5月18日から19日、全日本スーパーフォーミュラ(SF)選手権の第2戦がオートポリスインターナショナルレーシングコース(大分県日田市)で開催される。
今シーズンのSFには先月、鈴鹿サーキット(三重県鈴鹿市)で開催された第4戦日本GPのフリー走行1回目にRBから出走し、初めてF1公式セッションにデビューを果たした岩佐歩夢(いわさ・あゆむ)選手が参戦中だ。
昨年までF1直下のカテゴリーであるF2に参戦し、今年から戦いの場を国内に移した22歳は「1年でSFのチャンピオンを獲得してF1参戦を目指す」と公言する。今、F1にもっとも近い男にSFへの意気込みを聞いた。
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■日本GP出走は自分にとって大きなステップ
――日本GPではフリー走行1回目に参加し、F1公式セッションのデビューを果たしました。手ごたえはいかがでしたか?
岩佐 昨年11月にアブダビで開催されたテストでアルファタウリ(RBの前身)のF1マシンをドライブしていますが、日本GPはすごく楽しかったです。これまで鈴鹿で乗ってきたマシンに比べると迫力がありましたし、攻めがいがありました。
プログラム的にも順調に進んだと思いますし、正直、自分が想定していたラップタイムよりも速いタイムで走ることができたので、自分の中でも大きな自信になりました。チームからもかなりいい評価をもらうことができたと思います。
日本のファンの皆さんにたくさん手を振ってもらったなかで、しっかりと走ることができたのはいい思い出になりましたし、自分の中で大きな経験になりました。F1でチャンピオンになるという夢の実現はまだまだこれからですが、ひとついいステップを踏めたのかなと思います。
――今シーズンはSFが活動のメインだと思いますが、RBでF1にはどのように関わっているのですか?
岩佐 RBでは基本的にはシミュレーターのドライブを担当しながら、レースがあるときはファクトリーでサポートをしています。あとアップデートがあるときにシミュレーターでチェックして、マシンの開発にも携わっています。
――現在は日本に拠点を置いているのですか?
岩佐 日本とイギリスの両方にベースを置いています。日本ではトレーナーがいる大阪に拠点を置き、イギリスのレッドブルのファクトリー近くのミルトン・キーンズ近くにもアパートを借りています。基本的にSFのレースを優先しているので、若干日本での生活の方が比率は高いです。
ただイギリスでのシミュレーター作業は1日では終わりません。シミュレーターをした後にミーティングもあるので、向こうに行くときは少なくとも1週間は滞在しています。日本に帰ってきてレースやトレーニングをして、また向こうでシミュレーターに乗ってという生活を繰り返しています。
――日本GPが行なわれた鈴鹿サーキットでF1マシンを走らせましたが、SFとの違いを教えてください。今年3月末に鈴鹿で開催されたSFの開幕戦では、岩佐選手の予選でのベストタイムは1分36秒台の中盤です。
岩佐 高速コーナー、例えばS字区間などはF1が異次元かと言われれば、正直そこまでの差はなかったですね。SFと同じような感覚で走っていたのですが、ピットに帰ってきてラップタイムを見てみると、そこそこのタイム(1分32秒055)が出ていました。高速コーナーに関しては、F1もSFもそれほど変わらないのかなあと感じました。
ただSFは若干ダウンフォースの乱れがあって、挙動に不安定なところがあります。それに対してF1は、マシンの安定感や限界値が高いので、攻めているときの安心感はF1の方があります。低速コーナーに関しては、僕が昨年まで乗っていたF2とSFは似ていると思います。SFはF1に比べると、低速コーナーは遅いですね。
■SFはドライバーの判断で結果が変わってしまう
――岩佐選手が日本でレースをするのは2019年以来です。その後はずっとヨーロッパで戦っていますが、日本とヨーロッパのレースを経験して、何か違いを感じることがありますか?
岩佐 まだ自分自身クリアになっていない部分があるのですが、レースの進め方に関して、細かい違いがありますね。例えばF1やF2などのヨーロッパのレースはオンとオフがはっきりしています。
レーシングスーツに着替えてマシンに乗り込むまでは本当にこれからセッションが始まるのかなあというぐらい、チーム全体がリラックスした雰囲気なんです。F2や日本GPのときのRBもそうでした。
対して、日本ではエンジニアがずっと集中してデータを分析していて、ガレージの中は週末を通して常に緊張感があります。F1やF2は走る直前にピリっとする。そういうアプローチの違いはありますが、環境の違いに戸惑うことなく、すんなり対応できています。
――ほかにF2とSFで何か違いを感じることはありますか?
