渡辺陽一郎わたなべ・よういちろう
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
昨年7月に爆誕した8代目5シリーズは、BMWの屋台骨を支える大黒柱カー。そんな新型はどこがどう変わったの? 気になった点はどこ? 公道試乗をブチカマしたカーライフジャーナリストの渡辺陽一郎氏が特濃解説する!!
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――最近のBMWってSUVが目立っていませんか?
渡辺 SUVは世界的に人気のカテゴリーなので、BMWも豊富に用意しています。そのためBMWの販売は堅調で、昨年の輸入車販売ランキングでは、メルセデス・ベンツに次ぐ2位でした。
しかし伝統のセダンも健在です。特に注目なのが昨年7年ぶりにフルモデルチェンジされた8代目5シリーズです。というわけで今回は、5シリーズの523iエクスクルーシブを試乗しました。
――5シリーズってどんな歴史を持つクルマでしたっけ?
渡辺 日本で人気の3シリーズよりも上級に位置しており、メルセデス・ベンツのEクラスに相当します。初代5シリーズは1972年に発売され、1980年代に売られた2代目までは、5ナンバー車も選べました。ボディサイズが適度で、日本の曲がりくねった峠道でも運転しやすい楽しいクルマでした。
――現行型はどうです?
渡辺 3代目以降はボディを拡大させ、現行の8代目は全長が5060㎜で全幅は1900㎜です。最小回転半径は5.7m以上です。
――魅惑のデカボディだと。
渡辺 もちろんメリットもあって、今の5シリーズは昔と違ってホイールベース(前輪と後輪の間隔)は約3mもあるので後席が広い。海外ではオーナーが後席に座る用途にも使われているクルマです。
――そういう使われ方をするクルマだと運転は退屈?
渡辺 これが意外に楽しい。車両重量が約1.8tもあるのに軽快に走る。高速道路の直進安定性が優れ、峠道に入ってもボディは大柄ですが機敏に曲がります。下り坂のカーブで危険を避けるときも、後輪を中心にタイヤの接地性が高いので不安にさせません。
――気になる動力性能は?
渡辺 523iのエンジンは、2リットル直列4気筒ターボにマイルドハイブリッドを装着。決してパワフルではありませんが、実用回転域の駆動力に余裕があり扱いやすい。
――動力性能は物足りない?
渡辺 個人的には懐かしい感じでした。先ほど話をした5シリーズが5ナンバーサイズだった頃のドイツ車は、性能がおとなしいエンジンに、優れた走行安定性と乗り心地を組み合わせていました。足回りがパワーに勝るクルマが多く、安全性が優れ、エンジン性能をフルに引き出す楽しさも味わえました。
523iにはそれを感じます。ターボのブースト圧(過給圧)をむやみに高め、フロントマスクをド派手に飾ったドイツ車は賢そうには見えません。523iのようなグレードにこそ、BMWの本質が宿ります。
――ズバリ、激推しカー?
渡辺 そこは微妙です。5シリーズは確かに優れたクルマですが、中古車市場の人気と数年後の売却額が高くない。そうなる理由は、まずボディサイズです。ドイツ車は都市部で売れている。つまり、マンションなどの集合住宅に住む顧客が多いわけです。
――ふむふむ。
渡辺 ですが、全長が5m、全幅が1.9mの5シリーズだと集合住宅の立体駐車場に入らない可能性もある。加えて、5シリーズはボディが大柄な割に、外観が弟分の3シリーズに似ていて、高そうなクルマには見えないので、中古車を求めるユーザーも限られて高値では売りにくい。
――なるほど。
渡辺 ただし、外観は控えめでパワーも必要にして十分。その上で走行安定性と乗り心地が熟成されたLサイズセダンが欲しい人が購入すれば、廃車まで乗り続けたいと思わせる逸品です。ホレた相手と一緒になるのに、別れるときの価値なんて考えませんよ。
昨秋に開催されたJMS(ジャパンモビリティショー)2023でBMWが公開した試作EVセダン「ビジョン・ノイエ・クラッセ」。ノイエ・クラッセとは、1961年にBMWが発表した5シリーズの前身となったモデルの名称。ちなみにビジョン・ノイエ・クラッセは2025年に市販予定。このまんまの姿で出てこいやー!
カーライフジャーナリスト。自動車専門誌『月刊くるま選び』(アポロ出版)の編集長を10年務めた"クルマ購入の神様"&"令和のご意見番"。執筆媒体多数。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員