過去最高の販売台数を記録した中国の自動車メーカー「BYD」。北京モーターショー2024では日本を含め世界を震撼させるクルマを披露したという...... 過去最高の販売台数を記録した中国の自動車メーカー「BYD」。北京モーターショー2024では日本を含め世界を震撼させるクルマを披露したという......

EV販売の失速により、世界中の自動車メーカーが戦略を修正している中、今、大きな注目を集めているのが、プラグインハイブリッド車である。なぜ世界が沸いているの? ハイブリッド車と何が違う? というわけで最前線を取材!

■中国BYDがブチカマした価格破壊

市場の成長鈍化にもがき苦しむEVを尻目に躍進を遂げているのが、"脱炭素の現実解"と呼ばれるPHEV(プラグインハイブリッド自動車)。

ザックリ言うとPHEVとは充電可能なハイブリッド車で、近場ではEVとして活用でき、遠出はハイブリッド走行が楽しめる。電欠の心配もなく、環境性能にも優れている。ただし、普段使いをほぼEVモードで賄えるため、ガソリンの劣化が玉にきず。

この現実的な使い勝手の良さが消費者に刺さり始め、昨年のPHEVの世界販売台数は約392万台(前年比46%増)を記録。だが、PHEVが脚光を浴びている最大の理由は昨年の中国最大手のBYDの販売台数にある。

過去最高の302万台を記録したのだが、その半分弱の143万台(前年比52%増)がPHEVだったのだ。ちなみにBYDは2008年に世界初の量産PHEVを開発した先駆者でもある。

BYDはPHEVに本腰を入れており、5月4日まで中国・北京で開催された北京モーターショー2024で2台のPHEVを披露。実はそのうちの1台(秦〈Qin〉PLUS DM-i)が世界に衝撃を与えた。

なんと価格が約160万円(7万9800元)だったからだ。日本市場だと軽の価格で、この投げ売りのようなぶっ飛びプライスに、メディアやSNSには、「日本車キラー登場」とか

「中国市場から日本車が駆逐される」という声も。

ちなみにBYD自慢のPHEVは、昨年10月に開催されたJMS(ジャパンモビリティショー)2023にも出展されている。ガチ系SUVのボディに約1100馬力をブチ込んだ、まさに怪物PHEVだったが、そもそもBYDは日本ではEVしか扱っていない。週プレはJMSの現場で、なぜ未導入のPHEVを披露したのかを聞いた。

「BYDにどんな商品があるのかを日本の皆さまに知ってもらうためです」(BYD)

BYDの高級ブランドがブッ放したU8はSUVタイプのPHEV。その場で360度回転し、水上航行も可能な無双カー BYDの高級ブランドがブッ放したU8はSUVタイプのPHEV。その場で360度回転し、水上航行も可能な無双カー

逆に言えば、日本市場の反応を見る、いわば観測気球のようなもの。BYDが日本市場に舌舐めずりしているのは確かだ。このBYDの二刀流殺法により追い込まれているのはほかでもない、EV最強王者の米テスラだ。

「テスラは値下げを繰り返してもEV販売が振るわず、今年1~3月期の決算は減収減益となり大リストラを敢行。加えてリコール問題も深刻化しています。そんなテスラの頼みの綱が巨大EV市場を持つ中国。

事実、テスラを率いるイーロン・マスクCEOは、4月28日に中国を電撃訪問し、李強首相と会談しました。しかし、中国もEVは頭打ち。販売に勢いがあるのはPHEVで、"EV専売のテスラ"が存在感を示せるかは不透明な状況です」(中国EV関係者)

実はEVシフトを声高に叫んでいた欧州勢もシッカリPHEVを用意している。3月には世界累計販売台数1600万台を誇る独メルセデス・ベンツの新型EクラスがPHEVを引っ提げニッポンに上陸。てっきりメルセデス・ベンツはEV推しと思っていたが......。

「第8世代となった新型Eクラスにはディーゼルターボ+マイルドハイブリッド、ガソリンターボ+マイルドハイブリッド、そしてPHEVをご用意しています。ちなみに昨年12月からCクラスにもPHEVを設定し、お客さまからご好評をいただいております」(販売店関係者)

メルセデス・ベンツの新型Eクラスに設定されたPHEV、E350eスポーツエディションスター。価格は988万円 メルセデス・ベンツの新型Eクラスに設定されたPHEV、E350eスポーツエディションスター。価格は988万円

メルセデス以外にも、BMWにステランティスグループ、ポルシェなども日本でPHEVを販売している。

さらにイタリアの高級スーパーカーブランド、ランボルギーニも4月24日にPHEVの高性能SUV、ウルスSEを電撃発表。4LV8ツインターボエンジン+モーターの最高出力は800馬力で、最高速度は新幹線級の時速312キロ。まさに"ランボ流のエコカー"である。

ランボルギーニのSUVウルスに800馬力のPHEV版が登場。価格は未発表だが、時速100キロ到達は3.4秒!! ランボルギーニのSUVウルスに800馬力のPHEV版が登場。価格は未発表だが、時速100キロ到達は3.4秒!!