岩佐 F2はドライバーの入れ替わりが激しいですし、中には下位カテゴリーから参戦してきたばかりの経験の少ない若い選手もいますが、みんな少しでも早く結果を出してステップアップしようという血気盛んなドライバーばかりなので、スタート直後のポジション争いでクラッシュが発生したり、荒れたレース展開になることもあります。
その点、SFはドライバーの入れ替えが少ないですし、ベテラン選手が多いので、安定したレース展開になると思います。
――以前のインタビューでも、岩佐選手はさまざまなことを冷静に分析して、論理的にアプローチするのが得意で自分の強みだと話していました。SFの開幕戦は9位という結果に終わりましたが、日本でもヨーロッパと同じようにできていますか?
岩佐 そうですね。マシンのセットアップを詰めて行くときにはドライバーとエンジニアが話しながら決めていくのですが、F2に比べると、ドライバーの意見を尊重する度合いはSFのほうが明らかに高いですね。SFはドライバーのコメントひとつで、マシンも結果も大きく変わる可能性が高いです。
SFの開幕戦で結果を出せなかった理由のひとつは、まさに僕の判断ミスでエンジニアに伝えるコメントが間違っていたからです。マシンのフィードバックは正しくできていたとは思いますが、SFではまだ経験値が少ないためにコンディションの変化を読むことができず、セットアップを詰めることができませんでした。
僕の経験不足をエンジニアが補ってアジャストをしてくれたのですが、それでもうまく詰められなかった。対してチームメイトの野尻(智紀)さんは経験値が豊富で判断が的確でした。そこで僕と大きな差が出てしまいました(野尻選手は予選3番手から優勝)。
もちろん結果は納得できるものではないですが、僕としてはむしろ自信になったレースでもありました。決勝のペースは悪くなかったですし、次戦以降に向けてエンジニアを含めたチームとこうすれば勝てるよね、という発見がありました。そこを形にして、オートポリスではきちんと結果を出したいです。
■今年SFでタイトルを取ってF1を目指したい
――岩佐選手の前にSFのTEAM MUGENに在籍していたリアム・ローソン選手は参戦初年度にチャンピオン争いをして、現在はレッドブルとRBのリザーブドライバーを務めています。同じように岩佐選手もSFは1年で卒業し、F1に戻りたいと考えているのですか?
岩佐 開幕前からそういう目標を立てていたので、変わっていません。今シーズン、SFのチャンピオンを獲得してF1のシートをつかみたいと思っています。
――昨年秋の日本GPで話を聞いたときには「日本にこんなにも僕を応援してくれる方がいるとは思ってなかった」と驚いていましたが、今年は日本ファンの大声援を受けてFP1を走りました。早くレギュラードライバーとして鈴鹿でF1マシンを走らせたいと決意を新たにしたのではないですか?
岩佐 そうですね。今回、フリー走行とはいえ、母国のファンの方の前で走ることができて自分としても興奮しました。今度はレギュラードライバーとしてF1マシンを走らせたいです。その夢を実現させるためにはSFで結果を出さなければなりません。オートポリスは走ったことのないサーキットで経験値ゼロからのチャレンジですが、しっかり戦って優勝を狙います!
●岩佐歩夢(いわさ・あゆむ)
2001年9月22日生まれ。4歳からカートに乗り始め、ホンダ・レーシング・スクール・鈴鹿(HRS)の前身となる鈴鹿サーキットレーシングスクール フォーミュラを首席で卒業しスカラシップを獲得。Hondaフォーミュラ・ドリーム・プロジェクト(HFDP)より2020年にフランスF4選手権に参戦し、チャンピオンを獲得。翌21年からはRed Bullの育成プログラム「レッドブル・ジュニアチーム」にも加入し、FIA-F3選手権に参戦。2022年はFIA-F2選手権に昇格し、デビューイヤーに2勝を挙げ、ランキング5位。昨シーズンは3勝でランキング4位。今シーズンはTEAM MUGENからSFに参戦する。