"EV最強王者"として世界を席巻してきたテスラだが、今、逆風にさらされているという。急減速の背景には何が? そもそもテスラってどんな会社なの? トヨタと提携していたってマジ? 徹底取材した。
■オートパイロットはレベル2の技術
EV王者が減収減益に悶絶している!
4月23日、米EV大手テスラが衝撃の決算を発表した。それによると、今年1~3月期の世界販売台数は前年同期比8.5%減の約38万台。売り上げは前年同期比9%減の213億100万ドル(約3兆3000億円)。
最終利益は前年同期比55%減の11億2900万ドル(約1700億円)という大幅な減益となった。ちなみに同社にとって減収減益は4年ぶり。
この地獄の決算はテスラの懐にズドンと響いたようで、従業員14万人のうち10%を削減する大リストラを発表! 同社を率いるイーロン・マスクCEOは即座に充電担当部門の幹部と数百人の従業員らに大ナタを振るったという。
とはいえ、昨年の世界新車販売トップに輝いたのは、120万台を記録したモデルYで、テスラも「地球上で最も売れているクルマ」と胸を張っていたはず。
「EVの巨大市場である米国と中国で販売が伸び悩んでおり、テスラは値下げを繰り返していました。要は身を切って手に入れた世界1位の称号なのです」(EV関係者)
ほかにもテスラが抱えている問題はあるという。
「米でのリコール問題はテスラの頭痛の種だと思います」(米の自動車関係者)
昨年12月、自動運転支援システムの誤使用防止機能を追加するため、テスラは米で約203万台を対象にリコールを行なった。この台数は米史上最大級という声も。リコールの引き金はなんなのか。
「テスラの自動運転支援システム『オートパイロット』は自動運転レベル2の技術です。運転の主体がシステムへと移行するレベル4やレベル5の機能ではありません。
ところが、"オートパイロット"という名前のせいなのか、完全自動運転と思い込むドライバーが一定数おり、衝突や死亡事故などが多発していました」(米の自動車関係者)
実は今回のリコール後も事故が発生し、事態を重く見たNHTSA(米運輸省道路交通安全局)は、テスラが適切にリコールを行なったかどうかの捜査を開始したという。
さらに5月8日には、このテスラの運転支援システムに関して、消費者などに誤解を与える詐欺行為の疑いがあるとして、米の検察当局が調査を開始したとロイター通信が報じている。
ちなみにテスラのリコールはまだある。
「2021年にはタッチスクリーン式画面の後方確認用カメラの映像が見られなくなる可能性があるとして、モデルSとモデルX、モデル3の計13万5000台がリコール対象に」(自動車誌幹部)
さらに昨年11月に鳴り物入りで販売開始となった超ド派手な見た目の、サイバートラックも4月にリコール......。
「アクセルペダルのパッドに不具合が見つかり3900台近くの車両がリコールに。ちなみにリコールというのは、無償修理が基本です。テスラは、ほぼ全車がリコール対象になっていますから、その費用の捻出には相当な痛みが伴うはず」(自動車誌幹部)
このリコール問題や販売不振などが絡み合い、今年に入ってテスラ株は40%以上も下落し、乱高下している。
■トヨタと提携の過去を持つテスラ
実は米のフォードやゼネラルモーターズもEV販売に苦しんでおり、好調のハイブリッド車などへと戦略を見直している。一方、テスラを猛追する中国BYDはどうか?
「BYDはテスラと違い、EV専売メーカーではありません。日本ではEVしか売っていませんが、本国などでは、プラグインハイブリッド車の販売がすこぶる好調です」(BYDの販売関係者)
つまり、EVの需要が鈍化傾向の今、テスラを苦しめているのは自縄自縛の"EV一本足打法"というわけだ。
そんなEV専売メーカーのテスラとはどんな歴史を持つ会社なのか? ここからはカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
「テスラは昨年7月1日に創業20周年を迎えました。EVだけでなく、太陽光発電システムなども扱っています」
最初のクルマは08年3月からデリバリー開始となったふたり乗りのオープンスポーツカー、ロードスター。
「ロータスのエリーゼをEV化したクルマです。ちなみにテスラは10年にトヨタ自動車と提携しています。きっかけは、テスラがNUMMI(トヨタとゼネラルモーターズの合弁事業)の跡地の一部を購入したことです」
ほどなくして蜜月関係となった両社は、EVの共同開発などを進めた。
「12年にトヨタとテスラが協業したRAV4 EVが発売されましたが、2年ほどでこの提携プロジェクトは終了しました。ちなみにRAV4 EVの生産総数は2000台以下でした」
テスラの販売が一気に拡大したのは12年に発売したセダンタイプのモデルS。
「モデルSで頭角を現すと、15年にはガルウイングドアのSUV・モデルX、17年には低価格で一世を風靡したセダンのモデル3、20年にはテスラ人気を決定的にした中型タイプのSUV・モデルYが世界を席巻しました」
だが、そんな栄光の時代は今や昔。テスラがどんなに値下げを繰り返しても、販売はいっこうに振るわない。
「単純にテスラ車の購入を希望するユーザーに、ひと通り行き渡ったという話です。テスラの車内を見ればわかりますが、スイッチやメーターがほとんどない。大半をインパネの中央に装着されたタブレット端末のような液晶パネルで操作します。これだとユーザーの好みが分かれる」
■テスラは本当に正念場なのか?
現在、テスラは年間180万台を誇るEVメーカーだが、ここに来て「正念場」という仰々しい言葉を使った報道が相次いでいる。
「マツダの23年度の生産総数は124万台、三菱自動車は101万台ですから、テスラの180万台という数字は急成長といえる。テスラは失速したのではなく、私はようやく安定期に入ったと考えています。
EV推しのメディアがテスラへの期待をあおりにあおったことで、テスラに対する期待や幻想が過剰に膨らんでしまった。そのため、今回のように売れ行きが下降すると、反動が大きくなり、テスラへのマイナスイメージが一気に広がってしまう。
今回の件で、『EVはもう終わりだ!』という論調が浸透すると、脱炭素社会実現を目指す上で大きなマイナスとなる。だからこそ、私は数年前の『エンジンはもう終わりだ!』という負のレッテルを貼るようなEV推しメディアの論調にはNGだったわけです。
技術というのはもっと緩やかにとらえて育てる必要がある。一喜一憂はいけません。昨今のテスラ報道は、貴重な教訓を残しています」
一方で、EVが先進的で珍しい時代にテスラは専門ブランドとして脚光を浴びてきたが、今や世界中の自動車メーカーがEVを扱う時代に突入している。テスラは今後どうなる?
「もはやEVは普通の技術になり専売ブランドの価値は下がっています。従って今後のテスラには、EVの特質を生かした新しい価値が求められる。
例えば17年以前に登録されたテスラ車はスーパーチャージャー(急速充電器)の永久無料キャンペーンを実施していた。この手の付加価値がテスラ生き残りのカギになるでしょう」
巻き返しなるか!?