■EVのパイオニア、三菱が放ったPHEV

対するニッポン勢の筆頭はどれか? 多くの専門家が太鼓判を押したのが三菱自動車のアウトランダーPHEV。同社広報部によると、13年発売の先代モデルからの世界累計販売台数は約36万3000台。

販売主要国はカナダ、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランド、メキシコ、プエルトリコ、フィリピンなど。国内の販売も好調で、23年度は約500万円台スタートの価格ながら1万1645台(前年比68.3%増)をマーク。

「もちろん、エコカー補助金や減税は販売の追い風のひとつです。しかし、当たり前の話ですが、魅力のあるクルマでなければ目の肥えた日本市場では勝ち抜けません。ちなみにアウトランダーPHEVは、海外ブランド車と比較検討されるお客さまが多いです」(販売店関係者)

充電と給油がフルなら一般家庭の12日分の電気量を賄えるアウトランダーPHEV。価格は499万5100~630万4100円 充電と給油がフルなら一般家庭の12日分の電気量を賄えるアウトランダーPHEV。価格は499万5100~630万4100円

現行モデルが発売されたのは21年12月。9年ぶりのフルチェンで2代目となったアウトランダーPHEVの試乗会は同年10月に千葉県にあるサーキットで行なわれた。2t超のワガママボディを持つエコカーのSUVが、磨き抜かれた電動技術と四駆技術によりスポーツカーのごとく爽快に走り、ひらりと曲がる。

しかもEV走行のWLTCモードは87㎞、ハイブリッド走行を含めた航続距離は1000㎞超! 内装も海外ブランド顔負け。

クルマに文句はなかったが、週プレはモヤモヤしていた。なぜなら三菱は09年7月に世界初の量産型軽EV、アイミーブを世に送り出したパイオニアだ。三菱の技術力ならばEVを世に送り出す壁は決して高くないはず。

なのに、なぜPHEVなのか? この試乗会で開発陣のひとりにそんな質問をぶつけると、彼は笑顔でこう言った。

「製造、使用、廃棄、再利用までのライフサイクル全体で見ると、PHEVはCO2の排出量が少なく、環境負荷も低い。アウトランダーPHEVは、カーボンニュートラル時代の最適解です」

EVのパイオニアが口にしたこの言葉は2年半が経過した今、きらりと光っている。

■トヨタとマツダもPHEVを用意

昨年、世界で14万台のPHEVを売ったのがトヨタ。日本市場にはハリアー、RAV4、プリウスにPHEVを設定。また、トヨタの高級ブランドであるレクサスにも2車種を用意。注目は昨年12月19日に発売となった新型クラウンスポーツのPHEV。

WLTCモードで、EVの走行距離は90㎞、ハイブリッド走行を含めた航続距離は1200㎞以上を誇る。

23年度決算で営業利益5兆円超えを達成したトヨタ。この会見で佐藤恒治社長(中央)はPHEV開発へ注力すると言及 23年度決算で営業利益5兆円超えを達成したトヨタ。この会見で佐藤恒治社長(中央)はPHEV開発へ注力すると言及

クラウンスポーツのPHEVは全長4720㎜×全幅1880㎜×全高1570㎜。車重は2030㎏。エンジンは2.5L。価格は765万円 クラウンスポーツのPHEVは全長4720㎜×全幅1880㎜×全高1570㎜。車重は2030㎏。エンジンは2.5L。価格は765万円

好調マツダもMX-30とCX-60にPHEVを設定している。

品ぞろえが進む日本勢だが、油断はできないようだ。自動車メーカーの関係者が言う。

「実は欧米の販売店からは『EVやハイブリッドよりも、PHEVは使い勝手がいい』という引き合いが多い。PHEV市場は性能や価格面などの競争が過熱し始めており、各社の動きも加速している」

すでに世界PHEV戦争の火ぶたは切られているわけだ。ニッポン勢よ、この動きに乗り遅れるな!

昨年度の決算で過去最高の売上高を記録したマツダ自慢のMX-30ロータリーEV。価格423万5000~478万5000円 昨年度の決算で過去最高の売上高を記録したマツダ自慢のMX-30ロータリーEV。価格423万5000~478万5000円

写真提供/メルセデス・ベンツ日本 ランボルギーニ・ジャパン 三菱自動車 トヨタ自動車 マツダ