マイアミGPでF1初優勝を飾ったマクラーレンのノリス選手。2019年のデビュー以降、表彰台には何度も上がっており高く評価されていたが、これまで優勝には縁がなかった。マクラーレンにとっては2021年イタリアGP以来の優勝となった マイアミGPでF1初優勝を飾ったマクラーレンのノリス選手。2019年のデビュー以降、表彰台には何度も上がっており高く評価されていたが、これまで優勝には縁がなかった。マクラーレンにとっては2021年イタリアGP以来の優勝となった

連載【堂本光一 コンマ一秒の恍惚Web】RACE7

第6戦マイアミGPでマクラーレンのランド・ノリスがF1参戦110戦目にして初優勝を飾った。レッドブルのマックス・フェルスタッペンは2位に終わったものの、チャンピオン争いではライバルに大きな差をつけている。

しかしレッドブルはマシンの設計を手掛ける最高技術責任者のエイドリアン・ニューウェイの離脱が発表され、チームの将来に暗雲が垂れ込めている。

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■デビュー6年目のノリス選手が110戦目の初優勝

今シーズンもアメリカで3回のGPが開催されますが、最初のレースとなった第6戦のマイアミGPには大勢の観客が入っていて、盛り上がっていました。中継映像には、たくさんのセレブリティやドナルド・トランプ前大統領の姿も映っていましたね。

レースを制したのはマクラーレンのランド・ノリス選手でした。ケビン・マグヌッセン選手との接触でローガン・サージェント選手がクラッシュしたことでセーフティカー(SC)が出動。そのタイミングがラッキーだったということもありますが、マイアミで投入されたアップデートが効果を発揮したのか、マクラーレンはすごく速かった。

そのマクラーレンは昨年、シーズン中に行なったマシン開発が功を奏して競争力を取り戻しました。開幕当初こそ最後尾グループに甘んじていましたが、中盤戦以降は表彰台争いに加わってきた。それを彷彿とさせるように、今年もやっぱり巻き返してきましたね。

現在24歳のノリス選手はF1デビュー6年目にして念願の初優勝を達成しました。ノリス選手はマイアミ前の第5戦中国GPで2位になっていて、表彰台には15回も上がっています。速さは申し分ないドライバーでしたが、優勝にはなかなか手が届かなかった。

110戦目にしての初優勝は、F1で史上8番目に遅い記録だといいます。過去にチャンピオンに輝いたジェンソン・バトン選手は113戦、ニコ・ロズベルグ選手は111戦もかかっています。一度優勝したドライバーは自信をつけて大きく成長し、ポンポンと勝ち続けることがあります。これからのノリス選手の走りに注目ですね。

クルマの純粋な速さではレッドブルがまだ上回っていると思いますが、その差は確実に縮まっています。しかもマイアミではフェラーリも悪くなかった。王者レッドブルを追いかけるマクラーレンとフェラーリが元気よくなってきたので、ヨーロッパラウンドに向けてのレースが、楽しみになってきました。

■角田選手の7位入賞はラッキーだけじゃない

マイマミGPではRBの角田裕毅(つのだ・ゆうき)選手が7位に入賞しました。決勝前日に行なわれたスプリントレースでも8位に入賞し、ドライバーズランキングで10位に浮上しています。RBの戦闘力を考えると、トップグループの一角を形成するアストンマーティンのランス・ストロール選手を上回る成績を残しているのは、本当にすごいことだと思います。

角田選手は優勝したノリス選手と同様、マイアミGPでは最初のピットストップを引っ張る作戦をとっていて、SCが入ったタイミングをうまく利用してタイヤ交換にこぎつけた。その結果、ポジションを上げることに成功し、7位入賞を手にすることができました。

マイアミのレース中、僕は角田選手のラップタイムをライブタイミングで追っていましたが、SCが入る前までは八方塞がりの状況に陥っているように見えました。ポジション争いをしていたハースのニコ・ヒュルケンベル選手などはタイヤの劣化前に早めにピットインしてタイムをかせぐ"アンダーカット"の作戦をとっていた。

そんな中で角田選手はタイヤをセーブしつつも、フレッシュなタイヤを装着したドライバーたちと同等のペースで頑張っていました。

SCが入ったタイミングでピットインしてタイヤ交換をできたのはラッキーだったと思いますが、戦いの舞台となったマイアミ・インターナショナル・オートドロームはコース幅が狭く、何かアクシデントが発生するとSCが入る可能性のあるサーキット。

チームとしてはピットインを遅らせている間のSC導入は想定していたはず。その作戦がうまくハマったということだと思いますし、マイアミに持ち込んだアップデートもしっかりと機能していたのだと思います。

SC終了後も、角田選手はメルセデスのジョージ・ラッセル選手やアストンマーティンのフェルナンド・アロンソ選手を抑えてレースを終えています。それにスプリントレースではRBのチームメイト、ダニエル・リカルド選手が4位に入っていますから、クルマの開発が確実にいい方向に進んでいる証拠ではないでしょうか。

