の盗難には、いろいろな要素が影響を与えるのです。
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員