■王者レッドブルの未来に暗雲か

開幕からの6戦中4勝を挙げ、今シーズンもチャンピオン争いをリードするレッドブルですが、長年マシン開発を主導してきたチーフテクニカルオフィサーのエイドリアン・ニューウェイ氏が、2025年の第1四半期限りでチームを離脱すると発表しました。

レッドブル離脱が決まったニューウェイ氏について。「個人的には古巣のひとつ、ウイリアムズでマシンを手掛けてほしい。近年、低迷するウイリアムズをもう一度トップチームに返り咲かせてくれたら......」(光一) レッドブル離脱が決まったニューウェイ氏について。「個人的には古巣のひとつ、ウイリアムズでマシンを手掛けてほしい。近年、低迷するウイリアムズをもう一度トップチームに返り咲かせてくれたら......」(光一)

ニューウェイ氏はこれまでウイリアムズ、マクラーレンなどでデザイナーを務め、2006年からレッドブルに加入。これまで7度のドライバーズタイトル、6度のコンストラクターズタイトルの獲得に貢献しています。いわばマシン開発の大きな"柱"。レッドブルがニューウェイ氏を失う代償は小さくないと思います。チームの先行きは不透明です。

また、ホンダとのパートナーシップも25年シーズン限りで終了し、レッドブルは26年から自社でパワーユニット(PU)を開発・製造することになっています。でも、経験のないレッドブルがいきなり高い競争力を持ったPUを作ることができるのか、という見方もありますし、ニューウェイ氏のほかにも主要スタッフの人材流出の噂も出ています。

F1の世界はレギュレーションの変更、ドライバーや主要スタッフの移籍で一気に勢力図が変わってしまうことがある。

レッドブルの将来の鍵を握るのはフェルスタッペン選手かもしれません。彼は2028年までの長期契約がありますが、何が起こるかわからないのがF1ですし、フェルスタッペン選手が優勝を狙えないマシンで走り続けるとは思えません。現行のレギュレーションが続く25年まではレッドブルに残ると思いますが、それ以降はわかりません。

今年のストーブリーグは動きが早く、ルイス・ハミルトン選手が25年からフェラーリに移籍することが決定し、アロンソ選手はアストンマーティンと複数年の契約を交わしました。また、ニコ・ヒュルケンベルグ選手は26年からアウディとして参戦するザウバーに来シーズンから移籍するなど、次々とシートが決まっています。

一方、フェラーリを離れるカルロス・サインツ選手の移籍先がまだ決まっていません。またニューウェイ氏がどこに行くのかもストーブリーグに大きな影響を与えるでしょう。ニューウェイ氏の移籍先としてアストンマーティン、フェラーリ、メルセデスなどの名前が挙がっていますが、"ニューウェイがいるチームで走りたい"と思っているドライバーはたくさんいるはずです。

角田選手の動向も気になります。レッドブル陣営に残ることがベストの選択なのか? レッドブルと技術提携するRBにしても、ニューウェイ氏の離脱の影響を少なからず受けるでしょうし、25年シーズン限りでホンダとも袂を分かつことになります。

RBの先行きは不透明です。角田選手には26年からホンダと組むアストンマーティンに加入して、アロンソ選手とコンビを組んでもらえたらいいですね。"アロンソ先生"のもとで学んで、さらに成長する角田選手の姿を見たい!

来年以降の話も気になるところですが、次戦からいよいよヨーロッパラウンドがスタートします。その緒戦はイタリアのイモラ・サーキットで開催されるエミリオ・ロマーニャGP(決勝5月19日)。地元フェラーリはマシンの大型アップデートを予定しています。

マイアミの優勝で勢いに乗るマクラーレンとフェラーリがレッドブルを相手にどんな戦いを見せてくれるのか。昨年は豪雨の影響でエミリオ・ロマーニャGPは中止になっており、各チームはデータが少なく不確定要素が多いので、面白いレースになると期待しています。

☆取材こぼれ話☆

マイアミGPは、現地では5月5日(日)の夕方に行われたが、日本では時差の関係で5月6日(月)の午前5時のスタートとなった。

「帝国劇場で主演を務めるミュージカル『Endless SHOCK』を上演中ですが、マイアミのレースはライブで見ました。5月6日は休演日でしたが、オーナー役が(前田)美波里さんから(島田)歌穂さんに代わるため、本編とスピンオフ版の両方の通し稽古がありました。

休演日とはいえ2回公演(13:00 開演 と18:00 開演)がある日と同じスケジュールで動く必要があったので、朝5時の決勝スタート前に少し寝て、レースをライブで見て、また少し寝て、通し稽古に臨みました。

肉体的にはちょっと大変でしたが、ノリス選手の初優勝や角田選手が7位に入賞するという、いいシーンを見ることができたので、最高の気分転換になりました」

スタイリング/渡邊奈央(Creative GUILD) 衣装協力/AKM ヘア&メイク/大平真輝)

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堂本光一

堂本光一Koichi DOMOTO

1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバー、中嶋悟氏がデビューした87年頃からF1のファンに。2023年12月にKinKi Kids17枚目のアルバム「P album」、47枚目のシングル「シュレーディンガー」をリリース。主演ミュージカル『Endless SHOCK』の最終公演が、11月に東京・帝国劇場にて上演予定。
公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】

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